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プロローグ


 目の前でお爺さんがゾンビの頭を次々と粉砕している。

ほんの数時間前、俺はリビングで昼間からビールを飲みながら、息子がテレビゲームをしているのをぼーっと見ていた。

どうしてこうなった?


 国民的大ヒットRPG『トカゲンクエスト』略してトカクエ。

小中高と新作が出ればクラス中の話題はトカクエ一色。

幾度と知れず邪悪な魔王から世界を救い、特に悪い事をしていないのではないかと思われる裏ボスまで倒して世界を平和にしてきた。


 しかし大学生になるとバイト、サークル、恋愛、飲み会、就活と日々忙しくなり、いつしかトカクエの新作が出ても世界に平和は訪れなくなった。


 鋼の剣を購入する頃、それは序盤が終わり、物語に広がりが出始め、モンスターも一筋縄では倒せなくなり、小さな箱庭の様だった世界が広がっていくタイミングで、数百万いる他のご家庭の勇者に世界の救済を託しプレイを止めるようになった。


 面倒臭くなるのだ。

俺は忙しい、そんなときに単純作業の雑魚狩りを繰り返して金や経験値を貯蓄していく暇はないのだ。

ゲーム機の進化に伴い、より複雑な世界や物語が描かれるが、久々に予定が無い日に2週間振りに冒険を再開してみると、少年の頃の様にデータが消えることは無いが、俺の脳内メモリからは冒険の書が消えているのだ。


 何をすれば良いんだっけ?

しかし、トカクエ側もそんなダメ勇者は既に織り込み済みである。

現在までのあらすじ機能が用意されているのだ。

だが、甘い!

こちとら横文字の街の名前や重要人物に聞き覚えが無いのだ!


 こんな調子で社会人になり、必死で働き、段々と一人前になり、結婚して子供が出来て、ローンで家を買った。


 子供が生まれてすぐに保育園の定数確保サバイバル『保活戦争』に明け暮れ、ふと気付けば二人目の子供が出来て、保育園のお遊戯会って何で平日なの!? とか、あーもう端午の節句の用意だーとか、七五三だー小学校入学だー家族旅行だー中学受験だー等々大忙しだった。


 仕事の面では日々の無茶振りをこなしつつ、失敗を繰り返しながらも成長し、やっと自分が管理職になった頃にはライフワークバランスとかウェルビーイングとか若手に優しい世界が急に到来していた。新人は育つ者から、導いて育てる者に代わり、キャリアプランという未知の概念でこっちの計画や掛けた労力など気にも留めず、部下達は戦略的に転職していく。


 そんなこんなで色々疲れてしまった42歳のオジサンは今、自宅のリビングで息子にせがまれて買い与えた最新のゲーム機を眺めている。


 目がチカチカする。


 俺の子供の頃のゲームは処理落ちしてキャラクターがチカチカしていたが、今のゲームはエフェクトが凄くてチカチカする。

ボタンも多いし、それRPGですか? という手つきで操作している。


 急な仕事の都合でお盆休みが一週間ずれたため、今年の旅行はお流れに。

妻と娘は仲良し母娘で、この猛暑の中、日焼け止めを塗りたくってお外でショッピング中だ。

俺とゲームに熱中する16歳の息子の間には特に共通する話題もなく、冷房の効いたリビングで缶ビールを飲みながらぼーっと画面を見ている。


 夏休みって長いと思ってるじゃん?

でも一月チョイなんて働いてれば一瞬で経っちゃうんだぜ、などと思いながらビールの缶を次々と開けていく。


「おい息子よ、トカクエって知ってるか?」

「そりゃ常識でしょ。」

 お、共通の話題見っけ。

「今何作目が出てるの?」

「16が冬に出るよ。」

「16!? 俺やってたの3とか4だよ?」

「マジ生きた化石じゃん。でも俺も3やってるよ。」

「ん? どゆこと?」

「レトロゲーってタダでやれんだよ。」


 息子が画面を切り替えると懐かしき少年時代のトカクエ、ではなく高校位でやったリメイク版が始まる。

 リメイクがレトロと言われてしまうと、俺の少年時代のトカクエは歴史遺産なのか?

「これはこれで変わらぬ面白さがある。」

好青年な見た目に反してオタク気質のある息子が懐かしきトカクエ3の世界で冒険を再開したその時、テレビ画面が発光し画面から女性の手が這い出て来た。


「貞〇だー!!」とテンパる親父42歳。

「なんだテメーは!」と手に蹴りを入れる肉体派ゲーマー16歳。

 若いって凄いなと思いつつ、伸びてくる手に捕まれ二人ともテレビの中に引きずり込まれたのだった。


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