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鉄と蒸気と生きる意味(仮)  作者: Jelly Fish Satellite
9/12

静かに闘う爺は大体カッコいい。

旅中の描写って難しいんすね。

 アルデンを出発してから2日、道中で一度野宿をして、中継の町ハビロに到着した。

 途中何度かモンスターの襲撃があったが、ニヴルファルが一刀の元に全て斬り伏せていた。


「やっと中継の町か…」


 ここまでで2日、ハビロで一泊した後に、更に3日を掛けて漸く王都だ。


「ご苦労だったキタミ殿、疲れただろう?私は知人へ挨拶に行ってくる。先に宿へ行っていても良いが?」


「え?いやいや、一応護衛も任務ですから…邪魔で無ければご一緒させて頂きますよ」


 カシニーナは知人に会いに行くと言うので、付いて行く事にする。お邪魔かもしれないけど、一応護衛なのだから離れる時間は短い方が良いだろう。


 先導して歩くカシニーナは、町の路地に進んで行く。

暫くして瓶の印が描かれたボロ小屋の様な店に入って行く。


「久し振りだな、ママ・マルタ」


「なんだい、おてんば娘じゃないか……遂に嫁の貰い手が出来たのかい?」


 そう言ってマルタと呼ばれた老婆が、ジロジロとキタミを眺める。なんと言うか、魔女の大窯混ぜてそうな雰囲気してるな。


「な?!ち、ちがう!今日は仕事でだな!」


 マルタはカッカッと笑うと手をひらひらと揺らす。


「冗談さね、慌てるんじゃないよ…それで、仕事ってのは?あたしに関係する事かい?」


「いや、詳しくは言えないが、王都に用があってな、そのついでに挨拶に来たんだ」


 カシニーナは、アルデンや今までの道中で見たどの時よりもリラックスした顔をしていた。

 本当に仲良くしている人なのかもな。


「あ、どうもはじめまして。キタミと申します、この2人は自分の従者でニヴルファルとダレルです」


 軽く会釈しながら自己紹介をするキタミに続き、2人もそれぞれ礼をする。マルタはキタミ達の挨拶に軽く手を挙げて答えると、軽い自己紹介をしてくれる。


「どうも、あたしゃハビロの薬師マルタだ。まぁみんなにはママ・マルタなんて呼ばれてるが、好きに呼びな」


 その後、一頻り(ひとしきり)カシニーナとマルタは会話をして一息ついた頃、マルタがキタミに手招きをする。


「なあアンタ、あたしゃ簡単な占いなんかもやってるんだが、どうだい…占われて見ないかい?」


 占いか…興味はあるけど、どんな占いなんだろう。

それに急に占いとか言い出すと、何だか良く無い物を感じてるんじゃ無いかと思ってしまう。


「あ、それじゃあ」

「ならこっちに来な、そこの部屋でやるよ…アンタ達はそこで待ってな、占いってのは一対一でやるもんだ」


 そう言ってマルタは、カシニーナ達に手を向けて止めると、自分はさっさと指定した部屋に入っていってしまった。

取り敢えずキタミは2人にカシニーナの護衛を任せ、マルタに続いて部屋に入る。


 部屋に入ると、簡素な机が1つ中央に置かれ、その机を挟むように椅子が2つ置いてある。マルタは既に奥の椅子に座っていた。


 キタミは空いている椅子に腰掛けると、マルタの顔を見る。なにやら難しそうな顔をしている。


「あんた…この世界のもんじゃないね…?」

「な?!え?なんで?!」


 唐突に投げ込まれた爆弾に、取り繕う事も忘れて慌ててしまった。


「落ち着きな、その身体は完全にこっちの世に定着しきってる、今更どうこう出来るもんでも無いよ」


 そう言ってマルタはキタミを制すると、懐から鼻掛け眼鏡を取り出して掛ける。


「あの、どういう…?」

「魔力が揺らいでるのさ…魔力とはその者の魂と直結している、それが揺らぐと言うのは…死にかけてるのか、黄泉帰った不死者(アンデッド)かのどちらかだよ…なのにアンタはピンピンしてる」


「魔力が、見えるんですか?」


「多少だがね、見えるよ。所でアンタ、最近何か飲んだか食べたかしてぶっ倒れなかったかい?」


「え…?」


 思い出されるのは、最初にマンゴー(仮)を食べた時の事だ。確かにぶっ倒れた。


「はい、確かに一度だけ…」


「それはね、アンタの身体がこの世の魔力に適応する為に、強制的に眠っちまったんだよ…運が良かったね、もしかしたら死んでたかも知れないよ?」

「死ん…?!」


「ほら、占いはお終いだよ」


「あの、今後もお話を聞きに来ても良いですか?」


 この老婆、何か凄い人な気がして来た。折角既知を得る事が出来たんだ、今後もお世話になるかもしれない。


「……ふんっ、勝手にしな」


「ありがとうございます!」


「ま、せいぜい気を付ける事だね……」


 部屋を出るキタミの背を見つめて、マルタはボソリと呟く。


「全く、あのおてんば娘も妙な男に引っかかったもんだね」


 キタミ達はマルタに挨拶をして店を出た。この後は事前にグラムが手配した宿に向かい、翌朝に出発する。


「キタミ殿は随分気に入られた様だな」


「え?そうなんですか?」


「あぁ、私はママ・マルタが自分から占ってやると言うのを初めて見たよ」


 軽い雑談をしながら路地を進んで行く。2日とは言えずっと一緒に居たおかげか、少し気安く接する事が出来る様になって来た。


 そうして歩いて行くキタミ達の背中を、黒いフードの男が路地の影から静かに見つめていた。



 流石辺境伯と言ったところか。宿は見た目の派手さこそ無かったが、従業員の品もよく調度品も寛げる雰囲気を作り出していた。


 この宿、決して安くは無いんだろうなぁ、こう言う所のチョイスって性格でるんだよねぇ。


 キタミはそもそもホテルなど、出張で泊まったカプセルホテルか、バブル期の負の遺産みたいな安っぽい観光ホテルにしか泊まった事がない。緊張しっぱなしであった。


「キタミ殿、そんなに緊張していては、いざと言う時に私を護れないのでは無いか?」


 カシニーナにこんな冗談を言われてしまう程であった。


「へ?あ、ははは、庶民の中でも貧乏な方だったので…慣れないんですよ、こう言う所は」


 そんな風に和やかに時は過ぎ、宿で夕食を済ませた後はそれぞれ部屋に戻って行く。


 部屋は3部屋を並びで取り、中央にカシニーナが入る。

左右にそれぞれニヴルファルとダレル、そしてキタミは1人部屋である。



 そして月も沈み夜が更けた頃、カシニーナの部屋の前に2人の人影があった。


 2人は一言も喋らず、頷くとドアノブに手を伸ばし


 背後から突然響いたフィンガースナップに振り返る。


 2人とも腰のナイフに手を伸ばしており、堅気でなく、また練度も高い事を伺わせる。


「この様な夜更けに女性の部屋に入るとは、紳士的とは言えませんね…」


 そこには仕立ての良いスーツに、ベストを着用しモノクルを掛けた男が立っている。

立ち姿は背筋が伸び気品のある存在感の中、不似合いな色のネクタイだけが目立っていた。


 相手を確認するかしないかと言った間に、1人が走り、ダレルにナイフを突き立てる。


 が、その刃がダレルに届く事はなく、男は首をあらぬ方向へ向けて崩れ落ちた。


「貴様は…あの冒険者と一緒に居た爺さんか…」


 仲間が自分の認識すら出来ない程の速さで殺されたのを見て、しかし男はナイフを逆手に持って構える。


「すまんな爺さん、出てこなきゃお前達に手を出すつもりは無かったんだが…相方をやられて黙ってはいられん」


 フッと短く息を吐きダレルに刃を振るう。

その切っ先は真っ直ぐに首に向き、一般人なら反応する事も出来ずに切り裂かれて居ただろう。


 そう、一般人なら。


「おやおや、お客様…お忘れ物ですよ」


 そう言ったダレルは指で挟む様に男のナイフを持っていた。唖然として自分の手の中を見る男。


 今、確かにやった筈。それが何故生きていて、しかも何故自分のナイフを持っているのか。


「お返し致します」


 その言葉に警戒するが、足元を滑らせるようにナイフを渡される。男はダレルを視界にいれつつ足元のナイフを蹴り上げる様にして手に取る。


「さて、一つご忠告を…今すぐ諦めてお帰りになられるのでしたら、私は追いません。諦めないのであれば、ここで掃除をさせて頂く事になります」


 その言葉を聞き、男は構えていた手を下ろす。


「それはありがたい、俺はお前に勝てそうに無い…」


 男は廊下の窓を開けて身を乗り出すと飛び降りる。


「さて、本日はこれで終わりでしょうか…?」


 ─翌朝、宿の食堂で朝食を食べるキタミに、ダレルが耳打ちする。


「ご主人様、昨夜襲撃が御座いました。男が2名、2人とも慣れた暗殺者の様で御座いました、うち1名は始末し、もう1名は戦意喪失の上逃走致しました」


「え?襲撃?いつ?」


 ポカンとした顔でキタミが聞き返す。

 いくら熟睡していたとしても、戦闘音が聞こえれば起きると思っていたが。

 これが日本人の平和ボケと言うやつだろうか。


「話している所に失礼、その…襲撃と聞こえたのだが?」


 流石に同じテーブルで食事をしているのだ、カシニーナが食い付いてきた。


 ダレルが視線で話す許可を求めて来たので、頷いて許可してやる。この数日で分かった事だが、ダレルはそこら辺凄く細かい。徹底的にキタミを立てようとしてくるのである。


 ダレルが詳細をテーブルのメンバーにだけ聞こえる様な声で話す。


「つまり、なんだ…ダレル殿は、わざと見逃したのか?それに、死体は?朝起きた時には、廊下にそんな物無かったはず…」


 色々言いたい事があり過ぎて言葉が出てこない様だ。


「はい、この程度の雑事でご主人様や、お客様を起こす必要は無いと判断いたしました。また、死体は我々の部屋に保管しております。」


 頭を抱えるカシニーナが哀れだ。

 ダレル…意外と抜けた所あるんだな。



 朝食を終え、相手の素性を調べる為、ダレル達の部屋に行く。


「ふむ…見た事の無い顔だな。アルデンの街の者では無い」


 カシニーナは容赦なく持ち物をひっくり返し、男の装備を剥いで検分していく。


 結果2枚の紙と、ドッグタグの様な板が見つかった。

紙にはそれぞれ依頼内容と、カシニーナの似顔絵が。

ドッグタグには「ナラン〔レントナイフ〕」とだけ書かれていた。


「随分と杜撰(ずさん)な暗殺者ですね…」


 カシニーナはコクリと頷くと膝を叩いて立ち上がる。


「ふむ、レントナイフ…相手は犯罪者ギルドか…詳細の分からない事を考えても仕方ない、出発しよう。王都までまだ3日もあるんだ」



 ─ハビロの町を出発して2日目。


 ここに来るまでの間は、左右に広い草原が広がる道を来たおかげか、特に襲撃等に遭う事はなかった。


 今は昼食後の小休止中である。


「ここが、こう繋がればココが動いて圧を逃すから……」


 キタミはアルデンを出発してからこっち、暇を見つけては低威力な武装の設計をしていた。この前のオーガよろしく、いちいち爆散させて血塗れになっていては困るのだ。


「何と言うか…貴方達の主人はいつもあんな風なのか?」

「ええ、今までもたまに、あの様に大変深く集中なさる事が御座いました」


 カシニーナとダレルの会話も耳に入っていない。

ニヴルファルはそんな主を見ながら剣の素振りをしている。


「よーし、これで良いはずだ!」


 キタミはそう叫ぶと、インベントリから材料を取り出す。

アルデンの街を出る前に、必要だからと言ってグラムにお願いして用意してもらった物だ。代金は今回の報酬から差し引く話になっている。


 前に武器を作成した時と同じ様に、【魔導気機作成】を使用して武器を造り出す。


 地面に、箱の様な本体から6本の銃身とハンドルの延びた銃が現れる。いわゆるガトリングガンと呼ばれる銃種であるが、その見た目はピストンやパイプが伸びていてかなりゴテゴテとしていた。


「キタミ殿、それは…また武器か?」

「いかにも!これは銃と言いまして、その中でも……」


 哀れにも話しかけてしまったカシニーナを捕まえてコッテリと矢継ぎ早に銃の解説をするキタミ。彼は拗らせた方の銃オタだった。


「そ、そうか…よく分かった、ありがとう、もう大丈夫だ」


 カシニーナが両手を前に突き出しでキタミを止める。

 流石によく分からない技術の武器について、聞いてもいないのに延々と語られるのは堪える。


「ご主人様、そちらの銃は何と言う物でしょうか…私は見た事の無い形をしているのですが」


 流石にダレルが助け舟を出す。客人をこれ以上困らせるべきでは無いと言う判断だ。


「これは… 減圧装置付き回転銃身式機関銃…長いな…そうだな…『ライノ』だ!」


 無事命名されたガトリングガン『ライノ』の試射をして、うっかり街道沿いの木々をなぎ倒してから、キタミ達は逃げる様に出発した。まだまだ威力は高そうだ。




 そしてそんな出来事の裏では、木々に隠れていた昨日の襲撃者が誰にも気づかれる事なく、ヒッソリと蜂の巣になっていたが…これは誰も知らない話である。

家令ダレル・ハミルトン

【SSS】のハウジング機能開放と共に仲間になる従者。

入手は容易であるが個人イベントのフラグが非常に分かりづらく、二つ名『家令』は攻略者が出るまで存在を知られていなかった。

個人イベントの進行により二つ名が変わる。

従僕→執事→家令

正に老紳士と言った態度で常に静かに主人に仕える。

横を向けば既に紅茶と菓子が用意されているだろう。

ただし、主人には主人たる品格と知性を求める。

戦闘能力も高く、護衛として戦う事もできる。

得意な武器は刺突剣。

176cm

68kg

53歳

髪:白髪 瞳:ブルー


ランク:3

HP :1,141

MP :189

ST :122

VIG:39

ATU:25

END:25

VIT:16

STR:10

DEX:30

INT:25

FAT:9

LUK:10

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