ホームズさんは頭が良いから出来るんです。
話やっと進み始めるはず。
キタミ達は南門からギルドへ戻る。
途中でカワセの商会に寄って行く。
従業員だけ逃したのだろう、カワセが1人で待っていた。
「マリー!!あぁ!マリー…良かった!本当に良かった!」
カワセはマリーを見付けると駆け寄って抱きしめる。
「あー…あー、感動的で実に良いんだけど、その、避難所でやった方がいい…と思う」
「キタミ様!3度も娘を助けていただきました!本当に!本当にありがとうございます!」
「分かった、分かったから…先ずは、避難して下さい、オーク?オーガ?の大軍が街に迫ってるって話です…良く知らないけど」
縋るようにして感謝を述べるカワセの両肩を掴み、避難する様に伝える。
門前での冒険者達の反応を見るに、オークだかオーガだかってのは中々ヤバい奴らなんだろう。
なら、南門の近くに居るより、逃げやすい北側にいた方がいい。
「キタミ様…確か、オーガです」
ニヴルファルが訂正してくれた。
「だ、そうです…さ、早く逃げて……あー、この人も一緒に連れてってあげて下さい」
そう言って老婆をカワセの前に促す。
マリーも足を怪我している、負担は大きいだろうがまあ、頑張ってもらおう。
「オーガ…ですか…?そんなまさか!こうしちゃいられない!そこに馬車を止めてある、マリー!エラ婆さん!早く乗って!」
そう言って荷物を担ぐと、慌てて建物を飛び出して行く。
直ぐに馬車に乗って戻って来ると、御者台からキタミ達に小さな巾着袋の様なものを投げて渡す。
「それは私の故郷の御守りです!ロックワームを倒したお方だ、大丈夫だとは思いますが…どうかご無事で!」
そう言うや否や馬車馬に鞭打って走り出す。
行動の速さは流石商人だな。
キタミは貰ったお守りをインベントリに仕舞うとニヴルファルとダレルを連れてギルドへ向かった。
……どうせならマリーちゃんから貰いたかった。
〜冒険者ギルド内〜
「みなさーん!後ほど支部長より指示がありますので、それまでは建物内で静かにお待ち下さいー!」
ギルド内では多くの冒険者達が集まり、それぞれが噂話や泣き言だったり、生き残る為の打ち合わせをしていたりと、かなり騒がしい事になっている。
そんな中で受付嬢が声を張り上げて喧騒を鎮めようとしていた。
「凄い熱気だねぇ、そのオーガってそんな強いの?」
そんな中、キタミ達は食堂のカウンターに座り、ダレルの淹れた紅茶を飲んでいた。
「えぇ、大半の冒険者達ならば、決死の戦いとなるかと」
ダレルがカウンターでカップを拭きながら説明してくれる。
「オーガ単体の危険度は3等級で御座います、これは若い冒険者達がパーティーで挑み、初めて最低限の安全を確保出来る強さですが、それが恐らく50体近く…まともに打ち合えば、犠牲になる者も出るかもしれませんね」
なんと、そんなに強いのか。
でもまぁダレルが何も言ってこないって事は、大丈夫って事だろう。
ゲーム時代もAI搭載とは言え、NPCの癖に中々に的確な指摘をしてくる良いキャラだった。
キタミ達がギルドに戻ってから20分程が経った頃、奥から支部長が出て来た。
そのまま受付嬢の用意した木箱の上に乗り、声を上げる。
「まず最初に…お前達、良く逃げずに集まってくれた!感謝する!」
そう言うと、頷きながらギルド内を見渡すと、受付嬢に街の地図を貼り付けた板を持たせて、詳細の説明を始めた。
「いいか!現在街にいるのは金級1人、銀球10人、鋼鉄級21人、それ以下が30人!正直戦力としては心許ないが、それは仕方ない!領軍や衛兵達との連携で足りない力を補う事になる!」
それからチョークで地図に赤、青、白で丸を描く。
「金、銀級は前線で領兵と連携して戦闘をこなしてもらう!持ち場はここだ!そして、鋼鉄級は門で討ち漏らしの対応と、前線が突破された場合の後詰めだ!弓や魔法が使える者達は街壁の上に配置して、攻撃に参加してもらう!黒鉄級以下は門で後方支援だ!いいか、後方支援だからと油断するなよ!お前達の働き次第ではこの戦い、負けるからな!」
そう言って再度ギルド内を見渡す。
喋る者は誰も居ない。
皆真剣な表情で支部長の話に耳を傾けている。
その後、各持ち場ごとに作戦の詳細な手順が伝えられ、現場指揮官の名前と特徴を聞かされた。
作戦の総指揮官は領兵隊の隊長、あの女の人だ。
名前はカシニーナと言うらしい。
そしてキタミ達、後方支援部隊は門から約5m後ろに造られた資材置き場から各部隊への補給及び防護柵の設置修繕などを行うらしい。
キタミは街壁の上に設置される指揮所と補給処間での伝令の1人に当てられた。
ニヴルファルは補給運搬だ。
ダレルは鋼鉄級であるため、指示に従い支援行動と討ち漏らしの討伐をする言わば遊撃の役割らしい。
「お前達!分かったか!分からなかった奴は今聞け!今なら答えてやる!」
冒険者達は真剣な顔で、ただ、頷いた。
そして支部長が拳を突き上げる。
「勝利をこの手に!明日をこの手に!自由と繁栄を!」
「「「自由と繁栄を!勝利を!!」」」
すげー、熱い…映画みたいな光景だ…。
キタミは気後れして拳を突き上げただけだった。
冒険者達はこの作戦伝達の後、直ぐに行動を開始した。
皆一斉にギルドを出て南門に行き、各持ち場へと向かう。
金、銀級と領兵の重装隊、槍隊は前線に。
弓、魔法の使える者達は領兵達に混ざり街壁上の通路に登って行った。
鋼鉄級以下は戦闘開始までは前線とその後方、それから南門手前の最終防衛線に防護柵の設置と物資の運搬を行う。
「おい!お前!そこの木材を持って来てくれ!全部だ!」
「そっちにも柵を立てろ!向きを間違えるなよ!」
物凄い熱気だ、これが本物の戦う漢たちか…。
さてそんな中、キタミはと言えば物資から幾つかの鋼鉄の剣と銅の盾、それから真鍮で飾られた革鎧をくすねて商店の裏に来ていた。
「さてさて、まぁ一応ね、もしもの為にはね…」
自身の武器を作る事にしたのだが、この間のカワセ親子の反応を見るに錬成法はこっちでは珍しいらしい。
こんなに人が多い所でやって変な混乱を起こして邪魔をしたくなかった。
まあ、物資をくすねている時点で、ある意味充分な邪魔をしているのだが、それは働きで返す事にするつもりである。
「まずは俺の武器…まぁ、基礎中の基礎で良いな」
そう言って5本の剣と盾を1つ、それから革鎧を床に置き、インベントリから木材を取り出すと【魔導気工学】のスキル【魔導気機作成】を使う。
そして光が収まった中には2つの箱型の物と大量の長方形の箱が転がっていた。
「ネイルガンちゃん!!会いたかった!!」
これはキタミが【SSS】において、序盤に愛用していた武器の1つだ。
蒸気の力により鋼鉄の釘を撃ち出すそれは、武器と言うよりは工具に近いが扱い易く、威力も釘に魔力を纏わせる事で跳ね上げる事ができる為、終盤でも使える良武器と言われていた。
「さて、次だ!」
そう言ってくすねた物資を全て床に置くと、さっきと同じ様にスキルを発動させる。
次に光の中に現れたのは、四角い剣身の根元に箱が付いた奇天烈な見た目の大剣であった。
その刃渡りはキタミの身長よりも長い。
「おぉし…出来た…性能は…まぁ使って確かめて貰おう」
【SSS】はゲームだ、データとして存在しないアイテムは作れない。
しかし今は?現実なら、頭の中の設計図を形に出来るのでは無いか?
そう考えてゲーム内には存在しない、全く新しい武器を作ってみた。
ダメ元で試してみた、今はそれどころでは無いかもしれないが…まぁ成功したのだ、良いだろう。
「名前は、そうだな…蒸気式追衝撃大剣…にしようかな…」
キタミはそれぞれの貯水タンクに、店にあった樽から水を入れ資材置き場に戻る。
そしてニヴルファルに剣を渡すと、そのまま何食わぬ顔で作業に戻って行く。
それから1時間程が経ち、準備が整い周囲に一瞬の静寂が訪れた。
街に強風が吹き、砂埃が舞うその向こうにオーガの軍団が現れる。
「総員持ち場に着いたな!来るぞ!勝利を我等に!!」
「「「勝利を!!!」」」
カシニーナの掛け声に鬨の声が上がる。
「弓隊!構え!…よく狙え……今っ!放て!!」
弓隊隊長の号令と共に衛兵と冒険者の混成である弓隊がオーガの集団へ矢の雨を降らせる。
ダメージ効果はイマイチだが、オーガの前進が鈍った。
牽制としては上々だろう。
「重装隊!構えっ!」
続いて、横一列になった重装兵達が大盾を前に突き出して腰を落とす。
「オォォオッ!!」
重装兵達が鬨の声を上げる。
「ガアァァアアッ!!!」
オーガ達が半ば、体当たりする形で重装隊の陣形に雪崩れ込む。
鈍い音が響き、オーガ達の巨体を受け止めた重装隊ではあるが、そのままズルズルと押し込まれていく。
「魔法隊!目標、敵先鋒どもの後方、敵集団中央!放て!」
カシニーナの号令に従い、領軍の魔法部隊と、魔法の使える冒険者達が魔法を発動する。
オーガの集団の中央に色とりどりな攻撃魔法が殺到し、オーガ集団の先鋒と後方を分断する。
「重装隊!前へ!槍隊!大盾の隙間から攻撃しろ!押し込めェ!!」
歩兵隊隊長の号令で重装隊が前に出る。
大盾の後ろから突き出された槍に先頭のオーガが串刺しにされる。
さらに前進、槍を突き出す。
すると、オーガ達が下がって行く。
さらに重装隊が前進する。
オーガは合わせる様に下がって行く。
「妙だ…オーガが引くだと…」
カシニーナが違和感に困惑し、部隊を下げようとした時、オーガ集団の、さらに後ろからゆらりと影が出てくる。
さらに、ビリビリと臓腑まで痺れさせる大きな雄叫びが上がる。
「ガアァァアッ!!グアァァァア!!!」
「なんだ、この声は…引けぇ!重装隊、槍隊は引いて迎撃地点で再度構えろ!弓隊構え!魔法隊も準備をしろ!」
カシニーナが慌てて部隊へ後退指示を出す。
重装隊が一旦下り態勢を立て直す。
オーガ達は追って来る事はなく、門を半円に囲む形に散開していく。
開戦時の熱気が嘘の様に、今度はピリピリと張り詰めた空気が戦場に満ちる
影が近付き、前方のオーガの壁が左右に分かれて行く。
(あー、この展開は…俺知ってる、ヤバいの来るんでしょ?フラグびんびんだもん…)
キタミの待機する司令部では、状況を見極めようとカシニーナと隊長格の兵士達が戦場に見入っている。
キタミは何が起きても対応できる様、インベントリからネイルガンを取り出してベルトに引っ掛けると、隣に居るニヴルファルへ小声で指示を出す。
「ファル、防衛隊を守れ、流石にあの数じゃ撃ち漏らすかもしれん」
コクリと頷いたニヴルファルは、壁を飛び降りて前線部隊の後方、後詰めとして待機している冒険者達に紛れる。
「なんだあのデカさは…」
誰かの呟きが響く。
「あれは…まさか…ジェネラル…?」
それと同時に雄叫びの主が姿を見せる。
ただでさえ大きく分厚いオーガの肉体。
それよりも更に二回り程大きく、強靭になった、正に筋肉鎧と言うべき体躯。
右手にはその巨体より大きな大剣を持ち、悠然と歩いて来る。
「オーガ・ジェネラルだと……クソッ!怯むな!弓隊、狙え!魔法隊は弓隊に続いて攻撃せよ!放て!!」
カシニーナから、焦燥感を滲ませた指示が飛ぶ。
フルフェイスのヘルムを被っている為、その顔は見えないが、きっと盛大に苦々しい表情になっているのだろう。
大量の矢がジェネラルに降り注ぐが、右手に持った大剣を振りその殆どを叩き落としてしまう。
幾本かは命中するも、硬い筋肉に阻まれ傷は浅い。
弓隊の攻撃に続き、魔法隊が攻撃魔法を一斉に放つ。
ジェネラルは殺到した魔法に覆い尽くされ、その威力に土煙が立ち昇り見えなくなる。
「や、やったか…?」
兵士の1人が呟くと同時、煙が斬り払われほぼ無傷のジェネラルが現れる。
多少矢尻が刺さっていたり焦げていたりはするが、まあ効いてないだろう。
むしろ挑発にしかなっていない気がする。
ジェネラルが一歩、踏み込んだ。
次の瞬間には重装兵達の目前で大剣を振り上げていた。
そして一振り。
たったその一撃で、重装隊は吹き飛ばされ、叩き潰され、壊滅した。
「やー、こりゃ、ダメだな」
どう見ても勝てない。
冒険者と見比べても領軍達の練度は高い。
恐らくは鋼鉄級、中には銀級と同じ程度の者も何人か居ただろう。
それがこうも簡単にやられるのだ。
ここに居る者達だけでは無理だ。
「隊長殿!頑張ります!!」
そう言うとキタミは壁を飛び降りる。
「な!?おい!貴様何のつもりだ!戻れ!!」
前線部隊をすり抜けざまにニヴルファルに声を掛け、そのままジェネラルの前へと駆ける。
「ファル!そっちは任せた!」
「御意に!!」
ザッ……
ジェネラルの目前5m程で止まり、ネイルガンを構える。
飛び出して来たキタミを見てジェネラルはニヤリと笑うと、両腕を下ろしかかって来いと顎をしゃくる。
おー、挑発してくるとは良い度胸だ。
「鬼ーさん?その余裕が命取りだ」
キタミはジェネラルの挑発に挑発で返しながら考える。
どうすれば被害を最小限に抑えながら制圧出来るか。
オーガは今までの戦闘を見るに、雑魚だ。
ジェネラルは分からん、硬そうだ。
ならば…。
まずは姿勢を低く間を詰める。
ジェネラルは大剣を横薙ぎに振るうだろう。
スライディング、右肘に釘を刺す。
特別製の魔力を纏った釘だ、確実に行動を妨害する。
そのまま股を滑り抜け、左膝に釘を刺す。
右の踵をブレーキに、立ち上がりざまにジェネラルの後ろに居る雑魚を4体、全員頭に釘をプレゼント。
怒り狂ったジェネラルは、振り返りながら大剣で叩き付けをして来るはず、飛び込み前転で躱しながら後ろに向き直り、伸び切った腕を登り頭にありったけ。
これで、終わりだ。
一番面倒なジェネラルは倒れる。
後はニヴルファルと2人で雑魚を掃除するだけだ。
「スゥゥゥ………フッ!!」
姿勢を低く、走り、間を詰める。
ジェネラルの大剣が左から迫る、スライディング。
腕に1発。
吹き飛ぶ腕。
その向こうで、貫通した釘が当たりオーガの上半身が消し飛ぶ。
そのまま股の間を滑り抜けざまに…ジェネラルが暴れたせいで、釘は股から頭部に向けて真上に撃ち込まれた。
下から順番に破裂していきジェネラルは真っ二つ。
右の踵をブレーキに、立ち上がりざまに……。
降伏の姿勢をとったオーガ達を見下ろす…。
「予定と違う…」
どうしてこうなった…。
いや、まあ良いんだ。
脅威は去ったんだ、後は隊長の指示に従えばいい。
一先ず指示を仰ごうと門へ振り返る。
「あの……」
「ヒィッ!」
何故か重装兵達が大盾を構え後退る。
キタミが一歩進めば重装兵が一歩下がる。
ズイズイと進めば、ズルズルと下がって行く。
なにこれ楽しい。
違う!そうじゃない!
「あー…
「何をやっている!どけっ!」
カシニーナが重装兵達を掻き分けながら前に出きた。
オーガジェネラルの死体を一瞥した後、キタミに話しかけてくる。
「す、凄まじい威力だな、その…それは何だ?」
「ネイルガン、あー、釘打ち機です」
「そう…か、釘打ち機…そうか…」
そう言ったきり黙ってしまう。
気まずい、何か言って欲しい。
この状況は想定外だ、誰か助けてくれ!
カシニーナは、すっと右腕を掲げ門に向き直る。
「諸君!我々の勝利だ!我々はこの絶望的な状況に臆せず立ち向かい!そして、この英雄の活躍によって勝利したのだ!!勝鬨を上げろ!声を上げろ!恐怖に怯える民達に勝利を伝えるのだ!!!」
「おぉ……ウォーーォオ!!!」
「「「オオオオオオォオ!!!!」」」
「勝利だ!!!」
「アルデン万歳!英雄万歳!!」
こうして、アルデンの滅亡は呆気ない程簡単に阻止された。
そして、キタミは隊長の機転に助けられた。
そんな中、ニヴルファルは抵抗を続ける少数のオーガを狩っていた。
『ネイルガン』
箱型の見た目をした、片手サイズの釘打ち銃。
バルブを閉鎖する事で、チャンバー手前の蒸気タンクを加圧し、トリガーを引く事でタンクから伸びるハンマーを解放、タンク内圧により勢い良くチャンバー内へハンマーが前進し、チャンバーに装填された釘を撃ち出す。
その後、バネと銃身内圧によりハンマーは後退し、待機位置でロックされる。
また次弾はハンマーの動きにアームが連動して自動装填される仕組みになっている。
弾はグリップ前方に配置されたマガジンポートから箱型のマガジンで給弾する。
その構造上連射が難しく、また射程が短いが
その代わり貫通力に優れ、対象内部に釘が残るため破壊力としてはとても高い。
寸法 :260×210×100mm
重量 :2kg
レート:3発/sec
装弾数:50(51)




