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鉄と蒸気と生きる意味(仮)  作者: Jelly Fish Satellite
3/12

お化け屋敷でビビり過ぎてお化け役をぶん殴る人が居るらしい。

 それから1週間ほど、遺跡と周囲の探索とキャンプ地の充実化をして日々を過ごしていた。

 倒れた後至って普通に目覚めたのだが、不思議と前よりも調子が良く身体も軽くなっていた。

 そうして湧き出る気力に任せて色々な事に挑戦していた訳だが、頭の片隅ではおおかた食糧が尽きて餓死するか野生動物に襲われて死ぬかだろうと縁起でもない予想を立てて居たのだが、その予想は覆された。


 周囲のマンゴーの様な実を付ける樹は、かなり広範囲に繁り腹持ちも良く、遺跡から少し歩けば綺麗な水の湧き出る泉があった。

 また、これだけ環境が整っているのだ。当然出現が予想される野生動物の類に全く出会わなかった。

 肉食動物ならまだしも、草食性の動物にも出会わなかった。


(ここはそんなに山奥では無いんだろうか?)


 野生動物は人の気配を嫌うため、里のある麓にはあまり出てこないと聞いた事があった。

 しかし、それにしてはどの方向に歩けども延々と森が続くだけである。

 最初の3日程はまだ、他に人が居ないかと探し回ったものの、この周辺には人影どころか人工物がこの遺跡しか無いのである。


 往復で野宿が必要になるかもしれないギリギリまでは探索したが景色が大きく変わる事はなかった。


「はーい!本日はこちら!ねぇ!俺専用の椅子をね!作ろうと思いますよ!」


 ここ数日で増した独り言に寂しさを煽られる。

 そろそろ人に会いたいと言う思いが胸を占めるのだ。

 いくら社会不適合者のニートであろうとも、他者の存在と言うのは重要らしい。


 オォォォオ………


 不意に背後にある階段から呻きの様な音が響く。

 風の音か、何かいるのか。

 確かめて「なんだやっぱり風か」と言えれば良いのだが、ここは現代では考えられない秘境である。

 何があるか分からないし、何が居るか分からないのだ。


「…なんだ、風かぁ!」


 ほぼ自己暗示の領域であるが、口に出して言えばいくらか安心出来た。

 しかし少し安心した程度では奥に探索へ行く気は起きなかった。


 吉崎は基本的にオバケなんかのホラーな存在が苦手だ。

 昔に彼女と入ったお化け屋敷で醜態を晒し、初デートでフラれた事もある。


「ま、ままま!風のせい風のせい!今日は椅子を仕上げないといけないからね、探検は今度にしよう!」


 そしてその性格は一度死んでも尚変わっていなかった。



 それから更に3週間が過ぎた。

 この遺跡に住み着いてから1ヶ月になるが、相変わらず自分以外の動物には出会わないし、マンゴーが尽きる事も無く黙々と生活を続けていた。


「いい加減、行くかぁ!」


 そうして遂に吉崎はその重い腰を上げた。

 風鳴りも1ヶ月も聞き続けて流石に慣れていたし、日に日に増して行く気力と体力が、吉崎に無意識に自信を付けさせていたのである。


 決めれば早いのは吉崎の特徴である。

 探索の計画を立てて準備を始めるのであった。


 この男は柵を越えればどこまででも突っ走れるのだ。


 翌朝、バナナに似た植物の大きな葉とツタで作った簡易なリュックにマンゴー(仮)を詰め、太い枝を拾って来て作った粗末な松明を片手に地下へと向かう。

 幸いポケットにはそのままライターが入っていたから、火種には困らなかった。


「フンフフン フンフフーン」


 最初の頃のビビリな様は鳴りを潜め、ズンズンと軽快に足を進めている

 頭の中はイン○・ジョーンズかトゥー○・レイダーか。

 まるで小説の冒険家になったつもりで進んでいく。


(男はいくつになっても子供だなんて誰が言ったんだっけな?)


 その言葉は吉崎に於いても例外ではなかった様で隠しきれないワクワクを顔に貼り付けていた。


 一体どれほど歩いただろうか。

 下り階段はいつからか水平で真っ直ぐな通路に変わり、その最奥は依然として見えないまま深い暗闇を湛えている。

 太陽の光が無くなり時間の感覚が不確かになり、もう今が昼なのか夜なのか、はたまた一夜開けて朝なのか、とんと見当が付かなくなっていた。


 そうして黙々と、時折壁の様子を見たりとフラフラしながら奥へ進んで行くと遂に行き止まりに辿り着く。


「んおぉ?デカいな…」


 最奥の壁には厳重で重厚ないかにも「重要な物が納められている」と主張する様な木製の大扉があり、その先がまだ続く事を示唆していた。

 試しに押し引きしてみるも、見た目の通り固く閉ざされた扉はびくともしない。


「ま、無理だよなぁ」


 いったん戻るべきかそれとも開ける手掛かりを探すべきか、元来た道を見やり思案する。

 手持ちの食糧と松明にはまだ余裕がある事を確認した吉崎は少しの間ここに留まって開け方を模索する事にする。


(こう言うのは意外と扉の横に仕掛けがあったりするんだよな…?)


 さてと振り返れば、いつの間に開いたのか大扉が左右に控え短い通路が現れている。

 その見た目から鳴るべき音も無く。

 その大きさから響くべき揺れもなく。

 ただひっそりと開いた扉に、隠れていた恐怖がこみ上げてくる。


 が、しかし。


「俺は冒険者だ!俺は探検家なんだ!仕掛けが動いたのならいざ行こう!」


 意味不明な鼓舞を自身に送り歩き出す。

 吉崎は別に冒険者でも探検家でもない。

 ただ、人よりもズバ抜けてお気楽思考だった。

3話までで序章終わるかと思ったんですけど、まだ続きそうです。

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