裏話:ニーナの日記
話の続きは待たれよ!!!
とりあえず10話記念の幕間2本でした。
・王国歴352年 花の月5日
何なのだあの男は?
伝令が飛び出していったと思ったら、瞬く間にオーガ・ジェネラルを討ち倒してしまった。
その様は一種恐ろしく、一時の間動く事が出来なかった。
破裂するジェネラルなど、今後の生涯で目にする事など無いだろう。
あと少し、私が出るのが遅れていたら、あの男はただ恐れられる存在となっていただろう。
街の事を考えても、あの時の私の行動は間違って居なかった筈だ。
しかし、あの男は一体何者なのだろうか?
あれ程の腕を持ちながら、今日冒険者登録をしたばかりだと言う。
兵達に聞いてもあの様な者の噂すら聞いた事が無いという。
あの力は脅威だ、話した感覚では害のある者には思えなかったが、皮を被って無いとは言い切れない。
キタミと言ったか…明日、部下の何名かに調査を命じよう。
御領主様は一体何を考えてあの様な怪しい者を食事に招いたのだろうか?
御領主夫妻の人を見る目は確かだと思っているが…。
何事も無く終わったと聞いてどれだけ安堵した事か。
・王国歴352年 花の月6日
御領主様から軍務大臣への書簡の配達を命じられた。
しかも、護衛としてあの男を付けると言う。
任務自体は突然ではあるが、内容を考えれば当然である。
しかし、なぜこの男なのだ?
私には、危険な存在にしか思えない…御領主様は何をお考えなのだろうか?
キタミ殿は、移動の最中や休憩の時など手空きになると、ウンウンと唸りながら何かを紙に書き込んでいる。
話しかければ答えは返ってくるが、正直気まずいものだ。
従者2人もそうだ。
獣人族の男はニヴルファル殿と言うらしい、彼は休憩時間以外は常に周囲を警戒している。
休憩時間は素振りなど鍛錬をしながら警戒している。
周囲に気を張るのは大切だが、些か過剰ではなかろうか?
彼は私には感知できない程遠くのモンスターを見つけては馬車を飛び降りて行く。
そして帰ってくると獲物を主人であるキタミ殿に渡している。
…そう言えばあの死骸はどこに行ったのだろう?
捨てていたのだろうか?勿体ないが、荷物が増えると考えれば仕方が無いのかもしれないな。
もう1人の従者である老執事は、ダレル殿と言うそうだ。
こちらは主人のキタミ殿だけで無く、ニヴルファル殿や私にまで気を配ってくれている。
休憩となれば、どこから取り出したのか敷物を広げ、お茶を淹れてキタミ殿や私に差し出してくるのだ。
意味がわからない。
・王国歴352年 花の月7日
昨日は警戒してしまい、浅い眠りだった。
結局彼らは、何かをして来るどころか近付いてすら来なかった。
そもそもキタミ殿は完全に熟睡して居た。
寝顔は完全に安心し切ったような、何と言うかだらしの無い顔だった。
この男が本当にジェネラルを一瞬で倒したのか、自分の記憶が信じられなくなって来る。
昼過ぎの事だった、突然ワイバーンが襲い掛かってきた。
亜竜山脈からはそこそこ離れているはずだ、ただのハグレか、それとも…。
結局ワイバーンはキタミ殿が見もせずに、ジェネラルを倒したあの弩で撃ち落とした。
片羽根が弾け飛び錐揉みしながら前方に墜落し、ニヴルファル殿が首を落とし仕留めて居た。
正直その光景も驚愕であるが、キタミ殿がケロリとした顔で「アレは美味いのか」と聞いてきた時は呆然としてしまった。
亜竜とは言え竜種に襲われて何故あれ程に落ち着いて居られるのか。
味など気にする以前に、もっと考えるべき事があるのでは無いだろうか?
とても美味しかった。
・王国歴352年 花の月8日
久し振りにママ・マルタに会った。
本当は両親にも会いに行きたかったが、任務中だ。
ママ・マルタとキタミ殿の顔繋ぎが出来たのだから充分だろう。
聞けばキタミ殿は放浪の身で、頼る者が居ないらしい。
彼女と既知が出来るだけでも、きっと違うはずだ。
ママ・マルタが余計な事を言うせいで、キタミ殿の事を変に意識してしまう。
私は婚姻だとかの色事に興味は無い、と思っていたのだが…。
次々と結ばれて行く友人達を見て感化されたのだろうか?
…そもそも、キタミ殿もこんな粗忽な女に興味は無いだろう。
変な妄想をしていないで、早めに休む事にする。
2日ぶりのベッドだ、ゆっくりしよう。
・王国歴352年 花の月9日
今日は朝から驚かされた。
あの老執事が、夜中に来た襲撃者を撃退したと言う。
その場で知らせてくれれば、逃げた1人も捕らえる事が出来たかも知れないが…。
キタミ殿も言い聞かせていた様だし、過ぎた事だ。
あまりグチグチと言うべきでは無いだろう。
しかし、いくら久し振りのベッドで熟睡して居たとは言え、戦闘音に、気が付かないとは…少し気が緩んでいるかも知れないな。
今回の襲撃の目的は、間違いなく大臣への書簡だろう。
逃げた1人もまだ近くで隙を窺っているに違いない。
王都まで、何事も無ければあと3日の距離だ。
次の襲撃があるとすれば、明日、明後日に通る予定の地点だろう。
あそこは左右を森に囲まれ、道も蛇行している為見通しが悪い。
街を立つ前に街道図で計画を伝えた。
今日の様子を見る限り、ちゃんと伝わった様だ。
キタミ殿は朝から肉を食べていた。
見ていて気持ちの良い食べっぷりだった。
・王国歴352年 花の月10日
私はキタミ殿の破茶滅茶な力を甘く見ていた様だ。
キタミ殿が金属などの素材を何処かから取り出し、呪文を呟くと、地面に赤く輝く魔法陣が現れた。
光が晴れると、素材があった場所には6本の筒が付いた箱があった。
曰く、武器を作ったそうだ。
意味がわからない。
武器は普通鍛冶場で作る物だ、決して草原の片隅で魔法陣から生えて来る物ではない。
試したいと言うので、森に向かってなら良いと許可をしたのが不味かった。
冥府の獣の唸り声の様な音が響いた。
そう思った次の瞬間、森の木々が弾け飛び、ちょっとした広場が出来ていた。
意味がわからない。
あんな上級魔法は見た事も聞いた事もない。
それにアレは杖の一種なのだろうか?
白い煙を吐き出しながら回転する筒が、とても恐ろしい物に思えて、私の足は震えていた。
キタミ殿は数瞬呆けていたが、直ぐに持ち直して私を馬車には上げると直ぐに走らせた。
訳を聞いてみたら「なんかバレたら怒られそうだから」と言っていた。
随分と子供の様な事を言う英雄だ。
やった本人と起きた事の温度差に、私は恐怖を忘れていた。
何故だろうか、彼の横に居ると落ち着いて来る気がする。
不思議な人だ。
・王国歴352年 花の月11日
無事王都に到着した。
大臣に呼び出され執務室で報告をしていた時、唐突に城がモンスターに襲撃された。
キタミ殿は、普段の惚けた姿が嘘の様にキビキビと動き、廊下を埋め尽くしていたモンスターをあの『ライノ』という杖で薙ぎ払っていた。
あまりの威力に部隊長は腰を抜かしていた。
特に堅牢に造られている筈の国軍本部の壁を、焼き菓子の様にボロボロに砕いて大穴を開けたのだ、腰を抜かすのも仕方あるまい。
今日は余りに色々とあり過ぎた。
書ききれなかった事は、明日の日記に書くことにして、もう寝よう。
・王国歴352年 花の月12日
昨日は事後処理などで遅くなり、日記を書ききれなかった。今日は昨日の続きを書く。
あの後、ライノの使用をロマーニ卿と私に止められたキタミ殿は、あろう事か正門前に設置されていた王国旗の竿を地面から引き抜き武器にした。
混乱のおかげで指摘はされなかったが、今になっでヒヤヒヤしてくる。
せめて旗が掲揚されていなかったのは幸いだった。
キタミ殿はそのまま竿を振り回しながら、モンスター共を蹴散らし進んで行った。
ロマーニ卿と私は慌てて後を追ったが、彼の通った後は潰れ、引きちぎれたモンスターの死骸で何とも言えない事になっていた。
結局、吹き飛ばした近衛騎士に平謝りするキタミ殿に追いついた時には、城内のモンスターは全て討伐されていた。
ひとつ、奇妙な話がある。
城内に突如、湧いた様に現れたモンスター共。
当然市街にも侵入されたものとして、討伐隊が市街に向かったそうだが、市街どころか門周辺も異常なく、むしろ完全武装の兵達を見て驚いていたらしい。
やはり、件の犯人は中に居る様だ。
【機械工学】
機械系アイテムを開発、作成するスキル。
スキルレベルに依存して種類と品質が向上し、より複雑な機構を作る事が出来る様になる。
前提スキル:【数学】【工作】
【数学】
数字、記号を用いた計算を行うスキル。
スキルレベルに依存して計算速度の他、魔法の威力と発動速度、遠距離攻撃の精度が上昇する。
【四元素魔法】
魔法系基礎スキル。
魔導の道を志す者が一番最初に習得するモノ。
空間中に偏在する純粋魔力を火水風土の元素魔力に変換し具現化、使用する技術。
その形や効果は術者の想像力に大きく依存する。
【六元素魔法】
魔法系上位スキル。
このスキルを極めた者は魔導の深淵を理解すると言われる。
炎、氷、雷、気体、鉱物の五元素魔力を具現化、使用する技術。
また、純粋魔力に形を与えて使用する。
その形や効果は術者の想像力に大きく依存する。
前提スキル:【数学】【四元素魔法】