裏話:ニヴルファルのはなし
お久しぶりです。
仕事忙しすぎて全然書けてないんです。
苦し紛れにニヴルファル視点を1話。
短いですが、楽しんで頂ければ幸いです。
自分は何者なのか。
答えは知っている。
ゲームの中の存在で、集落の皆を守る事の出来なかったどうしようも無く矮小で無力な男。
今は、憎き悪魔族共から救ってくれた主人に付いて生きている。
真っ暗だった。
普段からそうだ、主人がこの世界に居ない時は、世界そのものが真っ暗で静かになる。
だが、今日は違った。
何故か思考できる、身体は動かないがその存在を認識できた。
それを知覚してからどれ程経っただろうか。
主人はまだ世界に帰って来ない、これ程長く世界を留守にしたのは初めてでは無いだろうか。
不意に音がした。そして世界に光が戻って来た。
少しずつ蓋が滑る様に、石同士の擦れる音と共に。
ああ良かった、何時もとは違うが、私の主人が戻って来た…。
そう思って目を開ける、私は寝ているらしい。
主人が戻って来たと言うのに、横になっているなど不敬じゃあ無いか。
慌てて起きようとするが身体は動かない。
「…………!」
すると、主人は私の顔を見て不思議な表情になり、世界に闇を戻して行く。
待ってくれ!やっとまたお会い出来たのだ!
やっとまた共に過ごせると歓喜したのだ!
行かないでくれ!!
その想いが届いたのだろうか。腕が動いた。
そして、思わず主人の腕を掴んでしまう。
「あびゃあやぁぁあっ!!!」
しまった!主人を驚かせてしまった!
主人は急に静まると私の顔を見る。
そしてそのまま腕に力を込め始める。
「お、お待ち下さい!!」
驚かせてしまった事にお怒りなのだろうか。
やってしまった、何としても1度お考え直しいただいて、謝罪をさせていただく機会を作らせてもらわねば。
「お願いいたします!お待ち下さい!どうか!お願い申し上げます!」
その頃になると身体の自由は段々と戻って来ていた。
思わず自分が横になっていた場所から這い出る。
石の棺だろうか、長方形のそれから体を出し、必死で主人に縋り付く。
「なにその必死なの!ここで蓋閉めないとフラグ折れないじゃない!」
フラグとは何か分からないが、主人が何を仰って居るのかは何となく理解できた。
「そんな!なんとお寂しい事を仰るのですか!私めをお忘れですか!!」
そう言った途端、主人の腕から力が抜け考える様な表情に変わる。
が、すぐに残酷な事を言って棺の中に戻そうと、私を押し込みながら蓋を閉めてゆく。
「全く分からん!また寝ててね!」
なんて事だ…世界を留守になさって居る間に、私の事を忘れてしまわれたのか?
いやしかし、先ほど考えて居る時の瞳には何か揺らぎがあった。きっと忘れてなど居ないのだろう、またいつもの悪戯だろうか。
「お待ちを!!思い出してください!!一緒に冒険をした日々を!一緒に古竜王を倒したあの旅を!!」
◇◇◇
やってしまった…。
あれから、主人に思い出していただけたのは良かった。
その後一緒に拠点を作れたのは幸福だった。
街を探しに出た道のりは楽しかった。
しかし、主人に叱られてしまったのだ。
そもそもと言えば、あの小娘が礼もせずに主人に胡乱な目を向けるのが悪いのだ。
態度が悪いと指摘するだけのつもりが、カチンと来てつい大声を上げてしまった。
「あー、なぁ…ファルよ?お前の忠義は嬉しいんだけどさ、やっぱり限度とか、適量とか?そう言うのは見極めて欲しいかなって」
主人はそう言って苦笑していた。
この失敗、必ず取り戻さねば…!
すると、その機会はすぐに訪れた。
なにやらゴブリンと言うモンスターが街に攻めて来ているらしい。
主人はあの…名前は忘れたが小娘を甚く気にしていらっしゃるご様子、すぐさま救出のために小芝居を打った。
市場通りの道具屋で小娘を見つけると、私を護衛に残して様子を見に行かれた。
ここは、そうだな…小娘に一言声かけでもして点数を稼ぐことにしよう。
「おい、小娘」
「は、はい!」
…ずいぶんと怖がられている様だ。
「その…先程は声を荒げてしまった事、詫びさせてもらう」
私の言葉を聞いて、小娘が目を見開いて驚いている。
失礼な奴だ、なぜ主人はこんな小娘に気をかけるのか…。
「はっ……あ、いえっ!ごめんなさい!私ったらまた失礼な事を!いいんです、失礼な事をしたのは私なんですから!」
「そ、そうか…それで、足はどうだ?まだ痛むのならば我が一族に伝わる傷薬をやろう」
「え?!いや、いやいや!そんなお礼も出来ませんし!」
この言い方では、足はまだ痛むのだろう。
どうせ言っても断るのだ、多少強引でも薬を塗ってやろう。
「小娘…いや、マリネだったか?足を貸せ」
そう言って添木のされた足を取り、革の靴を脱がせると傷薬を塗り、上から布切れを巻き、添木を戻してやる。
ふと顔を上げると、小娘は顔を紅潮させてコチラを見つめていた。
「どうした?熱でもあるのか?」
私の言葉に首を勢いよく振って否定すると、直ぐに離れて添木に手を当てる。
「あ、ありがとうございます…ニヴルファル…様」
「気にするな、少し強引にしてしまって悪かったな、痛みはじきに引く筈だ」
老婆はそんな私達を見つめて微笑んでいた。
なんなのだこのご老体は…。
まあいい、この小娘を労わっておけば、主人からの評価も高まるはずだ。
◇◇◇
これからオーガとの戦いが始まろうかと言うとき、主人から一振りの大剣を下賜された。
黒く輝く刀身の根元には、箱型の機関部がある。
そこから伸びるレバーを握り込む事で、貯めた圧を瞬間的に解放して、相手に衝撃を与える仕組みであるらしい。
私が感動に打ち震えていると、主人は優しい笑みで私を見つめていた。
本当に、よい主に巡り会えた…。
開戦後、主人からの命によりオーガ供を狩る。
主人は一際大きなオーガを一瞬で討ち取り、他の有象無象どもは戦意を無くしたらしい。
私は、その後も尚戦意を持ち続ける愚か者供を狩っていく。
「主人!見ておりますか!私めの活躍を!」
主人の方を見ると、笑顔で手を振ってくださった。
……なお頑張らねば!!
◇◇◇
現地の指揮官から、オーガの死骸運びをするよう指示された。
早く主人の元へ戻りたいが、拒否したとて主人の悪評になるだけだと自分に言い聞かせて、手と足を動かす。
程なくして、ダレルに声をかけられた。
この老執事は有能であるし、主人からの信頼も厚い。
「ニヴルファル様、後は領軍の皆様にお任せして良いそうですので、御主人様のお迎えに向かいましょう」
「む?そうですか、ならばそうしましょう」
私は担いでいた死骸を街壁の外に掘られた穴に放り込むと、ダレルに続いて街に入る。
「ご主人様は先程の戦闘で、随分と返り血を浴びておりました、途中で外套を入手して宿を取っておこうかと思いますが、よろしいですか?」
「否はありません。主人の身辺の差配はダレル老に任せていますからね」
「かしこまりました…ではまずは外套から、宿は目星を付けておりますので後程」
そうしてダレル老と市場通りに向かい、戻ってきていた露天商から外套を購入し、宿の予約を取った。
恐らくギルドに居るだろうと向かうと、なぜか主人は入り口の所で悩み込んでいるご様子で立っている。
「御主人様、その様なお姿では笑われてしまいますぞ」
ダレル老が声をかける。
振り返った主人は、頭の先から足の先まで血に濡れて、赤黒くなっていた。
なるほど、確かにあのお姿では中に入るのも躊躇われる。
「さ、こちらへ…宿を手配致しました、まずは身を清めて御召し物を変えましょう」
ダレル老はそのまま主人に近付き、宿の話をしながら外套を広げ、主人が着やすいようにして待っている。
「御主人様、外套をご用意致しました、宿までの道中でどうぞお使い下さい」
外套を羽織った主人は、柔和な笑みをダレル老へ向けている。
「そ、そうか、こうして主人からの評価を勝ち取る事も出来るのか…」
電撃が走る様な、とはこの事か…私ももっと主人を見て気を配れる様にならねば…。
「お、そうか…ありがとう…あーと、そうだ、この後領主様との会食なんだけど、2人にも来て貰いたいんだ…いいかな?」
私は主人からの食事の誘いに、一もニも無く頷くのだった。
『スキル』
ゲーム内では、HP、ST、MPのいずれかを消費する事で発動する「アクション」と常時発動する「パッシブ」がある。
ステータスに表示されるのは、それらの元となるスキルツリーの名称である。
【工作:LvMAX】
製作系初期スキル。レシピと材料を使用してアイテムを錬成作成する。
Lv1:工作
アイテムを錬成する。
Lv2:成果物品質向上・小
作成されたアイテムの品質が僅かに上昇する。
Lv3:作図
レシピを作成する。
Lv5:成果物品質向上・中
作成されたアイテムの品質が上昇する。
Lv7:成果物品質向上・大
作成されたアイテムの品質が大きく上昇する。
Lv9:成果物品質向上・特大
作成されたアイテムの品質が極めて大きく上昇する。
Lv10:建造
建物など、大型のアイテムを錬成する。
この様に、一定レベル毎に「アクション」や「パッシブ」を習得できる。