回転銃身は漢の子達の大好物。
長らく放置されてましたが更新。
今後はこのくらいのペースになる予定。
─町を出て3日目の朝を過ぎた頃、ようやく王都に到着した。
まずは王都にあるマザール辺境伯の邸宅に行き、使用人にアルデンの街へ到着の報せを送って貰う。
モンスターを使い伝書鳩の様な仕組みで、素早く連絡を取り合う方法があるらしい。
「王都に到着したと、軍務大臣に連絡を」
カシニーナは使用人に言いつけると、仕事をすると言って執務室へ入っていった。
キタミ達は特にやる事もない為、交代で1人を執務室の前に待機として、それ以外は最初に通された応接間でカシニーナを待つ事にした。
その間、ダレルの完璧執事ぶりを屋敷の使用人達と見て感嘆したり、この国の貴族制について教えて貰ったりと気ままに過ごす。
この国では貴族は3種類に分けられるらしい。
下から下級貴族の騎士爵、準男爵、男爵、子爵。
ついで上級貴族の伯爵、辺境伯、侯爵、公爵。
最後に王である。
会う予定の軍務大臣は侯爵という話だから、グラムよりも偉い、と言うか王族を除いた貴族の中では上から2番目だ。
ちょっと緊張してきた…ダレルに礼儀について聞いておこうかな…。
そうしてダレルから貴族との面会での注意や、礼節などを教えて貰っている所に使用人が来て昼食を知らせてくれる。
食堂に案内され席に着く。
仕事を中断したカシニーナも合流して、4人で昼食を取る。
和気藹々とした昼食を終わらせて昼過ぎの紅茶を楽しんでいる頃、軍務大臣への使いに出ていた使用人が帰ってきた。
何やら軍務大臣は現在とても忙しく、こちらに来る事が出来ないためカシニーナを王城に呼んだそうだ。
「キタミ殿、すまないが同行していただけるか?顔合わせもしたいしな」
呑気に紅茶を飲んでいるキタミに苦笑しながら言ってくる。仕事なので否は無い、直ぐに飲み干すと準備を整えてカシニーナに続く。
王城へは辺境伯の馬車で行き、そのまま軍務大臣の執務室へ向かう。屋敷は貴族街にあり、王城までは遠くないのだが、箱馬車に描かれたマークや、揚げている小さな旗の紋様などで人物の判断をする為らしい。
アーチを潜り、王城よりもかなり手前で左に折れて王国軍の司令本部の建物へ。
「すまないな、キタミ殿、王城の見学はまた別の機会に…その時は案内しよう」
そんなに城を見つめていたつもりは無かったんだが…。
カシニーナに続き建物の中を進む。
そして3階建の最上階、中央の部屋の前で立ち止まる。
左右で短槍と盾を持った兵士が警備している。
「アルデン領主、グラム・ファル・マザール辺境伯の使いで来た、マザール辺境伯軍 第一領兵隊隊長カシニーナ・クルト・マクロンだ。軍務大臣、ディモード・ドゥ・ロマーニ卿にお会いしたい」
「通してください」低い声が部屋の中から響き、入口の兵士が扉を開けてくれる。
部屋の中ではライオンの様な髪型の偉丈夫が執務机にかじり付き、書類に埋もれていた。
「よく来てくれましたね、グラムから話は聞いています…挨拶は結構ですから、詳細を」
挨拶しようとするキタミ達を手で制して話を促してくる。
「かしこまりました。王都のネズミ問題ですが、何を餌に動いているかは不明です。しかし、巣は王城にあり、次は王城を食い荒らそうとしている事は確かです」
カシニーナはすぐさまネズミ問題とやらについて話し出す。
ネズミかぁ、確かにね。疫病とか色々厄介だもんね。
軍まで出張るって事は相当被害が出てるんだろうなぁ、俺も寝る時は食べ物とか気を付けよう。
「それで、モンスターが協力していると言う噂について報告はありますか?」
「はい、断定出来ませんが、『魔呼びの鐘』を使用している痕跡があったと報告を受けています、それから…」
カシニーナが報告をしていると、廊下が慌ただしくなる。
「何事だ!」
カシニーナが扉の外に声を掛けるが、返事が無い。
キタミはダレルとニヴルファルに待つ様伝えて扉から廊下をそっと伺ってみる。
「怯むな!盾に隙間を作るな!押せ!」
「王城から応援要請です!」
「今前衛隊を送れば我々がやられる!魔法隊だけで王城へ行けるか?」
「やってやります!ワイバーン隊の名にかけて!行くぞお前ら!!」
どうやらモンスターが襲って来たらしい。
廊下はモンスターと戦う兵士達でてんやわんやだ。しかも陣を組む兵士達の奥からは更にゾロゾロとモンスターが集まって来ている。
「モンスターが襲って来たみたいですよ?ここっていつもこんな何ですか?」
「モンスター?!そんな訳あるか!私達も出るぞ!」
どうやら緊急事態らしい。兵士達の動きが手慣れているのは練度が高いだけだったのか。
なら、さっそく新兵器の出番だな!
「あー!兵士の皆さん!俺が5つ数えたら全力最速で床に伏せて下さい、遅れて死んでも責任は取れません!!」
キタミは廊下に飛び出すと同時、そう叫ぶとインベントリからライノを取り出して構える。
「5!4!3!…」
「まっ!待てキタミ!!」
「なっ?!全員伏せろっ…!」
「1!!」
カシニーナが何か言っていたが、反応する前に指がトリガーを引いてしまった。
まあ良いでしょ、緊急事態だし。
─ブゥゥゥゥゥウウウ!ドドドドドド!!!
隊長が言い終わるかまだか、廊下に不気味な咆哮に似た音が響き、続けて爆音が炸裂する。
銃身が高速で回転し、廊下を埋め尽くしていたモンスター達が弾け飛ぶ様に倒れていく。
隊長の号令で兵士達は伏せていたので負傷者は居ない。
と言うか流石にキタミも、兵士達が伏せるのを待って発射しているが、周りからそう見えるかは別の話である。
「キタミ殿!!兵達を殺す気か?!」
直ぐにすっ飛んで来たカシニーナに怒鳴られた。
「え?!あ、いや、あれは、見てから…あの、ごめんなさい」
「全く…だが、まあ負傷者も居ないし、これ以上は言わん。兵達を助けてくれたのだろう?ありがとう」
「私からも礼を言わせて貰いますよ。まさかこれ程に強大な魔法使いであったとは、思いませんでした。ありがとうございます」
ヤレヤレと首を振るカシニーナの後ろからディモードが出て来て礼を重ねる。
「被害と王城の状態を報告せよ!」
ディモードの声に、隊長らしき人物が前に出て来て報告する。
「は!国軍本部へ襲撃して来たモンスターは先程の魔法でほぼ殲滅されております!被害は5名が負傷、死者は無し!本部の壁が一部吹き飛びました!王城の状況は不明ですが応援要請を受けて居ると報告があります!」
壁が一部吹き飛んだ、と言いながらキタミの射線の先を指す隊長。
別に建物壊すつもりでは無かったんですよー?
キタミはそっぽを向いて知らん振りする事に決めた。
「王城守備隊がそう簡単に抜かれるとは思えませんが、応援要請に応じなさい。そこの、キタミ殿だったかな?協力してもらえますか?」
「え?あ、もちろんそのつもりですよ」
何故かディモードやカシニーナに苦笑されながら王城に向かう。
王城には外側の大門と内側の正門があり、出入りはそこ以外からは出来ないらしい。
正門では門を塞ぐ様にバリケードが張られ、押し寄せるモンスターを内側から兵士達が槍で迎撃していた。
しかし、急な事だったのだろう、バリケードは粗末な物で、突破されるのも時間の問題と言った感じだ。
「よしっ!」
ライノを担いで正門に向かうキタミの肩をディモードとカシニーナが掴む
「キタミ殿?」
ディモードが笑ってない笑顔で名前を呼んでくる。
怖い。
「あ、そうですよね、お城に当てられないですよね」
仕方ないので、そこら辺にあった金属の柵を引っこ抜き、一本の棒にする。
キタミの所持している唯一の近接スキル【格闘術】の出番だ。
このスキルは、徒手格闘の他に『武器以外の物を武器にして戦う』戦闘スタイルがある。
今回は柵を武器に戦うため、【格闘術】スキルが使用可能だ。
それからはあっという間に片付いた。
キタミの前に立ち塞がったモノは軒並み叩き潰され、吹き飛ばされ、地に転がって行く。
そのままモンスターを追いかけるように城内を進んで行く。
そこにニヴルファルやダレルも加わるものだから、城内では一時「モンスター以外の化け物が攻めてきた」と言う誤報が飛んでいた。
玉座の間の前まで来た時に、立ち塞がった近衛騎士達も一緒にぶっ飛ばしてしまったのは無かったことにしようと思う。
事故である、前に飛び出す方が悪い。
カシニーナは騎士達と合流して、後始末に参加するため司令本部に戻った。
「キタミ殿、貴殿の腕は確かに凄まじいですが…近衛騎士を打ち倒した事を不問にはできませんからね…?」
無かった事には出来なかったらしい。
◇◇◇
今日はもう後始末やらでとても話を聞ける状況じゃ無い、と言う事でキタミ達は一旦グラムの屋敷に戻る。
翌日また改めて報告や今後の作戦会議をするらしい。
カシニーナはまだ城内に残るそうで、一足先に屋敷に戻る事にする。
エントランスまでディモードが見送ってくれる。
「おやおや?こんな非常時に、故の分からぬ不審者を城に招き入れるとは、ご乱心した訳ではありませんな?」
と、エントランスで如何にも貴族な嫌味ったらしい顔のカイゼル髭の男が絡んできた。
まあキタミは眼中に無いらしく、ディモードに集中してねちっこい視線を送っている。
「ふむ…マロウ卿…この方は今回の襲撃から城を救って頂いた恩人なのです、口を慎みなさい」
自分への暴言などより先にキタミ達に対するイチャモンに苦言するとは、ディモードは信じても良いかもしれない。
「あ、じゃあ自分はこれで…」
信じても良いかも知れないけど、正直こう言う空気は苦手だ。逃げても文句は言われまい。
「む?あ、あぁ…そうか、ではまた」
呆気に取られるディモード達を尻目にキタミ達は城を後にした。
『減圧装置付き回転銃身式機関銃〔ライノ〕』
キタミが敵を爆発させずに倒す為に開発したガトリングガン。
6本の銃身が回転し射撃を行う。
威力を下げる為に圧力を銃身から逃す事をメインに据えた為、銃身の冷却が間に合わない為回転銃身を採用した。
銃身の回転及び弾の発射の両方を、機関部の蒸気圧シリンダーと魔導タービンで行う。
弾はベルトリンクで給弾され、マガジンの装着も出来る。
寸法 :1,000×500×450mm
重量 :75kg(100kg)
レート:60発/sec
装弾数:600