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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

底なしの海

作者: 爽華

【第1章 夢】

解かっていて踏み込んだのは紛れもなく双方の合意の元である。同窓会から半年が経ち、互いに恋心を上手く差し引きしながら過ごしてきた。ここで引き返せば互いに底なしの海へ足を踏み入れる事も無かったであろう。情けない事に私達は欲望という魔物に負けたのだ。目の前にある好物を食べずにはいられなかった。つまみ食い程度なら代わりの物でも構わなかったのだろうが、互いの身体が欲しかった訳では無く、心が欲しかったのだ。山麓のホテルで一夜を過ごした日が私達の記念日となった。決して欲望をぶつけ合うような関係ではなく、互いの過去、現在、未来について語り合う時間が大半であった。「出逢うタイミングが遅かっただけ。」という慣用句をよく耳にするが、互いにそんな事を考えた事は一度たりとも無かった。それぞれに守るべき家族があり、誰かの物(人)である。という事実は揺るがなかった。唯一差し出せるのは心だけ。心だけは個人の物で誰にも奪う権利はない。互いの心を大切にしようと決めたのだった。互いの妻、夫は寛大だ。愛されている。何処で何をしているのか解からずに朝帰りする妻、夫を許し受け入れるのだ。私達は感謝の気持ちを忘れ、自分達の心のまま行動してしまっていた。幸せになる権利など無い。互いの妻、夫を受け入れ、愛する事で成り立つ関係である。私を愛する権利は私の夫にあり、彼を愛する権利は彼の妻にあるのだ。認めたくない時期もあり、互いに嫉妬した。共に心地の良い居場所に依存していたのであろう。しかし、愛の形態は時間の経過と共に変えていかなければならなかった。変わらなければ、全てを失う事になる。情けない事にそんな勇気は出なかった。存分に二人だけの時間を過ごしたからこそ目が醒めたのだろう。決して誰にも知られてはならないのだ。出来るものなら死が分かつ時まで続けていこうという覚悟だけが残った。いつからか、互いの関係を「夢」と呼ぶようになった。紛れもない現実ではあるが、「夢」という名前を付ける事で互いの気持ちに踏ん切りをつけるよう、心に言い聞かせていた。


【第2章 ドライブ】

「誰にも邪魔されない場所に行こう。」暮らす町を出て海岸線をドライブした。お揃いのタバコを吹かし、信号待ちのたびにキスをした。学生時代に聞いていた歌を懐かしみ口ずさみながら。互いの背負っている責任を考えるようになった今は、人目を気にして逢うようになり、既に懐かしむ過去でしかない。



【第 章 闇】


互いの心と同時に身体も奪ってから、互いの勢いが止められず感情の赴くままに共に時間を過ごした。経過と共に形の無い物を信じる事は決して安易ではない事を思い知らされた。互いの断片的な部分だけでは無く私生活が欲しくなる時期もあった。形式の無い付き合いをしている罪悪感と背徳感に襲われ、虚しさを覚えた時は闇へ引きずり込まれそうな感覚を覚えた時期もあった。


【第 章 底なしの海】

あなたに出逢った瞬間の事はこの先の人生で一生忘れる事はないだろう。いつの頃からか忘れてしまっていた、好奇心と衝動が互いを強く動かした。目の前に広がる大きな海。優しい波音、心地よい潮風。オーシャンビューのホテルが、私達の唯一の愛の巣である。ホテルを出た瞬間から私達は他人同士。互いの愛の巣へ何事もない顔で帰ってゆくのだ。ついさっきまで朝だったのに、もはや夕日が沈もうとしている。時間は残酷な程にに刻々と過ぎてゆく、とても儚いものだ。ここから海を見ていると、どんな出来事も包み込まれるような錯覚に陥る。どうしようもない事に悩む私達が滑稽に見える程に。中学を卒業後、再会するまでの15年間。互いに決して平坦な人生ではなかった。真面目に寄り道する事もなく、ただだた前に突き進み、深い傷が癒えていない。傷口の深さに気付く事さえ出来ずに、三十と数年の月日が流れていた。振り返る余裕が無かったのだろう。随分と色々な感情を落としてきたものだ。何を落としてきたのかも気付けなかった。今更、探しようもないと思っていた。それが、なぜだろう。二人で居ると落としてきた大切な感情が「ここにあるよ。」と言わんばかりに蘇るのだ。一つ一つ拾い集めては、喜びと快感を感じていた。その快感は癖になり、現実生活を物足りなくさせた。今まで満たされた事のない心の深部が満たされていく。今にも溢れ出しそうだ。この海の水平線の先はどうなっているのだろう。何の迷いもなく、砂浜へ駈け出して、浅瀬に足を踏みいれた。強く手を繋いだまま、一歩ずつ一歩ずつ。気が付いたら深みに填まり、海流に飲み込まれていた。静かな波と大きな波が交互に押し寄せてくる。感情のままに行動する事は私達を破滅の道へと近づける。頭ではよく解かっているのにも関わらず、体と心は言う事を訊かずに歯止めが訊かなかったのだ。強く繋いだ手はいとも簡単に解けた。どんなに強い想いがあったとしても、非日常は非日常である事には変わりなく、揺るがない現実に打ちのめされるのだ。あなたは、先に岸にたどり着いた。私は必死にもがきながら、どうにか岸に辿り着いた。その時初めて冷静さを取り戻したのだ。人とは欲張りな生き物で、満たされない心の欲求を誰しもが必ず抱えている。一度、満たされてしまうともっともっとと強欲になってしまう。窮地に立たされた時、揺るがない真実が見えてくる。日々を賢明に生き続け、向き合わなければならないのだ。命尽きるまで愛する家族を守り抜かなければならないのだ。


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