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銀の銃弾と血潮の姫  作者: シン
第一章 飾りの椅子
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飾りの椅子Ⅲ

ちょっと短め。

キリがいいところがなかったので、バトルは次回です。

   ◆  ◆  ◆



 我らが『オリオン隊』は、全員が星の名前を冠した特殊武装を持っている。

これは隊長と雅少佐が半ば趣味の領域で作成したもので、俺以外はこれらを常に持ち歩いている。

 俺の場合は、二丁拳銃の本来のバトルスタイルと噛み合わないことと、【トライスター】も俺用の武装なので、特殊武装の出番がないこともあって、滅多に使うことがない。


 対して、ナタリーは最も多くこれを使う。


 なぜなら、ナタリーの特殊武装【ベテルギウス】は、自爆機能付き発信機だからである。

 自爆機能と言っても、本当に爆発するわけではない。あくまでも、吸血鬼に対して有効な爆弾、という意味である。加えて、ナタリーの身に危険が迫ったときしか発動しない。


 効果を簡単に言うと、吸血鬼が苦手とするものを、思いつく限りしっちゃかめっちゃかに吐き出す、以上である。

 雑にもほどがある仕様だが、発信機としては非常に強力かつ優秀だし、半吸血鬼のナタリーが被るダメージは軽微だ。囮捜査官が持つ武装としては、この上なく適切で効果的と言える。

 ナタリーの性格とは若干ミスマッチだが、攻撃的な人間に攻撃的な武装を持たせないようにしているのかもしれない。


「今回、この【ベテルギウス】が作動状態になっています。ナタリー少佐の身に危険が迫れば自爆しますし、そうでなくてもこちらには所在地が筒抜けです」


 デスクに座りながらそう報告する雅少佐に、隊長は重々しく頷いた。


「今回のケースでナタリーの身が危険に晒されたり、あるいは【ベテルギウス】で敵が致命的なダメージを受けたりすることは考えづらいが、それでも、最悪の事態は回避できたと思っていいだろう。問題は……」

「どうやってナタリーを奪還するか、ですね」


 俺の言葉に、隊長はちらりとだけ視線を向けた。そして、全体に向かってゆっくりと言葉を吐く。


「今回の一件、もはや普段の捕獲作戦とは規模が違う。ナタリーの身柄は安全で、しかし今まで以上に厳重に守られている。取り返すというのは、吸血鬼との全面戦争を意味している」

「だからって、このまま敵の思い通りにさせていいんですか?」

「もちろんよくない。ナタリーは奪還する。上層部も同じ意見だろう。ナタリーを広告塔に、融和派を増長させられたくないだろうからな」


 不愉快な話ではある。人を人とも思っていないような。

 しかし、これは好機でもある。上層部と意見が一致しているなら、使用可能な武装の選択肢の幅が広がる。


「次の出動では、あらかじめ【トライスター】も持って行っておくれよ」


 苦笑いとともに、伯父さんが大きな箱を持ち上げる。

 前回の作戦時、結局届けるのが間に合わなかった、『オリオン隊』随一の範囲攻撃力を誇る特殊武装。まだ雅少佐が『オリオン隊』に入る前に設計された武装で、十全な使用が難しすぎて誰にも扱えない代物が出来てしまった、という一品らしい。


「でも、今回は【リゲル】を使うかもしれないんだろ? そのうえ【トライスター】まで持って行くのは無理があるぞ」

「というわけだ。運搬役は任せたぞ、宙」

「えぇ~、そんなぁ」


 苛烈さの具現化のような隊長と、マイペースな伯父。ある意味いい夫婦だが、尻に敷かれている様子が容易に想像できるな。


 【リゲル】は俺の特殊武装である。俺のはすべて直接戦闘系の兵器であることから、どんな役回りを期待されているかがわかる。


 【トライスター】が、チャージさえすれば広範囲大規模破壊に特化しているのに対して、【リゲル】の特殊性能はかなり稀有な条件下で発動する。正直使い勝手はかなり悪い。

 他の人にはどっちも等しく使いにくいらしいが、俺にとっては【リゲル】の条件を満たすほうが難しい。使うときは『特殊じゃない』武装として使っている気がする。


 それでも、敵の本拠地に乗り込むのであれば、使いどころはあるだろう。【トライスター】は特に。

 伯父さんが戦闘が得意だと聞いたことはないので、直接戦闘はしないだろう。ならば、荷物が多くても問題はないだろう。両方持っていくためにも、協力してもらおうと思う。


「作戦決行は明日、吸血鬼が寝静まる昼間だ。しっかり体力を回復させておいてくれ」



   ◆   ◆



「で、皇帝サマってのは何をするンだよ」

「特に何もしてもらう必要はありません。ただその地位に就き、我らの行いが正統な権力のもとの行動であるということを証明する旗頭になってくれればよいのです」

「……何もするなってことか」

「そうですね。余計な真似をするな、とも言えます」


 深夜、ナタリーが連れ去られた先には、吸血鬼の王城が存在した。物語に登場しそうな、いかにもな雰囲気の巨大な城である。

 その中の最上階、王の間で、ナタリーは吸血鬼の男と話をしているところだった。


 と、そこで何かを思い出したように、男は手を打った。


「そういえば、やっていただきたい仕事ならありました」

「……嫌な予感しかしないンだが。暇でいいって、別に」



「貴方には、結婚して子どもを生んでもらいたい。第十代皇帝となる子どもを」



 予想できた展開だが、だからこそ、実現してほしくなかったことに歯噛みする。

 そもそも、ナタリーは吸血鬼と人間のハーフだ。穢れなき血筋とやらいう概念からはとっくに外れている。


 それでも血筋に拘るのは、吸血鬼の皇帝が世襲制であること、そして、今現在、吸血鬼が窮地に立たされており、吸血鬼全体の団結が不可欠であることが大きい。吸血鬼社会全体の旗頭となる存在として、皇帝の肩書きはこの上ない力を発揮するのだ。


 奇しくも、『オリオン隊』の働きが、この事態の時計の針を回していた。子孫を催促するのは、先代のポンコツが原因だろう。


(早くしてくれよ、リゲル……)


 心の中で、名前ではなくコードネームで助けを求める相手は、オリオンの中で自分(ベテルギウス)と対をなす一等星の相棒だった。



   ◆   ◆



 作戦決行、当日。

 オリオン隊は全員で最後の確認を行っていた。


「準備はいいか、ツバサ」

「問題なし。いつでも行けます、隊長」


 実際に戦場に立つのは俺一人。伯父さんは戦場にこそ来るものの、後方支援に徹してもらうことになる。

 同様に、戦場に立たずに後方支援をしてくれる雅少佐が、心配そうな顔で駆け寄ってきた。


「ナタリー少佐をお願いします」

「了解。必ず連れ帰ってくるよ」

「いざとなったら【ベラトリックス】を使います」

「それは勘弁してくれ」


 雅少佐の特殊武装【ベラトリックス】は、神経系に働きかけるジャミング系の兵器だ。敵の動きを封じることができるが、大抵の場合、味方の動きも封じることになる。


「大体、雅少佐は戦場に来ないんだから、敵が効果範囲に入らないだろ」

「いざとなったらというのは、私が現場に出向くことになって、そのうえで本当にどうしようもなくなったらの話ですので」

「そんな事態は想像したくないな……」


 後方支援が前線に出てくるだけでも異常事態だ。そうなる前に隊長が出てきて解決してくれるような気もするが。


「そうならないように戦ってくるさ」


 俺たちの、ナタリー奪還作戦が始まった。



   ◆  ◆  ◆



 発信機を使って辿り着いた先は、町はずれの工場地帯だった。


「車出してくれてありがとう、伯父さん」

「今回は荷物が多いからね~。それで、【トライスター】と【リゲル】、どっちを持って行く?」


 両方持って行けるに越したことはないが、それだと戦闘時に速度が落ちてしまう。敵は吸血鬼だ。少しでもリスクを下げるために、身軽な状態で戦いたい。


「……【トライスター】かな」


 日の届かない、薄暗い路地。このエリア一帯で【リゲル】を使える条件が整うかがわからない。それなら、ほぼ確実に使える【トライスター】を持って行く方がいいだろう。


「【ベテルギウス】の反応位置は?」

「移動はしていない。工場の屋内かな……?」

「俺が潜り込むから、伯父さんは撤退時の経路を確保しといて」

「了解。ベテルギウスを頼んだよ、リゲル」


 ちょっと格好つけて言ってくる伯父さんに、俺もまた笑って返した。


「ああ。任せてくれよ、サイフ」

「その名前は格好良くないなぁ」


 オリオン座の星の一つで、伯父さんの特殊武装の名前でもあるのだが、どうやらお気に召さなかったらしい。財布っぽく聞こえるからだろうか。


 キメたはずが、むしろ脱力を誘うやり取りの後、俺たちは一斉に通信装置のスイッチを入れた。

 電波を検知して、近くにいることがバレる可能性を考慮して、今まで電源をオフにしていたが、ここまでくればあまり関係はない。むしろ、雅少佐のサポートを受けられなくなる方がデメリットが大きくなるのだ。


『来ます! 天霧中佐、迎撃を! 柴田少将は距離をとってください!』


 いきなり響いてきた声に、咄嗟に周囲を見まわす。すると、上方からコウモリの群れが飛来してくるのが見えた。


「直々のお出ましか……!」

『どうやら敵は一体だけのようです。余程自信があるのか……』


 飛来してきたコウモリは俺の眼前で集まり、やがて一つのシルエットを作り出した。

 伯父さんが大慌てで距離をとる中、そいつは徐々にその姿をあらわにしていく。


「……来るとは思っていたが。随分と悠長なんだな、天霧中佐」

「あいつなら大丈夫だと思ってな」

「それは期待か? あるいは怠慢か?」

「信頼だよ、吸血鬼」


 基本的に、吸血鬼は単独行動だ。仲間に何かを期待するということがない。

 今回の敵は皇族で、ナタリーのことを皇帝として取り返しに来た、と語っていたため、吸血鬼にも組織があるのかと思っていたのだが……。この様子だと、この吸血鬼が個人的に行動しているようだ。


「彼女は渡しませんよ。我らの皇帝になり、これからの吸血鬼社会を築いていっていただかなくては」

「勝手なこと言いやがって。それに『渡す』じゃない。『返して』もらうぞ、吸血鬼」


 まだ【トライスター】を使うときではない。足元に箱を落とす。蓋は明けておく。腰から二丁拳銃を引き抜く。右に銀の、左に黒の拳銃が、それぞれ特有の光沢を放つ。


「……ふむ。右はまだしも、その黒い方は……。さてさて、その豆鉄砲が私に通じるとよいですな?」

「まあ、見てろって」


 不敵に嗤う。弱気は見せない。自分の勝利を信じ、冷静に、大胆に戦うことが、対吸血鬼戦闘の大原則。


「リゲル、戦闘を開始する」


 バトル、スタート。



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