2話
次から18時頃に更新します。
朝目覚めるのと同じ感覚で目を覚まし体の伸びをする。長時間固い物の上で寝ていたのか体がガチガチだ。
まだぼやけた思考で辺りを見回すが、どうやら自分のベッドから寝ぼけて転がり落ちた訳じゃないことは直ぐ分かった。
辺りに広がるのはどこまでも続いているかのような真っ白い空間。こんな場所当然自分が知っている訳が無く、人工的な空間かさえ怪しい。まだ夢を見ているという方が到底現実味がある。
そんな何も無い空間に居るのは俺だけじゃなかった。寧ろ俺もその一人だったという方が正確か。辺りには数えきれない程の人がいて、まだ意識を失っている人や、周りの人と話している人もいる。
そんな人達を軽く見回し分かったことがある。それはここに集められた人の共通点がみんな日本人らしいということだ。
徐々に意識もはっきりし始め、ここに来るまでの経緯を思い出していく。
父さんが着服したという金の返済と、父さんの行方を聞きだす。その目的で神様を自称する女の子に招待されたゲームに参加しようとして……。
と、そこまで思い出したところで、最後に見た光景、感触がフラッシュバックする。あの痛みは紛れもなく現実であった。それが理解出来ると直ぐに体中隈なく確認するが傷跡一つ見つからず、来ている衣服にも汚れは見当たらなかった。
まあ時間を止められるような存在にはこんな芸当も片手間で行えるのだろうと予想は付く。せめて痛みが無い別の方法で連れてきて欲しかったと思うのは俺の我儘だろうか。
そうこうしていると大体の人は意識を取り戻し始めているが、俺の隣ではまだ女の子がぐっすりと眠っている。
その子を一言で言うとすごく幼い。良くて中学生、下手すると小学生かもしれない。俺でさえ周りの参加者と比べるとかなり若い方だが、この女の子は群を抜いていた。
流石にそんな外見の子をいつまでも寝かせておくのもどうかと思い、肩を揺すって起こそうとする。
「おーい、いつまでも寝てないで起きろー」
「おかあさん……。あと10ぷんだけ~」
「俺はお前のお母さんじゃないっと」
肩を揺するだけでは起きる気配が無かったため上半身を起き上がらせる。すると目を覚ましたのか、目をほとんど瞑ったままだが首だけこちらの方を向く。
「今日の朝ごはんは~」
「だから俺はお前のお母さんじゃない」
額に軽くチョップを入れてやると、いたーと気の抜けた声を出しながら叩かれた場所を摩りながら漸く目を開けた。
「ここどこー?」
「俺にも分からん」
俺が答えたことで存在を認識したのか目と目が合う。俺からヨッと挨拶すると、さっきまでのが嘘かのように、女の子は機敏な動作で後ずさって俺との距離を取る。
「だ、誰ですかあなた!どうして私が眠っている所に居るんですか。もしかして変態さんですか。変態さんですね!」
「いや違うから、勝手に決めつけるな。君がいつまでも起きないから偶々隣に居た俺が起こしてあげただけ」
「何を言っているんですか。だってここは、ここは?」
ちょっとは落ち着いたのかキョロキョロと辺りを見回し、やっと自分が知らない場所に居ることに理解したようだが、状況は理解出来ていないようでまた俺に吠えてくる。
「じゃあ誘拐ですね!いくら私がお持ち帰りしやすそうだからって何度も何度も誘拐するなんて、最低です!」
「だからちょっとは落ち着けって。俺もどちらかというと連れて来られた方だから」
そう言うと、女の子は急にあわあわ仕出し顔も赤くなる。
「ご、ごめんなさい。また攫われたんじゃないかと思って慌てちゃって」
またという所が気になるがスルーして話を進める。
「俺は来栖結人って言うんだけど君は?」
「あっ、私、篠塚美里て言います」
お互いに名乗った所で、ここに居る理由、つまりゲームの事について認識に誤りが無いか確認するために情報交換を提案する。
「えっと、美里ちゃんで良いのかな。は、中学生ぐらいに見えるけど、美里ちゃんもゲームに参加するってことだよね」
「はい、神様だよって言う人に合ってそれで。あと、私中学生じゃないですよ」
「そうなんだ。ごめんね、小学生には見えなかったから」
まさか本当に小学生だったとは。最近の子は大人びているなと感想を抱きつつ軽く謝っておく。まあ最近の子と言っても流石に10歳は離れていないだろうが。
美里ちゃんの方を見ると、あわあわしてた時よりも顔を赤くしていた。どうしたのかと声を掛けようとするが美里ちゃんの声に遮られる。
「違います……。私今年で18歳になりました」
……。
「はぁ?」
思わず素っ頓狂な声が出てしまった。いやいやいや、だって俺の肩辺りぐらいまでしか身長無いのに、これで俺と2歳しか離れていないとか。
「いや、ぇ、マジ?」
「はい。こんな見た目なんでよく間違えられるんですが歴とした高校三年生です」
「それは、本当にごめん」
「大丈夫です、本当によく間違われるんで。でも小学生とはみんな言わないんですけどね。ハハハ」
大丈夫とは言うもののショックがあるのか俺と目を合わせてくれなくなってしまった。このままでは先に進まないので話題を急転換させる。
「そ、そうだ。美里ちゃんはって、ちゃん付けは無しで良いか。美里は何でこのゲームに?俺が言うのもなんだけど、こんな若い内から大金が必要になることってそんな無いと思うけど」
「さっきもちょっと言いましたけど、私よく誘拐されちゃうんです。それで身代金を用意するためにお父さんとお母さんが色んな所で借金してて」
話題の変更に成功したようで、このゲームへの参加理由を教えてくれた。やっぱり、さっきのまた攫われてって言うのは聞き間違いじゃなかったのか。
「そんな誘拐されることが多いのに、よく神様を名乗るような奴の言うことを信じる気になったな」
「だって、すごく優しそうな男の人だったし嘘ついてると思えなくって。それにゲームに勝ったらおいしいご飯もたくさん食べられるって言われたので」
美里は自信満々に答えてくれた。
うん。
とりあえず美里は外見だけじゃなく中身もまだ子供っていうことが分かった。だが男の人とは?
「えっと、美里にゲームの招待をした奴って女じゃなくって、男だったの?」
「そうですよ。確かアレスって名前で、眼鏡を掛けてて結人さんよりちょっと年上ぐらいの人でした」
ティアスも神様の一人だって言ってたし、美里の前に別の奴が現われてもおかしくは無いか。そう一人で納得し、こちらはティアスって名乗った女の子が現われたことを教える。
「いろんな神様がいるんですね」
「そうみたい。他に何か見たり聞いたことってある?」
「えーっと……」
その後も美里と情報交換を進めるが、ゲームの事や神様を名乗る奴らの能力について知っていることは殆ど変わらなかった。
「そう言えば、結人さんは何でこのゲームに参加したんですか?」
「あぁ、まだ言ってなかったか」
俺の父さんが会社の金を持ち逃げしたとされていること、その金の返済と消えた父さんについて聞くためにこのゲームに参加したということを話した。
「えぇー!結人さんあの会社の社長の息子さんだったんですか!」
「声が大きいし、そんな驚くことでもないよ」
「だってよくCMでもよく見る会社ですし、何かすごいです。」
「別に俺が何かした訳じゃないし、すごいのは父さんだよ」
改めて言われると、本当に父さんはすごい人だったと実感する。そして、ここまで有名な会社を作り上げた父さんが会社の金を盗むとはやはり思えない。何としても父さんを見つけて話を聞かなければと再度心に誓う。
「でも、見つかると良いですね、お父さん。私もよく誘拐されて家族に迷惑かけちゃってますし、結人さんのお父さんが見つかるよう応援してます」
「ありがとう。まったく父さんはどこ行ったんだか」
ちょっと照れ臭くなって頬を掻く。
会社の連中は父さんのことを信じていなかったのに、まだあったばかりの美里にそう言ってもらえたことが嬉しかった。
一旦落ち着くために辺りを見回すと、いつの間にかもう意識を失っている人はいないようだった。結構な時間美里と話していたようだが、まだ何も始まらないのだろうかと思ったその時、頭の中に直接声が聞こえた。