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グランド・グランド  作者: adhuc
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第2話「シーカー・オア・ルーカー(4)」

「それは、スミカさんが森エルフと言う事ですか?それとも、」

静まり返った室内の中、トリアが口を開く。

エルフと言う未知の物に対して好奇心が抑えられないといった様子だ。


その言葉を遮る様に、レガートさんが、トリア殿。と静かに窘める。


「いいのよ。別にそう言うの気にしてないし。」

実際そうだった。最初こそトリアのしつこさに苛立ちを覚えたものの、

こういう物怖じしない性格自体は嫌いではなかった。

空気が読めないとも言えるけど、それは私もよく言われるから

責めてもしょうがない。


「少なくとも森エルフじゃないわ。

あれはエルフと言っても人の顔した猿みたいな物だから。

言葉が通じるかも分からないし。」

私は、腐敗した葉っぱで作られた蓑で体を覆う、

淀んだ緑色の体毛と白濁した瞳をしたおぞましい森エルフの姿を想像する。


「成程。スミカさんはエルフのアマルガムなんですね。」

いつの間にか取り出してある手元の手帳に何やらメモをしながらそう話す。


「エルフが果物しか食べないと言うのは本当ですか?」

トリアは尚も私に質問を続ける。


「なにそれ!逆よ逆。エルフは肉しか食べないの。

植物は傷つけないのよ。私は両方食べるけど。」

その言葉を受けて、トリアはまた手記の上で忙しそうにペンを動かす。


「あの、町が見えてきたようですよ。」

ヒウリスが、コホン。と小さく咳払いした後そう言った。

外の様子を窺っていたヒウリスの仲間の一人が、遠くに見える町を捉えたようだ。


「ライング・ハニーとはどいう言う町なのでしょうか。

スミカさんはご存じありますか?」ヒウリスがそう尋ねて来る。


「当然ポールフォレストに入るにはそこに行くしかないから知ってるけど。

あんまり好きじゃないかな。」

私はロンガナおじさんと初めて町に行った時の事を思い出しながら話す。

昼間こそ色々な露店が街道を連ねる様子が楽しかったが、夜は一転、

詐欺師や怪しげな売人、娼婦が蔓延る町と化す。

町がライング・ハニー(横たわる恋人、又は嘘をつく愛人)。と

呼ばれる由縁でもある。

私は、その事を掻い摘んで皆に話す。


「なるほど。丁度つくのはお昼頃でしょうから、丁度良かったですね。

色々買いたい物もありますし。」ヒウリスがそう言う。



------------------------------------------------------------------------------------------------



皆がライング・ハニーに降りる為の準備をしている中、

私はどこからか焦げた臭いがするのを感じる。


最初はランタンの油の臭いかとも思うが、徐々に違うと分かる。

これは、明らかに町の方から臭ってくる。


「馬車を止めて!」

幌の中から御者に叫ぶ。たとえ小さな火事だとしても安易に看過出来ない。

ここはG2だ。


私の声の迫力に、馬車の空気も張り詰める。

レガートさんやその部下が武器を構える音がする。


私がベットから降りようとしたその刹那、鋭く風を切る音が鳴った。

そして水音と共に、幌に血が迸り、

布地を裂いて大きな矢が私のいるベットの上段に突き刺さった。


矢を確認した後、トリアにベットに隠れているよう短く伝え、

悲鳴を上げるヒウリスをレガートさん達に任せ、

室内を素早く走り抜け馬車の外に身を乗り出す。


弧を描く形になった道の奥に町がある為、丁度町の様子が良く見える。

町は、黒煙と炎に包まれていた。町からは怒号や叫び声が微かに聞こえ、

焼け焦げた空気の臭いが一層強くなる。


そして、御者を失い、混乱のまま走り続ける馬車と町の間に立ち塞がる様にして、

革鎧をまとった有角馬に乗り、弓を番えた一つの人影を捉える。

私はその姿に、自分の運の悪さを呪わずにはいられない。


精巧な革鎧に黄色に輝く鱗で作られた肩掛けを羽織り、

太陽に煌めく金の髪に、岩の様に引き締まった体。そして、鋭く尖がる耳。


「金エルフだ。」私は絞り出すようにそう呟く。



------------------------------------------------------------------------------------------------



馬車に向かって矢を番えるエルフが、馬車から身を乗り出した私を見て、

驚いた様に目を見開く。


恐らく、自分達と同じ特徴を私に見たのだろう。

何故同胞が。と言った顔で、弓矢を放つのを躊躇している。

こちらも同じ思いだ。

森に入った人間は排除しても、エルフが人の里を襲うなど聞いた事がない。


私はその隙に馬車の上に飛び乗り、運転席に向かって駆け出す。


動きに反応したのか、私に向かって放たれた矢に、剣を真っ直ぐ突き出す。

真正面から剣の先端に当たった矢は、剣を境に真っ二つに割れ、私の左右に流れる。

そのままの姿勢で私は反対の手に炎を溜めると

ボールを投げ放つように炎を投射する。

エルフの元には届かないものの、着弾した火球が大きな火柱を上げる様に馬が驚き、

前足を上げて嘶く。それをエルフが抑えている間に、私は運転席に転がり込み、

頭を貫かれた御者を道に落とすと血に濡れた手綱を握る。


ライング・ハニーの香炉が無ければポールフォレストは通れない。

このままジャーニーズ・エンドに帰るしかない。それも出来るか分からないが。


私が暴れる馬鳥を何とか制御し、来た道を戻ろうと馬車を回転させる。


丁度馬車が帰り道に向き、勢い良く走りだした所で、矢を躱す為エルフの方を見る。

しかしエルフは既に矢を放った後であり、

気付いた時には四頭いる馬鳥の内先頭を走る二頭の頭が一つの矢に射抜かれている。


生き残った馬鳥も、縄でつながれた死んだ馬鳥を避けきれずに躓き、

雪崩れる様に倒れる。


そして馬鳥達を繋いでいた縄がかけられた中央の柱が折れ、

馬鳥はそのまま馬車に轢かれる。


馬鳥の死体に乗り上げた馬車は完全に停止し、私は衝撃で馬車の外に投げ出された。


地面に体が叩き付けられる痛みを感じることも出来ず、地面に倒れ伏す。

体が動かない。


朧げな意識の中、エルフが馬を駆り、私に近づくのが見える。


「≪お前はフェリエルの子か?≫」

馬を下り、地面に倒れる私を見下ろすエルフがそう問いかけるのが聴こえる。

彼の話す言葉は、私の知らない言葉であるはずなのに、

なぜか意味を理解する事が出来る。


「≪哀れな、人に攫われたのか?体を癒さねば。里へ帰ろう。≫」

そう言いながら私の体を持ち上げようとする。

抵抗しようにも、体が言う事を聞かない。

エルフの太陽の様な黄色い瞳が、私を見つめる。


意識が途切れる寸前に、馬車から飛び出した人影が、

私を抱えようとするエルフに飛び掛かるのが見えた。


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