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グランド・グランド  作者: adhuc
3/10

第1話「紫炎のアマルガム、スミカ・シェーヌ(終)」

その後は呆気の無いもので、私の能力に縮み上がったごろつきは、

殺さないでくれ。と突如泣きながら懇願し始めた。


あんたみたいな化け物がいるなんて知らなかった。許してくれ、と。


アームや財宝の事は目敏く知っていたのに、

アマルガムの事は知らなかったのか。と、私は

最早彼らの軽率さに哀れみすら感じ始めていたので、

仕方なく剣を納めると、ごろつきは動かなくなった

赤鼻の巨漢を担ぎながら一目散で何処かへ消えた。


島外の人間は気骨が無いな。

とぼやきながら宿屋へ戻るロンガナおじさんの背中に、

私も歓声に答えながら駆け足で続く。


自分も島外の出身じゃないの?と心の中で言ってみる。


「あ、あの、すみません。」

にわかに人通りの増えた街道を横切り、

おじさんが宿の扉を開けようとした時、不意に横からそう声を掛けられる。


声の方に目を向けると、私と同い年か、少し年下くらいの、

金属製の珍しい丸眼鏡をかけた少年が立っていた。


高級な生地で作られた、西の国々で正装とされている

理知的な印象を与える服装を身に纏い、

短く切りそろえられた金色の髪と言う風貌から、

恐らくは彼も外国から船でやって来た人間だろうと察する。


普段この辺りでは、外国の伯爵とか社長とか言う身分の人間が来ている服を、

私と同じくらいの人間が着ている事に違和感を覚える。


何?と私が問う声と、客か。とおじさんが問う声が重なる。


少年はどちらの問いに答えようか迷う様に私達二人を交互に見合った後、

おじさんの方を見て小さく、ごめんなさい。客じゃありません。と断った後、

私を見る。


「あの、僕と一緒に付いて来てくれませんか。」

唐突なその言葉に、私は思わず、へ?と素っ頓狂な声をあげてしまう。



------------------------------------------------------------------------------------------------



大樹の咆哮亭に入ると、すでに数人のお客さんと、

見知ったウェイターさん四人の顔ぶれが揃っており、それぞれ私に挨拶してくれる。


「さっきの決闘、凄かったわね、流石スミカちゃん!」

歳が私より四つほど上の、紅い巻き毛のイミーラさんが、

大きな緑色の瞳を輝かせながら言う。


彼女もおじさんに負けない程戦いを見るのが好きで、

さっきも二階の窓からこちらの様子を見ていたのだという。


「まあ控えめに言って楽勝だったわ。」

そう答える私にイミーラさんは笑顔で応じると、横にいたロンガナおじさんに、

マスター、会いたいと言っているお客さんがいます。

と伝え、おじさんと一緒に二階へ上がっていった。


さてと。と私は、後ろで宿の中を見回す少年に目を向ける。


「取り合えず座ろうか。」

そう言って手近な窓際のテーブルの椅子に腰かける。

少年もそれに続いて椅子に座り、私とテーブルを介し対面する形になる。


「喉とか乾いてない?」

私の言葉に少年は下を向き、大丈夫です。とだけ答える。


そう。と私は近くにいたウェイトレスさんに飲み物を二つ頼む。

困惑している彼に、私の奢りだから。と説明する。


「それで?ていうか、まず名前は?」

私は尚も下を向く彼に問う。


「トリアです。トリア・イフライ・フィルストベルグ。」

トリアは私の言葉に顔を上げ、そう答える。


「えーっと、トリアね。よろしく。」

後半は殆ど忘れてしまった。西国の名前は長ったらしくて面倒なものが多い。

私はスミカ・シェーヌ。とこちらも自己紹介する。


「知ってます。さっき港で戦ってた人ですよね?確か、紫炎のアマルガムって。」

どうやら、私の戦いの一部始終を港で見ていたらしく、

それを見て私の後を付いてきた。と言うことらしい。


「見てたんだ?なら話は早いわね。

そうよ、私はアマルガム。アマルガムは知ってるの?」

私は先刻のごろつき達が、それについて何も知らなかった事を踏まえて質問する。


運ばれてきた飲み物を取り、ウェイターさんに軽くお礼を言う。


「はい。エレメントと言う、グランド・グランドで起きた神話戦争の名残と

言われている不定形のエネルギー体。それを摂取した人間は、

稀に超常的な力をその身に宿す事がある。

それが、アマルガム(混じり合った者)

一説ではエレメントは、古き神々の余りにも莫大な力そのものが、それが死した際、エネルギーと言う形で地上に残った物と言われているようですね。

つまりエレメントは様々な神が残した強力な残留思念。

その経緯故に摂取した人々は、エレメントを残した神の数だけ、

各々タイプの異なる様々な力を手にする、と。」

まるで辞書を読み上げる様につらつらと語る彼に、私が呆気に取られていると、

彼は、いや、グランド・グランドに関する書物には一通り目を通したので。

と説明するが、私は色々な書物の内容を今の様に正確に覚えているのか。

と更に驚かずにいられない。


「それで、さっきの件について話してもいいですか?」

彼は、私の尊敬の眼差しに照れる様に咳ばらいを一つし、

飲み物を一口飲むとそう言った。


私は同じ様に飲み物に口をつけると、もちろん。と応じる。


では、と一呼吸おいて彼は話し始める。


「『イデア』と言う物をご存知ですか。」


「イデア?知らないけど。アームか何か?」

私は上を仰ぎ少しの間考えるが、その言葉には心辺りが無かった。

しかしG2について自分が知らない事を尋ねられた時、

それの大半はアームや、古代文明のアーティファクトに関する事なのは知っている。


「はい。それがどんな力を持つアイテムかは定かではないのですが、

噂によればそれは、人の望み得る全てを成就させる究極のアームだと

言われています。」

彼の話によれば、最近ある探検家が、

G2でそのイデアなる物について断片的に記された遺物を発見したと。

そして、そこにはこう書かれていたらしい。


あらゆる理を支配するもの。

全てを遍く完全は、

大いなる大地の辺にて、

神の血を抱く、ただ一つの主を待つ。

その名はイデア。


その話は、グランド・グランド以外の諸外国では話題の的で、

一種の都市伝説の様なものとして扱われていたものの、

数週間前に「ラエル聖帝領」という北の大国が、G2への遠征を

目論んでいると噂された事から、

様々な国が我先にと通称「イデア大遠征」なるものを始めたらしい。


「へえ、それは、とっても大変ね。」

私は外国を知らないので、

それの話になると空想の御伽噺を聞かされている様な気持ちになる。


だが確かに、数日前から色々な模様の旗やエンブレムを誇らしげに掲げた

団体をちらほら目にしていたような気がする。


「イデアについては、僕も2週間ほど前に聞いたばかりの話なんですけど、

聖帝領の話を聞いて、居ても居られなくなって、

気付いたらグランド・グランド行きの船に乗っていました。」

そこから一週間の過酷な船旅に耐え、今日に至るという。


「ふーん。それで、私について来て欲しいっていうのは、そう言う事?」

片手でコップの飲み物を揺らしながらそう尋ねる。


「はい。シェーヌさん。僕と、イデアを探してくれませんか。」

はっきりと、真っ直ぐこちらを見つめて彼は答える。


しかし、私は思わず苦笑せずにはいられない。


「ウソでしょ。君、本気?」


「勿論ですよ。じゃなきゃ一週間もかけてこんな所に来ません。

それに、ここが危険だという事も知っていますが、でも、」

私の呆れたような物言いに、彼は少しムッとした様子で応える。

その言葉を遮るように私は続ける。


「危険、か。

ねえ、君が読んだG2に関する本の中に、

初期開拓の話は無かった?」


「初期開拓、確か、各国から集まった200人の実力者達が、

当時人類未踏の地であったグランド・グランドに開拓者として赴いた話ですか。

確か、生き残ったのはたったの数名とか。」

トリアは眼鏡を触りながらそう答える。


「3割。」

指を三つ立て、私は言う。

その言葉に、彼は意味を分かりかねた様子で、え?と小さく零す。


「このグランド・グランドに対し、東の国が作った鉄の船に乗って

意気揚々と乗り込んだその開拓者達が、

大勢の命を犠牲にしてたどり着いた場所の割合よ。」


そして、それが未だに最高記録。と付け足す。

彼は私の言わんとしたことを理解したようで、小さく俯く。


「その大地の辺が何処かは知らないけど、その三割に含まれていない事は確かよね?しかも、恐らくはここに太古の昔から住む亜人や獣人達ですらそれを

見付けられてはいない。そんな代物を、私達で探すの?

それって、実に現実的なプランね。」

私はそう言い切ると、残った飲み物を飲み干す。


「お金はあります。それで他に誰かを雇うことも出来ます。

それに今は、初期開拓の頃とは違い、各地に人間の町や、

大きな拠点も少なからず存在していると聞きました。」

彼はそう言うものの、やはり楽観視が過ぎると言わざるを得ない。


「それでも無理よ。私の育ての親は初期開拓者の一人なの。

だからG2を旅する辛さは良く知ってる。

分からない?君が何回挑んでも絶対に倒せないような人達が、

文字通り何百人束になっても叶わなかった相手に挑もうとしてるのよ?

知らない様だけど、夢の中でしか成立しないの、

《《姫》》を守る騎士の物語はね。」

私は語調を強めてそう言った。

彼の、死と隣り合わせと言う状況に対し無知な様子に徐々に憤りを覚えてしまう。


でも、と尚も続ける彼に、分からず屋ね!とその場を去ろうとした時、

スミカちゃん、マスターが呼んでるわよ。

と二階に上がっていたイミーラさんが私を呼びに来る。


「お金があるなら、親にお土産でも買って帰った方が有意義よ。」

去り際彼にそう言うと、トリアは今まで何を言われても見せなかった、

悲しみに酷く胸を打つような表情をするので、私は少し戸惑いながら、じゃあね。と言って、イミーラさんの後に付き、二階の寝室の一つへ向かった。



------------------------------------------------------------------------------------------------



寝室と一概に言っても、ただベッドが並べられただけの部屋から、

ソファーにコーヒーテーブル付きの豪華な個室など、

大樹の咆哮亭には何種類かの寝室がある。


私が通されたのは、その中でも最も値の張る寝室であった為、

この先に待っているのは、その値段に値する地位をぶら下げた人物であろう事は

想像に難くはなかったが、その自己紹介の内容には、流石に驚きを隠せなかった。


「スミカ。此方は、アルカナリア教国の女王、

ヒウリス・ファイ・テムラヌ・アルカナリア様だ。」

部屋にいたロンガナおじさんが、入ってきた私に説明してくれる。


私も挨拶を返し、聞いた名前をほぼ忘れながら、

今日は長い名前の人に良く出会う日だな、と思った後、遅れて女王?と驚く。


「ヒウリスで結構よ。それに女王と言っても、しがない小国の、

形だけの主であると言うだけですから。」

おじさんと向かい合い、ソファーに腰掛ける、

水晶の様に白く透き通った印象の女性が、私の考えを察したようにそう話す。


その言葉に注意をする様に、

女性の横に立つ黒い防具を身に着けた女性が小さく咳払いをする。


本当の事でしょ?レガート。と、ヒウリス女王が微笑みながらそれに応えた。


「お二人が、お前に話があるそうだ。」

おじさんはそういって立ち上がると、じゃあしっかりな。

と私の肩を叩き部屋を出る。


状況を飲み込み切れず戸惑う私に、さあ、座って下さい。

とヒウリス女王は優しく言ってくれる。


「スミカ殿。まずは、無礼を詫びる。私の名はレガート・ファイ。

姫、失礼。女王様の血統騎士である。

本来であればきちんと貴女や宿のマスターに挨拶がしたかったのだが、

長旅で女王様がお疲れになっていた事もあり、丁度私たちが到着した際、

貴方達が緊急のご用向きで出払っていたので、

不本意ながら給仕に頼み先に部屋で休ませてもらっていた。」


細やかな白鳥の様な意匠が付いた漆黒のサーコートを着こなし、

短く整えた黒髪に、気高い鷹の様な凛々しさを持つ顔つきの女性がそう話す。


その白さが際立つ女王とは対照的に、

そのレガートと名乗る女性は全身を黒色に包んでいる。


「はあ。それで、お話とは?」

私が慣れない敬語でそう尋ねると、ヒウリス女王は、

先程の穏やか様子とは変わり、真剣な面持ちになる。


「単刀直入にお話しします。

貴女、スミカさんに、私の護衛を頼みたいのです。」


前言撤回。今日は、長い名前の人に良く依頼を持ちかけられる日だ。


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