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グランド・グランド  作者: adhuc
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第1話「紫炎のアマルガム、スミカ・シェーヌ(2)」

暫くおじさんとごろつき、両者の睨み合いは続いた。


流石に相手もおじさんがただ物ではない事を把握するだけの能力はあるようで、

全員で立ち上がり、武器に手をかけていても、誰一人として動けないでいる。


おじさんも、カウンターに手を置き、相手を睨みつけたまま動かない。

この緊張感を楽しんでいるからあえて動かないのだ。と私は考える。


私は頭から三角巾を取り、テーブルに座ってその様子を眺めていたのだが、

壁に掛けられた時計が指す時刻が、ウェイターの人達がやってくる時間帯に

迫っていたので、仕方なくその場で両の手の平を数回叩き合わせる。


静寂した室内に響く音で、皆の意識がこちらに向くのを感じる。


「はいはい。そこで皆仲良くおじさんに見惚れてる所悪いけど、

こっちも客商売で色々やらなきゃいけない事があるのよ。だからこうしない?」

私はそう言いながら、テーブルから勢い良く降りる。

全く、男は自分の事しか考えない。


「一人。そっちから代表を選んで、一対一で戦うの。決闘よ。」

私は両手の人差し指を立てて、それぞれを互いに軽くぶつけて見せる。


あいつとか。と、おじさんを指してそう問いかける声に、

私は首を横に振って答える。


私と、と。



------------------------------------------------------------------------------------------------



大樹の咆哮亭を出、街道を挟んだ直ぐにある港の空き地。


私はそこに、かれこれ5年の付き合いになる、12の誕生日に買って貰った

ウィスプ鋼の剣を手にして立っていた。


穏やかな海風が髪を撫でる。


目の前には先刻宿屋でおじさんを怒らせた奴らの一人、

私に下卑た目線を送ってきた赤鼻の男が、

私と同じように大きなサーベルを手にして立っている。


先程の私の提案に、最初は彼らも失笑していたものの、

私が実際に剣を持ち出して来たり、おじさんが決闘を了承した事。

港に出てみると、朝早くとはいえ多くの人間が既に今日を暮らしており、

武器を下げた私達を見る間に囲み、大勢の観客が出来た事で

相手も引くに引けなくなり、ついには決闘に応じた。


ロンガナおじさんやごろつきの仲間も野次馬に混じりこちらを見つめている。


「朝から揉め事かい、嬢ちゃん。」

野次馬の中にいる馴染みの魚屋のおじさんが、

相変わらずのしわ枯れ声でそう言ってくる。


「おはよう魚屋さん。これは朝ご飯の前の軽い運動よ。

ほら、良く言うでしょ?こんなの『朝飯前』って。」

その言葉に観衆から歓声が上がる。

目の前の赤鼻は一層眉間のしわを深くする。


朝飯ならもう食っただろう。と言うロンガナおじさんの声に聞こえない振りをする。


こうした決闘は、まともな法律の存在しないG2の中では問題解決の常套手段だ。

娯楽の少ないG2ではこうして観客が集まることも珍しくない。

何処かの町では、大きな施設の中で興行として

日々決闘を催している場所もあるらしい。


「お前、調子に乗るなと言っただろ。もう泣いて謝っても許さねえぞ。

ガキが俺に勝てるわけねえだろ。お隣さんの目の前でその顔を

ズタズタにしてやるからよ。楽しみにしてろ。」

険しい顔をしながら低い声で唸る男の言葉に、その剣幕とは一転、

観衆からは笑い声が漏れる。


この反応は男も予想外だったようで、軽くあたりを見回している。


皆が失笑するのも無理はない。

子供だから、女だからと言う理由で能力を判断するのは、

この世界最悪の魔境では通用しない。


それに、この男は私が何者かも知らず、こうも盛大に宣っているのだから。


そう思っていると、おい、早く宣誓しろよ!とどこからか声が聞こえる。

決闘の前は両者名乗りを上げるのが通例だ。


私はそちらからどうぞ、と言う意味で相手に片手を翻して見せる。


「俺はアイラナの七英傑、岩断ちのガルガ!」

相手が状況に戸惑いつつも大声でそう呼ばわる。

観衆からはいいぞ、であるとか、すぐに死ぬなよ、といった声が上がる。


「私は紫炎のアマルガム、スミカ・シェーヌ!」

私は続いて、大きく息を吸い込むと、一息でそう言い切る。


そして剣を高く掲げると、手の先から剣身に向かい天を突くように

大きな淡い紫色の火柱を発生させる。


すると周りからは一際大きな歓声が響く。それに反して相手は

突然の炎に完全に度肝を抜かれてしまった様で、尻餅までは付かないものの、

声を上げながら大きくよろめく。


「だから言ったでしょ、あんたら馬鹿って。」

私は紫炎を纏った剣を振るいそう言うと、

相手に向かって駆け出す。


「おい、お前らも戦え!」

突進してくる私に赤鼻の男は完全に恐怖してしまった様で、

側で同様に慄いている仲間達に怒号を飛ばす。

しかし、一向に戦いに参加する様子はない。


「よそ見厳禁!」

私はそう言うと、相手に向けて剣を振り下ろす。


相手はサーベルでやっとの事でそれを受ける。

しかし、その直後剣の火を強くしてやると、

相手は驚き腰が引けるので、剣を受ける事で空いた横腹目掛け

垂直に炎を加えた蹴りを打ち込む。


燃え上がる蹴りをまともに食らった男は大きく吹き飛び、

煙を上げて地面に倒れる。


大きな歓声が上がった。

黒焦げになった革鎧から、塗られたニスが焼ける独特の臭いが鼻に伝わる。


「この後お前らも同じ目に合うんだ。

だったら一斉に掛かった方が勝機はあるんじゃないか。」

倒れた男を見てロンガナおじさんが立ち竦むごろつき達にそう助言する。

どう言う事?とおじさんの方を見ると、

こちらに向け無言でサムズアップをして来る為、おじさんの

戦い好きに呆れてしまうが、その後の、今日の夕食は肉尽くしにしてやる。

という言葉で私の戦闘意欲は極限まで高まる。


「ほら、聞いたでしょ。どうするの?

焼き加減は血の滴るレアで勘弁してあげるわ。」

私は、空いた手で相手を手招く。


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