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いや、それより僕を殺して転生させた奴に復讐させて。

しきみ彰先生の「ドラゴン愛企画2」参加作品です。


ドラゴン大好きな方、一緒に楽しんで頂ければ幸いです。

 「あぁ、さくらんぼ……」


 情けない呟きが、僕の最後の一言になった。

 

 帰宅途中、日も暮れて薄暗くなった通りを、急ぎ足でスーパーに向かっていた僕を、一台の外車が跳ね飛ばして行った。

 6月半ば、梅雨のジメジメした季節だけど、佐藤錦の売り出しに、ワクワクしてたのに。


 「やばい……手足の感覚、無い……」


 声になっていたのかも判らない。

 中学2年の夏休みまで、あと1ヵ月。そんな時期に、こんな目に遭うなんて。

 

 「ウソだろ……」


 再び、声になって無いだろう言葉が、脳裏をかすめる。

 もうすでに周りの風景も見えていない。目が霞んできた。

 ただ、僕を跳ね飛ばして去っていった、ひき逃げ犯の顔だけは忘れない。

 金髪碧眼のイケメン?許せんよね?それだけで。

 そんな奴にひき逃げされ、食べたくて仕方なかった佐藤錦を思い浮かべながら、僕はこの世とオサラバしたんだ。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 「ほう、それが最後の記憶か……」


 え?

 野太い大人の男の声が聞こえた。

 恐る恐る目を開けた僕の前に、居るはずの無いもの、その巨大な顔が有る。


 「キルシュ……」


 はい?


 「お前の名はキルシュだ。我が息子よ」


 はぁ?!

 鈍い赤色の巨大な顔で、そのドラゴンは笑った。

 そう、僕の目の前に居るのは、アニメや映画でお馴染みのドラゴン。

 なんで?


 「あなた……」

 「いい子だぞ。この子は、どうやら俺と同じ転生組らしい」

 「羨ましい」

 「お前は、この世界の生まれだが、問題なかろう?」

 「やっぱり羨ましいですよ。異世界からの転生なんて」

 「それなりの苦労は、有るんだがなぁ」


 僕を放っておいて2匹のドラゴンは、ほのぼのとした会話を続けている。

 どうやら夫婦らしい。そして僕の両親?って事になるようだ。

 なんで?

 まぁ、父親のドラゴンのセリフから、僕は異世界転生して、ベイビードラゴンとして、今ここに誕生したらしい。

 そして、キルシュってのが僕の、ドラゴンとしての名前のようだった。


 それから50年。


 あっという間だった。人間に換算すれば、僅かに5年くらいかな?だから、やっと幼稚園。次は小学生になるかって所だし。


 「お前も、もうすぐ学生か。早いもんだな」

 「父さんのおかげで、飛ぶのは一番早いよ。この辺りじゃ」


 ドラゴンパパは、僕と同じ世界からやって来た、俗に言う転生組。

 元ドイツ人で、腕利きの家具職人だったらしい。で、今は形成魔法の使い手として、結構な職人(?)だったりする。

 ドラゴンは穴ぐらに住んでなんか居ないよ。

 ちゃんと家に住んでる。ただ、サイズがデカイだけ。まぁ、人間世界と違って、数が少ないからトラブルは起きない。

 もちろん家も家具も魔法で作り出す。

 ここはドラゴンが進化の頂点にある、魔法当たり前の世界。

 ここ以外に、僕が人間として生きていた、かつての世界を含め、どうやら3000くらいは有るらしい。


 「多元宇宙と言ってな。よく似た世界が連なりながら、遠くに離れるほど全く別な、異世界ってのになるんだ。俺も詳しくは知らんのだがな」


 ちなみに父の名はバルグラド。

 お爺ちゃんに当たるドラゴンは、この世界で生きてきた魂だったらしく、ここでの一般的な名前を付けたそうだ。

 そう、転生は魂が、この世界に飛んできて起こるらしい。三千世界のいたる所から、ここを目指して。

 まさに異世界転生。どう言う法則やルールが有るのかは、実は知らない。

 まぁ学生になれば、教えてもらえるのかも知れないね。


 とりあえず、明日は父さんとキャンプなんだ。小学校に上がる前に、母さん抜きでゆっくり話がしたいんだって。

 男と男の、サシでの。なんか楽しみだ。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 「いい天気になったね、父さん」


 抜けるような青空と、その向こうにそびえ立つ山脈。

 そしてその上を飛ぶ飛翔種と呼ばれるドラゴン達を見ながら、僕はそう言った。


 「そうだな、飛行日和だ。よく飛んでる」


 人間だった頃の記憶に、ハンググライダーの聖地とか呼ばれてる山に行った時のが有って、今それが重なっちゃった。

 ちなみに飛翔種って特殊な連中で、腕というか前足が無くて翼になってる。

 多分、僕が生きてた世界でワイバーンって言われてたモンスターが、一番近いんじゃないかな?


「こっちに来たりしないよね?」

 「狩場がぶつかる事は無いさ。俺らは平原、向こうは山すそ。不用意にこちらが踏み込まなければな」


 父さんの言う通り、飛行種は山岳地帯のケモノを狩るんだ。鷹匠って知ってる?あの猛禽類みたいな感じで空からね。

 僕らは一般的な姿のドラゴン。みんながドラゴンと聞いて思い浮かべる奴。

 基本種って呼ばれてる、一応、二足歩行で手、と言うか前足、は余り発達してなくて後ろ足が逞しいって姿。

 人間で言う肩甲骨から薄い膜の、よく言われるコウモリ似たいな翼が生えてる。

 あ、そうそう、ドラゴンは、ほぼ全ての種族でウロコに覆われてます。これは常識。


 「さぁ行くか。今日は野豚か、野牛か。一頭丸ごと焼いて食いたいぞ」

 「バーベキュー?」

 「いやいや、もっと豪快に。ワイルドに、だな」


 そう言って父さんは前足、いやヤッパリ腕だね、に力こぶを作る。


 「お前も来年には学校に行くからな、その前祝いみたいなものだ」

 「まだ早いよ。あ、もちろん期待してるよ、学校。楽しみだよ」


 またまた、ちなみに、なんだけど。この世界にも学校のような物がある。

 生活に欠かせない魔法は、50歳になるまでに各家庭で教える。人間も同じだね、幼稚園に当たるものは無いけど。


 話を戻して。

 例えば、ルビーの様に赤く輝くこの巨体、かつての世界のサイズ表示なら僕は今、20メートルを越えているけど、そんなのが飛べる訳が無い。

 どれだけ大きな翼が有っても、ね。

 それを可能にするのが魔法。風属性と重力制御、それによって僕らドラゴンは空を飛ぶ。こんな生きていくのに必要不可欠な魔法は、ある程度、大きくなるまでに親から教わるものなんだ。

 で、学校ではそれを更に深く追求し、戦闘に使う為に術式として学ぶ。

 高速で飛翔し、風を刃として使い、重力を操り岩石を砲弾のごとく打ち出す事ができるように。


 なぜか?

 この世界の知的生命体は、僕らドラゴンしか居ない。野豚や野牛は言葉を話す事なんて無いんだ。

 もしも本能のままに生きれば食料を食い尽くして、同族同士争えば戦争の果てに、絶滅しかねない。

 それを防ぐ為に、僕らは他の世界に出かけ、そこで雇われて働く。


 召喚。

 ネトゲの設定で当たり前、が、ここでは生きる為の術になっている。

 3000を超えてるとか聞く、多元宇宙の各世界から呼ばれ、召喚主の元、傭兵として戦い、生きて帰れば各世界に存在する魔法の元になる力、マナを吸収して戻って来れた。

 それを世界に還元する。この世界の魔力を維持、増強する為に。

 時々オマケとして、貴金属や宝石と言った、僕がかつて居た世界でも、お宝と呼ばれる物を持ち帰る事もある。

 そうやってこの世界を潤し、豊かにする事。それがドラゴンが一人前の大人になるという事。それを教えるのが学校だった。


 よく知ってるでしょ? 全部、父さんの受け売りだけどね。

 それを教えてくれたドラゴンパパが、いきなり表情を改めて、僕に聞いた。


 「なぁキルシュ、お前は何故、学校に行きたい? 明確な理由が有るか?」


 僕が転生する時、最後の記憶を見たって言ってたからね。父さんは気付いていたんだね。


 「無理に聞こうとは、思わないんだが……」


 困ったような父さんの顔を見て、僕は静かに、でもハッキリと言葉にしたんだ。


 「復讐」

お読み頂きありがとうございました。


厳しい御批評・御感想、そして御指摘、お待ちしております。


今後とも宜しくお願い致します。

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