禁じられた扉
私のおうちには、開けてはいけない扉があります。
どうして開けてはいけないのか、中に何が入っているのか、お父さんに聞いても、教えてくれませんでした。
それでも私は、これまでただの一度も、扉を開けたり、中をのぞいたりしてはいません。
けれど今日、とうとうがまんできずに、その扉を開けてしまいました。
私が見たものは、扉の中ではなく、外でした。
この扉は、外の世界へと通じる、出口だったのです。
「ついに、この時が来てしまったね」
いつのまにか、後ろに立っていたお父さんが言いました。
「おまえは大人になったんだ。だから扉の外に出て、自分の力で生きるんだ」
私には、お父さんがなぜそんなことを言うのか、わかりません。
「お父さん、どうしてそんなことを言うの。私のことを嫌いになったの。私はずっとお父さんと一緒がいい」
「いいかい、可愛い娘よ。おまえは自由になったんだ。好きなところに行き、好きなことができるんだ」
「でも、ひとりでどうやって生きていけばいいの。ご飯は、寝るところはどうすればいいの」
「それを自分で考えて、どうにかするのが、大人になるということなんだよ」
「だったら私、大人になんてなりたくない。自由なんていらない。私はお父さんの娘よ、ちゃんと最後までいっしょにいて」
そう言うと、お父さんの顔はみるみる赤くなり、私をどなりつけました。
「扉を開けたのはおまえだろう。開けるなと言い聞かせていたのに。言うことを聞かない娘なんていらない。おまえなんてどこかへ行ってしまえ」
怒った男は外へと私を突き飛ばし、扉を閉めたのです。
私が何度呼びかけ、扉をたたき、声がかれるまで泣き叫んでも、二度と扉は開きませんでした。
外の世界で、私がはじめに学んだことは、泣いてもわめいても、扉の中には戻れない、ということです。
ここにいてもおなかがすくだけなので、行くあてがなくとも、歩くことにしました。
外の世界の床は、黒く、かたく、冷たく、ただ歩くのも大変です。
おまけに、灰色の柱が所せしと立ち並び、その間間をごうごうと風が吹くものですから、こごえてしまいそうです。
歩けども歩けども景色がかわらず、見あげてもただ青いだけで、うつむき、今にもひざをつこうかというところで、甘いにおいに気がつきました。
顔をあげると、銀の囲い、その中で咲きほこる花々。
私はそれがとてもおそろしく思えてしまい、その場からにげだしました。
息ができなくなるほど走り、かべに手をつき、へたりこむ。
呼吸をととのえ、気持ちをおちつけると、私がもたれかかっているのはかべではなく、扉だと気づきました。
おうちの扉へともどってきたわけではないようです。
なぜなら、その扉は、押しも引きも、取っ手を回すも、何もせずとも開いたからです。
扉の先を見て、私はまちがっていたとわかりました。
私が見てきたものは、扉の外ではなく、中でした。