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竜の手と異世界の乙女騎士  作者: もこ平
10/10

使命と誇り

――ドーーーン!!!


またも轟音。

石造りの聖堂全体が震え、細かな砂が天井からパラパラと降ってくる。


「地震……?」


と、フィオ。


「いや、違う」


地震の揺れ方じゃない。


(こいつは――)


――ドーーーン!!!


「攻撃だ! 外から攻撃を受けてる!」


ミサイルがある世界じゃない。

大砲?

投石機?

あるいは――


「よしっ!」


フィオが剣を取り、駆けだそうとする。


「待て! 軽々しく外に出ると危険だぞ!」

「危険だからなんだ、私は騎士だ!」


と、フィオは答えた。


「我が身を捧げても国の盾となり、民の鎧となり、明日を切り開く剣となること。それが騎士の使命なのだ!」

「でも――」

「臆病者!」

「違う、どんな敵のどんな攻撃だか、わからないから言っている」


もしかしたら、人間の想像力など及びもつなかいほど、恐ろしい怪物なのかも。

魔導師グラビニウスが、黒い本の力によって召喚したような――


「だから――」

「マサト、お前は騎士ではないのか?」

「俺が、騎士?」


フィオは胸に手を当てて言った。


「本当に恐れるべき怪物は、いつだってここにいる」

「……」

「恐怖だけではない。嫉妬や、欲望や、虚栄心や猜疑心……自らを孤独に追いやってしまう、暗く深い人間不信……」

「自らを孤独に追いやる……」

「私はそれに勝ちたい。マサトは、そうではないのか?」

「俺は……」


――ドーーーン!!!


降ってくる砂を浴びながら、俺は訊いた。


「怖くないのか?」

「怖いさ」


と、フィオは答えた。


「だが、その気持ちに立ち向かわねば。使命を果たすのにためらわないことこそ、騎士の誇りなのだ」

「フィオ……」


フィオは微かに微笑みを浮かべる。

くるりと背を向け、今度こそ出口へ向かって駆けだしていく。

その姿はどこまでも凛々しく、だからこそ美しく、取り残された俺の脳裏に焼きついて残る。


――ドーーーン!!!


聖堂が揺れる。

俺の心も揺れる。

たまたま飛ばされてきただけの、縁もゆかりもない異世界だ。

命の危険を冒してまで、わざわざ助けてやるいわれはない。


(でも――)


『本当に恐れるべき怪物は、いつだってここにいる』


この俺の、他でもない俺自身の心――


「……」


俺は手袋で隠した左手のせいで、誰からも恐れられ、遠ざけられてきた。

いつしかそれにも慣れ、自分の方から人を遠ざけるようにして生きてきた。

できるだけ、誰とも関わらないように。

ひとりきりで生き、ひとりきりで死んでいく、それが俺の運命だと思っていた。


(でも――!)


異世界に転生しても、それでいいのか?

俺はこのままでいいのか?

フィオの言う心の中の怪物に、今こそ立ち向かう時かもしれないじゃないか。


(それに――)


この左手を与えられたことに、もし意味があるのだとしたら――

それはきっと、誰かを守るため。

俺だってフィオのように、大切な場所を守る盾となり、大切な人をかばう鎧となり、未来を切り開いていくことができるはずなのだ。

この胸の暗く深い人間不信を、誇りに変えることさえできれば。


(よし――!)


俺は自らを奮い立たせるため、月下の誓いの一節を、わざわざ声に出して唱える。


「生まれし時は違えども、死ぬ時は同じ……」


(闇を滅ぼし、愛を守らん――)


愛か。

心の中で、思わず苦笑する。

そう言えばフィオは、裸を見られたから俺に嫁ぐなんて言ってたっけ。

俺の大事な人になるってことだ。

大事な人を守るために命を賭ける。

いいじゃないか、何だか本物の騎士っぽい。

俺は短く息を吐いて気合いを入れ直すと、フィオの後を追って聖堂の出口へと駆けていく。

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