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「これが魔獣の資料ね、その中から好きなのを選んでねー」
ファルコンさんから渡された分厚い資料を、テーブルの上に置いてパラパラとめくる。
「ここで作れる魔獣は全て、合成した亜種だから、野生の奴とは違うよー」
「なるほど、色々あるんですね。魔法が得意な種族が良いなぁ」
この研究室には、『分離』の魔法により魔獣のDNA情報を抜き取り、石に刻んだ『核石』が置いてある。
合成魔法により、核石のDNA情報と魔獣の素材が混じり合う事で、体を構成する細胞を作り、生きた魔獣が誕生する。
ちなみに、核となる部分がどこなのかは秘密なんだと。恐らく、竜族では宝玉にも変わる、魔力の高い心臓部だろうけど。
「試しに、私が何か作ってみようかー? 色彩鳥なら量産できるよー」
「良いんですか? 面白そうですね」
ファルコンさんは、棚に保管されていた鳥系の核石を取りだし、素材となる皮や骨と一緒に、聖水の入った調合用の大きなカプセルの中に、ぽちゃぽちゃと放り込んで行く。
合成の魔法がかけられ、グツグツと聖水が沸騰し、地面に固定されたカプセルが、ガタガタと振動し始めた。
中の素材がひっ付き合う様に縮小し、生物の幼体が作り出されて行く。
「凄いなぁ、核石があるだけで生物が生まれるんですね」
「そうだよー、ほい仕上げー」
カプセルがピカッと閃光を放ち、器の聖水が空っぽになると、茶色の体毛にビッショリと水が染み込んだニワトリ君が、コケッと容器の中に立っていた。
「ほら、出来たよー、少しサイズは小さいけどねー」
「ヒヨコが生まれるんじゃ無いんですね、僕もやって見て良いですか?」
「良いけどー、魔獣は決まったの?」
「はい、このカーバンクルって神聖獣にしてみようかと、見た目も可愛いですし」
『神聖獣』と書かれた付箋のページに、おデコに宝石のついた、キツネ見たいな愛くるしい魔獣が載っていた。
「良いんじゃないー? カーバンクルは賢いよー、魔法も使えるしねー。ただ、乗るにしてはサイズが小さいかなー」
「ええ、なので、少し体が大きくなる様に、別の魔獣とのキメラにして見ます」
素材を選んでおいでー、と言いながら、ファルコンさんはニワトリ君を抱えて窓の方へ行き、瓶に入っていたトマトジュースをクビグビと飲み始めた。
素材の棚には、各種の核石が綺麗に並べられていた。その中からカーバンクルの赤色の核石を手に取る。普通に魔法石みたいだけど、少しだけ色が燻んでるな。
調合カプセルのレバーを引いて、中を聖水で満たし、核石を放り込む。どうせだから、持ってる素材をふんだんに使って、応用の効く強いカーバンクルにしよっと。
「古代魔法・『収納』」
器の上に出現させた収納の狭間から、大気竜の宝玉をボチャッと落とす。これで大気竜の特性である巨体に飛行、水泳能力を持たせる。
怪我しない様に、再生能力も持たせよう。色彩鳥の羽をフワフワと入れる。そうだ、採取能力と毒耐性も欲しいな、エリクサー用のハーブも入れよう。
あとはー……うーん、もう考えるの面倒いな。あるだけ全部入れちゃえっと。
収納の狭間から、ぽちゃぽちゃ!! と昔集めた素材がカプセルに投入されて行く。
「こんなもんかなー、さてっと!
『合成』&『エインシェント・ゴールデンエイジ』」
魔法陣から飛び出した黄金の光が、カーバンクルの核石と混じり合い、遺伝子情報が僕の頭に流れ込んで来る。
この魔法は、血液中に眠る魔力情報から生物の生態を探り、眠っている最強の遺伝子を覚醒させる事が出来る。
カーバンクルは、砂漠地帯に住むキツネの仲間、フェネックに似た竜族の亜種だ。その大きな特徴は、宝石を模した魔法石が額から飛び出している事にある。
属性は多種多様、額の魔法石に属性を取り込む事で色が変化し、その力を得る。
合成中の僕を、興味深そうにファルコンさんが見学している。
「面白い魔法だねー、カーバンクルを解析しつつ細胞を強化できるのかい?」
「簡単に言うと、そんな感じですね」
カプセルがグツグツと煮えたぎり、細胞が生み出される、先程とは比べ物にならない程の光がピカッ!っと放たれ、うわっ!っと思わず目を瞑った。
「眩しいな……」
そっと目を開けると、カプセルからはみ出す3m近い巨体を持つカーバンクルが、青色の綺麗な目で僕を見下ろしていた。
「ドミニク君! 不味いんじゃないー?」
ファルコンさんの警告も虚しく、生まれたてのカーバンクルがガラスのカプセルをバリン! と破壊し、もの凄い速さで僕のローブの脇に噛み付いた。
「こら! 離しなよ!」
遊ぶ様な鳴き声を漏らし、僕を咥えたまま勢い良く天井をバゴーン! と突き破った。そのまま、突進で屋根を壊しながら外へと飛び出すと、背中に生えている翼がバッ!と大きく広がり、飛行魔法が発動した。
「おおっと、もう飛べるのか! 落ち着いて!」
《お断りします》
喋れるのか、さすがに魔法が使えるだけあるな。
僕のローブに噛み付いたカーバンクルは、大気竜の様に全身は青く、長い耳の生えた額には、三角形の赤色の宝石が付いている。
続け様に、壊れた屋根から白衣を脱いだファルコンさんが翼を羽ばたかせ、飛び出して来た。
「ファルコンさん! どうしたら良いですか!? この子喋れるみたいなんですけど」
「あー、たまに喋るグリフォンも生まれるから、そんなに珍しい事じゃないねー。とりあえず上下関係を教えてあげたらー?」
「そ、そんな事言われても!」
仕方ない、少し可哀想だけど……
右手を振り上げ、カーバンクルの首元に適当に振り降ろすと。ズドン!! と林に鈍い音が響き、意識を失ったカーバンクルと共に研究室の庭に落下した。




