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「有能な人材を見つけました!
上級魔法・『飛行』」
ドミニクと別れた後、レヴィアは飛行魔法で林を抜け、2階の窓からメイド室にお邪魔していた。
「メイド長、私に合うメイド服を貸して下さい!」
「急にどうしたのレヴィアちゃん!?」
「説明してる暇はありません!! ついでに猫耳も!」
「猫耳??」
ババっと着替え、息つく間もなく飛行魔法を使い、訓練場にいる騎士団の元へ飛び立った。
※
グリフォン聖騎士団、鷹の印の鎧をトレードマークに、魔獣の脅威から国を守る、聖なる団体だ。
魔法が得意な神聖獣、グリフォンに騎乗し、地上と空を支配していた。その中には当然、冒険者に勝る一騎当千の猛者達がいる。
芝生の上に集団で列を組み、訓練中の団員達が剣を振っていた。その脇で、椅子に座っていた顔面毛むくじゃらの年配の男の元へ、レヴィアが飛行魔法で空から舞い降りた。
「ウルゴ団長! お話があります!」
「レヴィアか、エドワード王子の要件は済んだのか?」
騎士団長、人狼のウルゴ、人間離れしたスピードとパワーで、長剣をナイフの様に軽々と振り回す、分厚い黒と銀の体毛を纏った2mの巨体を持つ獣人だ。
過去に、部隊を率いたレッドドラゴン討伐戦の末、生きて帰って来た不死身の人狼。騎士団には身体能力に優れたエルフや獣人が多い、団長のウルゴもその1人だった。
そんな猛者も、今まで見た事の無いレヴィアの妙な格好とその表情に、動揺を隠せずにいた。
「ほ、ほぅ、それで何の用なんだ? 見た感じ、騎士団を脱退したいのか……?」
「いえ、会って貰いたい少年がいるのです。新たな王宮調合師に選ばれたドミニクという少年です。ゴーレムを素手で倒す腕力と、特殊な魔法を使いこなす器用さを兼ね備えています、是非、うちの騎士団にと思いまして……」
「レヴィアがそこまで褒めるとは珍しいな……えー、ゴホンッ! それより、その猫耳とメイド服は何だ?」
レヴィアは、メイド長に借りた青色のモダンなメイド服に、猫耳と尻尾を付けた奇妙なスタイルで、もじもじとスカートの裾を摘んでいる。
「い、いえ、その彼は、こう言うのが好きらしく、交渉に使えるかなと……」
「な、なんだと!? その少年には、そういった感じの趣味があるのか……」
何故、少年はレヴィアにメイド服を着させたのか? 猫耳まで付けて、一体、何の研究を行うつもりなんだ? と、不信感に拳を握り締めるウルゴ。
騎士団の女性は男勝りだ、しかし、16歳と言う若さで騎士団に入ったレヴィアは、大人しく聞き分けが良い。騎士団長のウルゴにとっては、娘の様な存在であった。
「そうか、解った……その少年の所へ案内してくれ」
「あ、ありがとうございます! 団長もきっと気に入ってくれる筈ですよ、ふふっ」
ウルゴが指笛をピィー! っと吹くと、背中に鞍と手綱を付けた、1頭の大きなグリフォンが軽快に歩いてきた。
グリフォンは高貴な神聖獣だ、人間を対等かそれ以下の存在と捉え、幼い頃から愛情を込めて懸命に育て上げても、決して人に懐く事はない。
騎士団では、1人の騎士に1頭のグリフォンが与えられ生涯を共にするが、その気難しさから、途中で育成を放棄する騎士も少なくなかった。
「よしよし、こっちへ来るんだ、ロドリゲス!」
相棒のロドリゲスに、ウルゴがバナナを1本差し出すと、鷹のくちばしでモシャモシャとバナナを食べ、満足した様子で地面に座り込んだ。
その光景を見ていた騎士達が、ザワザワと騒ぎ出す。
「すげえ、バナナ1本でグリフォンを手懐けたぞ……」
「さすが団長だ。普通の奴なら噛み殺されてる所だぜ」
「まさか決闘へ行くのか!? 団長が燃えてるぞ!」
レヴィアと共にロドリゲスの背中へ乗り込み、豪快に手綱を引き、グリフォンと共にグオオ! と雄叫びを上げた。
「さて、レヴィア! 案内してくれ、その少年の所にな!!」
「はい! ウルゴ団長!」
※
「いやー、めちゃくちゃ懐いてるねえー、不思議だねえー」
「そうなんですか? 僕って結構、犬とかに好かれやすいんですよねー」
あれから暇になった僕は、レヴィアに言われた通り、魔獣研究室へと向かった。
庭から中へ入ろうとしたら、庭先に居たグリフォン君が、くぅーんと、甘えた子犬の様に頭を擦り寄せて来たので、地面にひっくり返して顎を撫でている。
「他のグリフォン達も集まって来たねえー、神聖獣は魔力に敏感だからねえー」
この人は王宮魔獣研究師のファルコンさんだ、白衣を着て話す顔には、ペンギンみたいな小さなクチバシが付いている。背は低く、割とずんぐりむっくりな体型だ。
最初見た時はビックリしたけど、話を聞いて納得した。ファルコンさんは鳥の獣人らしく、顔が少し獣っぽい、年齢は聞いてないけど、多分、結構なおじさんだ。
「へー、よしよし、ごろごろ」
結局、3頭のグリフォンの相手をする事になり、適当に野菜や果物をあげて見たら、美味そうに食べていた。見かけによらずベジタリアンなんだとか。
「ところで、僕も何か乗れる魔獣を貰えたりしませんか?」
「欲しいのー? 君なら自分でキメラを作った方が早いんじゃない? 合成の魔法使えるんでしょ」
「使える事は使えるんですけど、キメラについてあまり詳しくないので、何かオススメの魔獣とか居ませんか?」
仕方ないなーと、ゆるい感じで研究室に案内された。
天井に魔法陣を摸したシャンデリアが付いてる事以外は、調合室と部屋の作りはそう変わりない。使う魔法が合成か調合かの違いだからな、部屋のど真ん中に、鍋の変わりに透明な大きな器が置かれていた。




