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その後、燃え尽きてパタっと倒れてしまったニワトリ君を、元気が出るまで介抱してあげる事にした。
レヴィアが心配そうに、横からニワトリ君の頭を撫でている。僕の魔力が抜け、今はもう茶色の体毛に戻っていた。
「張り切り過ぎたのですね、体毛の色を変えるのにも、魔力を消費しますから」
「目がクワッとして、見るからに危なっかしかったからなー」
神殿は大きな円柱の柱に囲まれた、三角屋根の岩性の建物だ。入り口の階段を5、6段登って通路を進むと、礼服を着た30代くらいの女性の管理人が、他のお客さんの入場案内をしていた。
「あら、レヴィア。男連れとは珍しいね? 通行証の羽根を見せておくれ」
「こんにちは、マデリンさん。彼は新たな王宮調合師ですよ」
「その子が? 若いのに大したもんだねぇ」
レヴィアは、少し照れた様子で胸に付けていた純白の羽根を見せ、気の強そうな管理人さんと親しげに会話していた。チャンスだ! 何食わぬ顔でその横をスタスタと通り抜ける。
「こら! ちょっと待ちな、通る前に羽根を見せるんだ」
即効でバレたので、胸に指していたド派手なレインボーの羽根を抜き取り、仕方なく差し出した。管理人さんは珍しそうに虹色の羽根を摘み上げて、まじまじと観察している。
「こ、こんな色は初めて見たよ……これで羽根ペンを作ったら、そこそこの値が付くわよ」
「羽根ペンですか? 確かに綺麗ですけど、抜き過ぎは可哀想ですよ」
「ドミニク、大丈夫ですよ。色彩鳥の羽根は、抜いてもすぐ生えて来るのです」
そう言って、レヴィアがニワトリ君の羽根をプチプチと抜いて行くと、数秒足らずで新たな羽根がにょきにょきっと生えて来た。
再生の魔法か、それに、よく見たら羽根の表面に浄化の魔法が込められてる、魔力の浸透率も高そうだし、杖としても使えそうだな。
「もしかして、この羽根って杖の代わりになるんじゃない?」
「いえ、そんな羽根じゃ魔法は発動しませんよ、素手の方がマシです」
お試しで、羽根の先を使ってパパッと、適当に魔法陣を描いて呪文を唱える。
「古代魔法・『収納』」
空中に、大きな白い収納の狭間が現れた。いけるじゃん、発動のタイムラグは無いし、コンパクトで量産出来る、魔法商店のトムさんの杖より高性能じゃないか?
ちょっとドミニク!と、いきなり、レヴィアが僕の両肩を掴んで、物凄い剣幕で顔を近づけて来る。
「き、聞いてないですよ! 貴方、調合師じゃなかったんですか!? 何ですか今の魔法は……」
「え、普通に収納の魔法だけど」
「しゅ! 収納魔法!? どうして古代魔法が使えるのですか、貴方何か隠してませんか……?」
ふぅふぅと、荒い息が首筋にかかる。そんな事より顔が近い! マデリンさんも凄い物を見たと、眉をしかめていた。
「とんでも無い物をみちゃったわ……」
しまった……地味過ぎて忘れていたけど、収納の魔法は空間転移と同じ、転移系の古代魔法だった。王宮魔導師のレヴィアにとっては、珍しい魔法どころの魔法じゃ無かったようだ。
それから何とか落ち着いて、少し神殿の話を聞いた。マデリンさんは王宮施設の総合管理人で、みんなの頼れるマザー的な立ち位置らしい。しつこくレヴィアに彼氏彼氏と絡んでいるあたり、娘の嫁入りを心配している母親を見ている気分になる。
「調合室はあっちの林の方にあるよ。王宮施設を回る前に、神殿でエリシア様に祈りを捧げてから行きな」
「ありがとうございました、マデリンさん、これからよろしくお願いします!」
「ドミニク、行きますよ」
神殿の中に入ると、薄暗い四角い部屋の奥に、結界の女神、エリシア様の銅像が祀られていた。数人の民間人がその前に跪き、祈りを捧げている。
あれがエリシア様か……礼服を来た綺麗な女性が胸元で手を組み、祈る様に天を見上げている。銅像の下に古代文字で、祝福あれ、と一言書いてあった。
聖域を中心に火山、雪山、草原、を結界で囲った実在した女神。その名を取って僕達の町はエリシアスと名付けられた。
結界には、知能を持ち、汚れた心を持ってしまった魔獣を寄せ付けない不思議な力がある。そのおかげで今は安全に生活する事が出来ているんだとか。
「レヴィアも祈るの?」
「ええ、私たちは結界の加護を受けていませんが、代わりに貴方達、エリシアスの民を護ってもらっているのです」
この国では騎士達が魔獣の多い前線にて僕達を守っている、そんな意識がある様だ。
「そう言えば最近、あちらで良い噂を聞いたのですが、樹海の毒霧が晴らされたと言うのは本当ですか?」
「え、うん……らしいね」
「王都で噂になってます、あれはエリシア様が樹海に降臨し、毒を浄化なされたんだと」
「いやー、違うんじゃないかなあ……」
正しくは、迷子の猫を助けようとした飼い主が、勢い余って毒霧を吹き飛ばした、が正解だ……なんかすいません。
神殿を離れ、マデリンさんの言っていた通り、近くの林の中へと進むと、そこそこ大きな池を挟み、2棟の同じ外観の建物があった。片方が調合用で、向かいの建物では魔獣の研究を行っているらしい。
魔獣研究室の玄関先には、ニワトリ君が大量に飼われていた。その隣で、鷹の上半身にライオンの身体を持つ、大きな魔獣が鎖に繋がれている。
「あれは神聖獣? でかいね」
「グリフォンですよ、魔法が使える上に、陸と空の機動力が高いので、騎士団と共に戦う仲間です。魔獣研究室では魔獣の研究を行い、合成獣を作ったりしてますので」
って事は、ニワトリ君もキメラって事か。再生能力に加え、魔力の質に合わせて変色する体毛を持っている。ただのニワトリじゃなかったんだな。
「後で研究所に行ってみますか? 王宮の称号があれば魔獣の1匹くらいなら貰えるかも知れません」
「面白そうだね、調合室に行ってから少し寄ってみようかな」




