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何と無く中身を察し、チラッと覗き込む。
……ざっと500万Gはあるぞ。こ、こんなに貰って良いのかな? いや、相手は王族だ、受け取らない方が失礼にあたるか。
「いえ、結果、助けて頂いたのは僕の方ですし……」
「それで本題なんだが……」
僕の遠慮はスルーされ、大量の書類が机の上に並べられて行く。
「これは、王都とエリシアスから送られて来る、住民からの要望書類だ。まぁ良く言えばクエストで、悪く言えばクレームだな」
「そのクレームをこなすのが、王宮の称号を持つ人達の役目って事ですか?」
「そうだ、話しが早くて助かる。クエストは任意参加だし、あくまで君は調合師としての仕事をしてくれれば良いんだ……無理にとは言わん」
聞いてた話しと違うぞ? うーん、お金は懐に閉まっちゃったし、こんなの断れないじゃん。
「ちなみに、君を王宮調合師に任命した事は、ルーシス校長には話して無いからな」
エドワード王子はソファーに背を深く預け、そうサラッといい放った。要は校長に内緒で、僕を王族側に引っ張ろうとしてるのかな。
今後の事を考え、頭を悩ませていると、不意に、コンコンとノックの音がし、ゆっくりと扉が開かれた。
「あの、さっきは失礼しました……」
僕に水をぶっかけた王宮魔導師の女の子が、申し訳なさそうに、お茶を入れに来た。
「やっと来たか、紹介しよう。こいつは王宮魔導師のレヴィアだ。神殿の案内を任せようと思ってな、君とそんなに年は変わらないし、気楽にやれるだろ?」
「それで私を呼んだのですか? 別に構いませんですが」
銀の鎧の上に魔導ローブを羽織った、赤いボブヘアーの女の子は、少し気まずそうに、宙をパタパタと手で仰いでいる。
「とまぁ、そんな訳だ。よろしく頼むよSSSランクのドミニク君」
「え!? わ、解りました」
あ、そこまで知ってるんですね……他人事の様でいまいち実感が湧かないけど、校長と同じでこの人もなかなかの策士の様だ。
※
王城の敷地内には、エリシアスの女神を祀る為の『神殿』がある。
王宮の称号を与えられた者は、神殿に仕える者となり、王都を守り、与えられた施設を使って様々な研究を行う。
僕が授けられた王宮調合師の称号は、言ってしまえば、研究費用は国が持つので成果を還元しろ、と言う事だろう。
客室の間から出て、王宮魔導師のレヴィアに案内されながらお城を歩く。最初はチグハグな会話をしていた僕達だったけど、歳が近い事もあり、話している内にすぐに打ち解けた。
レヴィアは騎士の中では16歳と最年少だけど、魔法適性が一番高く、その功績から王宮魔導師の称号を与えられたらしい。
「ねぇ、レヴィア。一体どこへ向かってるの?」
「神殿の中に入るには、魔力の汚れを調べる検査を受ける必要があります。汚れのある者は、王宮の施設にも入れませんからね」
「何その検査って? ステータスカードを使うの?」
「いえ、エリシアスではそうかも知れませんが、王都では、ある生き物を使って検査します。まぁ、見て見れば解るです」
お城から出て、暫く歩くと、王城の敷地内にどーんと佇む巨大な神殿と、周りに複数の施設が並んでいた。
「あれです」
レヴィアの指差した先、神殿の前をコケコケっと、可愛らしい太ったニワトリが数匹、地面の芝をクチバシで突いていた。
「あれがそうなの? 茶色のニワトリじゃん」
「あれは色彩鳥と言って、魔力を込めると、神聖度の高さに応じて体毛の色が白く変化します。邪悪な心を持った魔力を感知すると、逆に黒くなるのです」
なるほど、神聖度が高ければ高い程、白く、汚れのない魔力って事か。
そう言って、レヴィアが茶色のニワトリ君を抱き上げて魔力を込めると、コケー!と力強く鳴き、体毛がキラキラと純白に変わった。
「凄いね、本当に真っ白になった……」
「ふふん、純白に変わるのは凄い事なのですよ。この羽を抜いて胸元に刺します。これが王宮施設への入場許可証がわりになるのです」
ステータスカードの時の記憶が蘇る、嫌な予感がする。
「じゃあ、ドミニクもやってみるのです」
「う、うん」
恐る恐る、ニワトリ君の太った胴体を掴み、魔力をこめると、レヴィアの時と同じ様に、体毛が茶から純白に変化していく。
「驚きました、まさか、私と同じ純白級の神聖度とは……」
「これって凄いの? あれ? まだニワトリ君が踏ん張ってるみたいだけど」
違う、お前の神聖度は純白などでは表現出来ない、本物を見せてやる! と言いたげな眼でニワトリ君が僕を見ている。いや本当、余計な事しないでね?
白の体毛に変わったニワトリ君がプルプルと震え、目が飛び出しそうな程力んでいる。
コケー!!! と凄まじい鳴き声がし、純白の体毛が、一瞬で鮮やかな7色へと変化した。
「7色だ! これって汚れてるの? そうじゃないの?」
「レ、レインボーですね……私も初めて見ましたけど、虹は結界を意味する神聖な物ですよ」
「そうなんだ、良かった……」
ニワトリ君から羽を1本拝借し、胸元に刺してから、神殿へとお邪魔する事となった。




