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新たな杖 2

 まずは安くて上質な素材の確保。お金が無いなら安い素材を良い素材に変えるまでだ。


「ねぇウーリッド、魔法商店に大きな鍋ってあるかな?」


 腰の高さに手をやり、大体の大きさを伝えてみる。


「大きな鍋……多分、お店の倉庫にならある……」


 素材改良と言えば、僕の得意な『合成』の魔法だ。まずは鍋の確保から始めよう。


 決闘の果てに倒れたトム先生は放置して、ウーリッドと2人で倉庫へ向かう。売店に入って2階の階段を登り、紫の絨毯の敷かれた通路を進む。


 案内された店裏の倉庫、兼、在庫置き場に、ホコリを被った大きな土鍋が、家具に埋もれて頭を出していた。


 あったあった。合成に使うには丁度良いサイズの土鍋だ。

 鍋の前に置かれていた家具を両手でしっかりと持ち、邪魔にならない所へ移動していく。


「何でこんなに家具が沢山あるの? 店内で売ってる様子は無かったし、元々は家具屋だったとか?」


 僕がそう尋ねると、放置されていた家具を寂しそうに見つめながら、ウーリッドは語り始めた。


「元々、うちの売り上げの(ほとん)どが、ママの作った家具だった……」

「そうだったんだ? でも店内に家具は数点しか置いてなかったよ?」


 箒以外に目立っていた物と言えば、入口にあった魔導ローブくらいだ。机や椅子は、目立たない所に休憩用として2、3点置かれていた程度だ。


「もう家具を作れる人が居ない……高級志向のパパに嫌気がさしてママは出て行った……」


 ああ、決闘の時にトム先生がそんな事をちらっと嘆いていたっけな。

 この魔法商店は元々は家具屋で、ウーリッドのお母さんが経営していたらしい。トム先生と結婚し、お店を魔法商店にリフォームした後。数年間経営を続けるも、こだわりの強いトムさんと意見が分かれ別居。


 その結果、売れない箒しか作れなくなった魔法商店は赤字経営になったと。


 可哀想に……ここだけの話、さっきトム先生をぶっ飛ばしておいて良かった。今の話聞いて急にスッキリしてきたぞ。


「よーし、土鍋が手に入ったぞ! また工場に戻ろう」


「おー……」


 家具を丁寧に移動し終え、土鍋ごと工場へと転移した。


 ※


「このままだと合成鍋としては使えないんだ。まずは、宝玉を鍋に取り付けて改造しないとね」


 収納の狭間から花竜の鉱石を取り出して、掌でキャッチした。


「約束通り、この鉱石を研磨して宝玉に変えて欲しいんだ」


「え……こんな貴重な鉱石を鍋に使ってくれるの?」


「まぁ、見てのお楽しみだよー」


 鉱石の状態だった花竜の心臓を、工場でウーリッドに研磨して貰う。

 真剣な表情でテーブルに座り、鉱石の不純物を回転式の魔導刃でガリガリと研磨していく。

 華奢で可愛らしい見た目からは想像もつかない職人技だ。


「完成した……どう?」


「ピカピカだね。今までみた鉱石の中で1番、綺麗に研磨されてるよ」


「ふふ……」


 今度は僕の番だ。宝玉に変えた花竜の心臓を、土鍋に取り付ける。

 鍋そのものを合成の素材にしたい時は、通常の時と同じ様に聖水を満たした鍋の中に素材を入れて、合成魔法の対象に鍋を指定するだけだ。


「いくよ。

 初級魔法(オリジナル)・『シンサシィス(合成)』」


 ピカッ!っと閃光を放ち、鍋の淵に一瞬にして宝玉が綺麗にはめ込まれた。

 パチパチと拍手の音が聞こえてきた。


「すごーい……便利な魔法だね……」


 これで準備は完了だ、あとは安い木を持って来てっと〜。

 

 合成に火は使わないけど、魔法による水の沸騰で熱を起こすので、人のいない安全なスペースを使う。


 設置した鍋に浄化の魔法を掛けた聖水を入れ、加熱の魔法で一気に沸騰させる。

 良し、これで大体の準備は整ったな。


 それから数分後、裏庭で寝ていたトム先生がやっと目を覚ました。


「うぅ、体が痛む……ここはどこだ? 俺は負けたのか?」


「パパ……ドミニク君が魔導具部の為に頑張ってくれてるよ……あと、惨敗だった……」


 決闘の後にヒールの魔法をかけて置いたから、体の方は問題ないと思う。問題なのは、勢い余ってまた教員を空に打ち上げてしまった事くらいだ。


 気まずさを誤魔化す様に、工場の前のベンチに腰掛け、ゴミ置場で貰った4弦楽器のウクレレをポロンポロンと奏でる。


 トム先生の視線がチクチクと刺さる。

 今、僕の目の前では、数分前に沸騰させた土鍋がグツグツと煮えたぎり、湯気を出している。勿論、作っているのは杖の素材だ。


「ドミニク、これは何を合成してるんだ?」


「比較的、安物の木で、天空の木の木目を綺麗に再現しようとしてるんですよ」


「こんな茹で上げて、あの高級感溢れる木目が再現されるわけ無いだろ。と言うか……今時、鍋ってお前、魔女みたいな奴だな! ははは!」


 トム先生が腹を抱えて笑いながら、僕の肩をバンバンと叩いてくる。さっきまで決闘に負けて倒れてたとは思えない態度だな……うーん、腹立つな!


「ほっといて下さいよ、誰の為に素材を作ってると思ってるんですか」


「ね……パパ‼︎」


「うぅ、すまん!」


 娘が睨み付けると、すぐに大人しくなった。

 聖水を入れた鍋に木材を突っ込み、宝玉に刻まれた『保護』の魔法が浸透する事で、天空の木と同じ木目を作り出す事が狙いだ。


 わざわざ貴重な花竜の宝玉を使ったのは、宝玉には複数の魔法を刻む事が出来るし、花竜は土属性なので木材強化に適しているからだ。


「そろそろ、木が飛び出して来ますよ! 鍋から離れて下さい」


 ピカッ!っと鍋が閃光を放ち、カランコロン!と木の棒が飛び出して来た。


「合成完了です。トム先生、素材を確認してください」


「お、おう、まぁ期待はして無いがな。一応見てみるか」


 トムさんが転がった木の棒を拾い上げて、クルクルと回して木目を確認し、ブツブツと何か呟きながら震えている。


「これはまさしく天空の木の木目だ! うぉぉ! 本当に普通の木からこの木目が出たのか? すげぇ」


「パパ、うるさい……」


 どうやら、成功したみたいだな。今回、合成に使った木は『生命の木』だ。

 この木は、エリシアス地帯によく生えていて、一般家庭の家具等にも良く使われている低コストの木だ。


 魔法商店には、家具の素材だけは格安の仕入先があるらしく、この木を選んだ。

 この木の特徴は、生命力が高く、長持ちする事にある。木目を再現するのが目的であれば、天空の木1%に対して、99%の生命の木でこの素材を作り出せる。


「早速、杖を作ってみよう。ウーリッドがやってみてくれるかな?」


「えぇ、私、合成の魔法は使えない……」


「いや、花竜の宝玉には『合成』と『思考形成』の魔法も刻んであるんだ。木をかき混ぜながら杖の形をイメージするだけで良いよ」


「本当に? じゃあ、私がやってみる……!」


 トム先生の作る魔導具は、全体の材料費の80%近くを占めている割に売り上げは全体の1%しか無い。この素材を使えば大幅に売り上げは改善される筈だ。


 ウーリッドが、鍋の淵に取り付けられた宝玉に触れ、魔力を込めながらイメージを膨らませていく。瞬く間に鍋が光を放ち、ポーンッ!っと杖が飛び出して来た。


一一一一一一一一一一一


『名前』:ライフウッド・スタ(生命の杖)ッフ


『素材・種類』:生命の木、合成杖


『属性』:土


『杖ランク』:A


『攻撃力』:C

【打撃の威力】


『魔力変換効率』:1200%

【付与魔法発動時の魔力の上昇率】


『消費魔力軽減率』:30%

【魔法発動時の消費魔力の軽減率】


『製作者・ブランド』:ウーリッド・レガシー A

【魔導具作成、適性者のみ表示】


『ステータスカード称号』:合成の杖 :生命の杖


 一一一一一一一一一一一


 完成だ! まぁまぁの性能だな。

 見た目は杖というより、葉っぱのついた木の枝って感じだ。トムさんにも杖を手渡して性能を見てもらおう。


「ほら、杖が完成しましたよ。見て下さい」


「凄え、安物の木がこの性能の杖に変わったって言うのか……? ならば、俺が今まで作っていたのは一体何だったんだ……」


「ただの棒ですね!」とは言えず、膝をついて座り込み、思考停止したトムさんの肩に優しく手を置いて語りかけてみた。


「どうですか? もう高級な木にこだわるのはやめて、普通に商売して下さいね」


「ああ……悔しいが完敗だ……ウーリッドの事は頼んだぞ」


 あれ、まだその話続いてたの?


「よろしくお願いします……ポッ」


 もう駄目だ、この親子のペースに飲まれたらろくな事にならない! さっさと家に帰ろう……。


 それから、鍋の使い方をみんなにレクチャーし、量産可能な事を確認した。


 トムさんには、パパと呼ぶように強制されたけど全力で拒否し、杖を2万G以下の安値で売る事を約束してから魔法商店を後にした。


「じゃあまた、養成学校でね!」


「うん、またね……‼︎」


 帰り際に、ニコニコのトム先生にまた遊びに来いと誘われた。まぁ、大気竜の素材があれば魔導具部を立て直すお金には困らないからね。


 あれ? そう言えば僕だけ天空の木の報酬貰ってないぞ⁉︎ あーあ、あの魔導具部にはまだまだお世話になりそうだな。

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