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新たな杖 1

 棚から牡丹餅で大気竜の素材が手に入り、本来の目的を忘れてしまっていた。


 魔導具部に来たのは、花竜の鉱石を研磨して宝玉に変えて貰う為だ。


 クエスト条件は達成したので、後はトム先生から報酬として天空の木を頂こう。


「な、何で大気竜が庭に突き刺さってんだ」


「これってもしかして、あの時の……」


 トム先生とウーリッドが、裏庭に頭から突き刺さった大気竜を見て呆然としていた。リバースverのッジメントの魔法と転移魔法を組み合わせて、ここの裏庭に力一杯叩きつけてやった。


「僕が道中で狩ったんですよ、竜族の素材はいくつあっても困りませんからね」


「お、俺はもう疲れた……帰る」


 転移の狭間に酔い、すっかり意気消沈したトム先生が猫背で去って行った。


 裏庭に立つ僕達の眼前には、転移の狭間に適当に放り込んだ竜族の素材と、ロープで縛られた天空の木が転がっている。

 10m級のドラゴンの素材はサイズも大きい分、かなりの量になったので、転移魔法で家の合成室に運んでもスペースが足りない。


「なんとかして、大気竜の素材を片付けないとね。いかんせんサイズが問題なんだよなぁ」


「んん、まだ未解体の大気竜も残ってるし、この量をどうやって片付ける……? 」


 そうだな……『収納』の魔法って無いのかな? 転移魔法があるくらいだ、同じ原理の魔法なら理論上は可能な筈だ。


「良い考えが浮かんだよ。一旦、僕の家から古代の魔法書を取って来るよ」


「うん、ここで待ってる……」


 転移の狭間を作り出して、家のリビングにワープした。本棚から古代の書を手に取り、再び転移魔法で裏庭に戻る。


「おかえり、早かったね」


「まぁねー。収納、収納っと〜」


 古代の書のページをパラパラとめくると、魔法使いが家具を異空間に収納しているイラストのページを発見した。


「見つけた! えーと、対象を指定して魔法を使うのか」


「魔法? 何する気……?」


「手で運ぶのは大変だから、収納の魔法を試してみるんだ」

 

 地面に転がる大気竜の素材に、魔力の矛先を向けて収納魔法を使ってみる。


「古代魔法・『ストレージ(収納)』」


 ブイーンと空中に現れた白い収納の狭間に、一瞬にして素材が吸い込まれて消えた。


「あらら? 消えちゃった……」


「上手くいった! 魔法で作り出した異空間にアイテムを収納されたんだ」


「異空間……? 不思議な魔法だね……」


 おお? 収納した素材のリストが自動的に頭に流れ込んでくる。この魔法があれば大型魔獣の素材回収から薬草採集まで何でもこなせるな。もう鞄いらずだぞ。


 それから、ウーリッドに引っ張られ、庭の隅にある大きな魔導具工場の中へと案内された。


 入り口は大きく開いていて、工場の奥の作業場まで見渡せる。入って直ぐの所で、魔導具部の生徒達が台に置かれた天空の木を、手動で魔導具のサイズに切断、加工し、綺麗な木材へと変えている。


「本格的な部活だな、あれは何を作ってるの?」


 グリップのついた木の板に、横向きに倒した小型の弓が取り付けてある。


「クロスボウだよ……うちの武器の値段は平均してだいたい200万Gくらい……」


「へぇ……」


 なるほど……結構な値段だな。

 普通の弓と違ってクロスボウは、瞬時に弓を放てる上に命中率も高い。それなりに値が張るのも納得が行く。


「これの他には普通の弓もあるの?」


「ロングボウがある……天空の木に含まれる風の属性は、弓との相性が抜群……」


 手渡された試し撃ち用の、大型の弓を構えて見た。


「僕は弓の方が好みだな、かっこいいし」


 グリップの部分は鉄製のフレームで、小型の魔法石が取り付けられている。


「その弓の魔法石には、射撃のスピードと命中率を上昇させる魔法が込められてるの……それも価格は同じく200万Gなの」


「そっか……」


 弓も200万Gか……そっと、テスト用のロングボウを台に戻し、一息つく。


 ふぅ……高すぎだろ‼︎


 せっかく、ウーリッドに案内して貰ってるので、面白そうな魔導具を見学して回る事にした。


「どんな魔導具を探してるの……?」


「そうだなー、植物系の魔法に介入したり、解除できる魔導具って何か無いかな?」


 前回の花竜戦の対策だ。人間の魔法では一切介入できない。

 植物系の魔法が扱えれば、防ぐ事の出来ない最強の魔法になり得るし、今後植物系の魔法も妨害したり破壊できる様になる。


 僕の返答にポンっと手を叩き、工場のガラクタ置き場に重なったまま放置された、古めの魔導具を漁りだした。


「あった……珍しい注文だからこれくらいしか思いつかないけど……


「それって、楽器だよね?」


 ウーリッドが持って来たのは、真っ黒な木目のボロい『ウクレレ』だった。エリシアスには良くある、小型の4弦楽器だな。


「これは呪いの魔導具……植物系の魔法が込められてるらしいけど、使い方は解らない……」


「ただのウクレレに見えるけどね、試しに弾いて見ても良いかな?」


「どうぞ……」


 受け取ったウクレレのナイロン弦を、ポロロンと弾くと、確かに植物独特の魔力波を僅かに感じた。


「確かに、植物の魔力派を感じるけど、そもそもそれが読み取れないからなぁ……」


「困ったね……」


「これだけでも十分だよ、このウクレレ、売ってもらえないかな? 少し調べて見たいんだ」


「ただで上げる……私には価値がわからないし……」


「本当に⁉︎ ありがとうウーリッド!」


 数百万Gは覚悟してたけど、まさかの無料だった。この工場はそれなりの施設と人数で、しっかりと仕事をこなしている様に感じたけど、やはり、値段の問題で売り上げは良くないだろう。


 さて、そろそろトム先生の所へ行くか。

 って! さり気無くウーリッドが腕を絡ませて、チラチラと上目遣いで僕を見てくる。


 なんか懐かれちゃったな……うーん、ウクレレ貰った手前、振り解く訳には行かない。このままトム先生に会うのは不味い気がする。


 嫌な予感を抱えたまま、工場の奥の扉を開けると、トム先生がバイトの学生と一緒に、机に置かれた箒の調整を行っていた。


「はぁー……何かが違うんだよなー。解らんなぁ、木目がなぁ……」


「さっきと何処が違うんですか? ほぼ同じ性能に仕上がってるじゃないですか」


「いや、木目がなぁ」


「木目って……トム先生、いい加減にして下さいよ」


 納得いかない顔で、木目をカリカリと爪で引っ掻くトム先生。


 どんだけ木目が好きなんだよ……向かいの机に頬杖をつくバイト君はもう帰りたそうだ。


 2人と目が合い、時が止まった。


「うぉい⁉︎ お前何でウーリッドと腕を組んでるんだ‼︎ いつからだ……俺は交際なんて認めてないぞ!」


 やっぱりこうなったか……尚も、腕にしがみ付くウーリッドに、空気を読め! とアイコンタクトを送る。


「ドミニク君……」


 気持ちが伝わったようだ。

 ……いや、伝わってない! 僕の腕を抱きしめたまま顔を真っ赤にし、うるうるとした瞳で何かを訴えている。


 トム先生はお手上げと言った感じで、椅子にだらけて天井を見上げている。


「あー、そういう事かぁ、嫌な予感してたんだよなぁやっぱりなぁ〜」


 唐突に、持っていた調整中の箒をボキッ! と折って放り投げ、鬼の様な闘志を見せて立ち上がった。


「ギルドがなんぼのもんじゃ! 裏庭に出ろ、俺に勝ったら娘との交際は認めてやる!」


「箒が⁉︎って言うかなんで僕が⁉︎」



 それから裏庭に出て、何故か決闘をする事になってしまった。


 高度2000m付近からボトン!っと、地面に落下したトム先生。握っていた自慢の杖が手から離れ、コロコロと庭を転がる。


「つ、強すぎる……俺の杖は最高級の物なのに……まだだ、娘との結婚は絶対に認めんぞ⁉︎」


 くっそ、いつの間にか結婚の話しになってるし……仕方ないのでもう1回飛ばしておこう。


初級魔法(オリジナル)

『アトモスフィア・デス・ジャッ(大気の死の審判)ジメント』」


「ひえぇぇ!」


 立ち上がる間も無く、悲鳴をあげながら空高く舞い上がって行く。

 タフだな、娘を思う父の力か。


 ポッと頬を染め、嫁入りを決心したウーリッドが恥ずかしそうに顔を隠している。


「もういい……ドミニク君の気持ちは伝わった……ポッ」


 いや、交際を認めて貰う為に闘ってる訳じゃ無いからね!


 また忘れた頃に、ボトン!っと地面に落下して来たトム先生。


「うう……経営は赤字で嫁も出て行き、娘まであんな化物に奪われてたまるかぁ‼︎」


 化物って……赤字も何も、そりゃ消耗して壊れやすい弓や杖を数百万Gで売ってたら、お客さんも離れて行くだろ。

 それに生徒相手の商売なら、もっと何か安い素材で、良い魔導具を量産出来ないと商売にはならない。


 仕方ない、ウーリッドと魔導具部の生徒達の為に一肌脱ぐか。新しい杖を作るついでだ!

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