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魔導具部とその娘 2

 ウーリッドに制服の袖を引っ張られたまま、売店の裏庭へ飛び出した。


「こっち、急がないと出発しちゃうかも……」


「出発って、どこかに合流するつもりなの? とりあえず、説明してくれるかな?」


「ご、ごめん……慌ててたの!」


 目が泳がせながら僕の手を離し、深々と水色の頭が下げられた。


「鉱石を研磨する代わりに、力を貸して欲しいの……パパの伐採クエストに参加して欲しい」


「伐採クエスト? 一体何の素材を手に入れるクエストなの?」


 伐採と名の付くクエストは、特殊な木などを採取するクエストだ。魔導具部ならその様なクエストを受けていてもおかしくはない。


「説明は後でするから……あっちだよ……」


 売店の裏庭を見渡すと、雑草が生えて荒れ気味の広場に魔導具を作る為の工場が建っていた。


 ベンチの所に何人か生徒が集まってる……。

 生徒達を仕切っていた教員らしき人物が先頭に立ち、何やらクエストの説明を行なっている様だ。


「『飛行(フライ)』の魔法。それは、2連詠唱が使える魔導師にのみ扱える空を飛ぶ魔法だ。エリシアスの広い自然地帯を移動するには、飛行の魔法は欠かせない一一一」


 ウーリッドが教員らしき人物を指している。あの人がクエストリーダーか。


「あの人が私のパパだよ……魔導具部、顧問のトム先生」


「パ、パパ? 驚いたな……教員が父親だなんて珍しいね」


 確かに、良く見たら親子そっくりな青い髪と青い眼をしている。冒険者と言うよりは、エプロン姿が似合う家庭的な男性だ。


 講習中の集団の方へと歩いて行くと、トム先生がこちらに気付いて声を掛けて来た。


「遅いぞウーリッド……もうクエストの説明が始まってる所だ。準備は出来たのか?」


「ううん。それより、助っ人を連れて来たの……」


「助っ人? そいつがか……?」


 トム先生が疑いの目を向けてくる。

 とりあえず、挨拶しておくか……。


「はじめまして、トム先生。さっき、ウーリッドに売店を案内して貰い、魔導具を見せて貰いました」


「ふぅん、そうか……売店をねぇ」


 何か言いたげだな、僕に疑いの目を向けている様に見えるけど……。


「君はまさか、うちの娘とお付き合いしたいってんじゃ無いだろうな……?」


「言ってませんけど」


 即答で返すと、ウーリッドはまた始まったと呆れ顔でトム先生の腕を摘んだ。


「パパ、言ってない……!」


「そ、そうか……とても頼りになりそうには見えないな……その子には悪いが今日の所は帰って貰え。地味でハーブ採取とか得意そうな顔に見えるし」


 大体あってるけどほっとけ!


「この子は学年首席の実力を持っているの……それに、呪いの力を秘めた解析の魔法を妨害してた……」


 ウーリッドが腕につけていた銀色の腕輪、解析の魔法のリングに触れると、不思議な文字の光が辺りを包んで行く。

 やっぱり、さっきのは呪いの魔導具か……見たところ呪いの影響を受けてる様子はないし、かなりレアな魔導具だな。


「いやいや、妨害なんて出来るわけないだろ……自己紹介だけしたら帰ってくれるか?」


 トム先生が僕の肩に手を置き、諭す様に語りかけてくる。


「はぁ、じゃあ挨拶だけして帰りますね……僕は新入生のドミニクと言います」


「「ドミニクだと⁉︎」」


 トム先生と生徒達が一斉に叫んだ。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 君が噂のドミニクだったのか……いやー、職員室は君の噂で持ちきりだぞ。何でも実技の授業でカルナ先生を打ち破ったんだってな?」


「僕、地味な顔で、これからハーブ採取に行って来ますので……帰りますね」


 トム先生が、僕の足にガッシリとしがみつき離してくれない。


「す、すまなかった! さっきの失言は忘れてくれ! クエストを手伝って欲しいんだぁ、お願いします!」


 今度は、妙な3人組が立ち上がり、僕の前に来てポーズを決めた。

 リーダーらしき男が真ん中に立ち、持っていた箒を天に掲げ、気合の入った声を上げた。


「俺は養成学校1年、Bクラス。飛行隊『GO・TO・HELL(地獄に落ちろ)』のリーダー、シュルトだ。よろしく‼︎」


 こんな見るからに危なそうな生徒いたっけな⁇

 奇抜なピンク色の鶏冠(トサカ)ヘアー、悪そうな顔つきに、命知らずな眼をしている。


 リーダーに続き、そっくりな双子の舎弟が自己紹介を始めた。2人共、ブラウンの控えめな鶏冠(トサカ)ヘアーをしている。


「俺の名はホビーっす!」


「俺の名はリッチだ。俺達は今世に未練など全く無い、死を恐れぬシュルト飛行隊だ」


 3人とも、飛行時に身を守る為のプロテクターを付けず、ほぼ半裸にシルバーアクセを付けた危険なスタイルだ。


 うーん……世紀末だな。


「お前が例のドミニクか……気に入ったぜ、気合い入ってんな!」


 シュルトがバンバンと肩を叩いてくる。レオルみたいな奴だな。

 ジト目で3人を見ていると、舎弟のホビー君が真剣な表情をして、僕の肩に手を置いて来た。


「見かけで判断しないで欲しいっす。こう見えてシュルト君は、エリシアスの飛行レース大会で3年連続優勝してる実力者なんだ」


「そ、そうだったんだ? 見た目のインパクトが強すぎてつい……」


 確かにホビーの言う通りだ、見た目は関係ない。シュルト達は飛行に特化した、空気抵抗の少ない半裸のスタイルで統一しているに過ぎない。


 申し訳無かったと反省していると、シュルト飛行隊はお揃いの魔導ローブを取り出し、ババっ! と音を立て羽織り、揃ってドヤ顔を見せた。


 3人の魔導ローブの背に()われた『音速(マッハ)』のダサい刺繍(ししゅう)がチラチラと視界に入って来る。


「プッ……」


 既に半笑いのウーリッドは必死に口を押さえている。僕もプルプルと震えながら必死に笑いを堪える。


 笑っちゃ駄目だ……今怒られたばかりだろ!


「……マッハ⁉︎ ブファー! 何だそれダセェ‼︎」


 先にトム先生が噴き出したぞ⁉︎ 教師なら我慢しろ!


 っていうか、トム先生も冒険者というよりは店長っぽいな……この学校って普通の冒険者はいないのか?


 自己紹介も終わり、再びトム先生が場を仕切り始めた。


「えー改めまして、魔導具部顧問のトムだ。まずは今回の『伐採クエスト』について説明させてくれ」


 そう言って、高級そうな木目の箒と杖を取り出した。

 さっき、売店で売ってた魔導具だな。


「この箒や杖は、そこにいるウーリッドや魔導具部の連中が作ったものなんだが……今、魔導具部は深刻な素材不足に陥っている。今回のクエストは部活で使う木を伐採するのが目的だ」


 シュルトが手を上げて、先生に率直な質問を投げかけた。


「トム先生。言いたい事は分かった……だが、魔導具部の連中がここに居ないのは何故だ? 箒を作ったなら飛行魔法が使える筈ぜ? 自分の尻は自分で拭くべきだ」


 まぁシュルトの言う通りだね。トム先生も図星を突かれたと顔を引きつらせている。


「それはだな……実は、天空山に向かうルートには、『アトモスフィアドラ(大気竜)ゴン』が出るからだ」


「大気竜だと⁉︎」


 全員の顔色が同時に変わった。


「うちの部員が竜族と戦えると思うか? だが、お前らなら出来る! それに奴らは、地上にいる人間を魔法で吹き上げて餌にするが、上空にいる人間を襲う事は殆ど無いから大丈夫だ、ハハハ……」


「まじっすか⁉︎ ドラゴンが出る何て聞いてないっすよ!」


「確か、大気竜って最強の竜種だよな? シュルトの兄貴が居れば問題無いだろうが」


 大気竜が出るのか、襲って来たらまた杖の素材にしようっと。

 みんなもやる気満々みたいだな、こりゃクエストそっちのけでドラゴンの奪い合いが始まりそうだぞ。


「なにニヤニヤしてるの……?」


「何でもないよ、ウーリッドの箒を見せて貰えないかな?」


 ウーリッドから箒を受け取り、ササッと地面を掃いてみた。

 柄と穂先に別々の飛行用の魔法陣が刻んであるな。


「その箒は、ダブルキャストが使えない魔法師でも、飛行魔法が操れる様にアシストしてくれる効果を持っているの……」


 説明しながら箒に跨り、飛行の魔法を発動させた。


「見てて……

 現代魔法・『フライ(飛行)』」


 ウーリッドを乗せた箒が、ふわっと浮き上がる。

 そのまま、僕達の頭上をぐるんと一周、回って飛行し、元の場所へと戻ってきた。


「こら、ウーリッド。伐採クエストについて説明するぞ、遊んでないでこっちに来い」


 ビクターさんから一通り、クエストの説明を受けた。

 攻略方法はこうだ。


 まずはここから高度8000mまで上昇し、西の方角にある天空山(てんくうざん)を目指し、ひたすら飛ぶ。

 山に辿り着いたら、急いで天空の木を伐採し脱出。その間、魔獣が襲ってくる場合もあるので伐採者の防衛が必要だ。


「山に着く前に高度8000mまで上昇するのか? 魔力の無駄だろう? なぁドミニク」


 シュルトの言い分は理解できる。


「まぁね、高度に比例して魔力の消費率も上がるからね」


 


「その訳は、天空山がエリシアスの結界の外にあるからだ。それだけ高度を上げれば、逆に言えば大気竜、以外の魔獣と遭遇する確率はほぼ無いからな」

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