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魔導具部とその娘 1

 王都から戻って来てからの数日の間、薬草研究会にエリクサーを売って欲しいとの連絡が、大量に舞い込んでいた。

 王宮調合師の称号を手に入れてからは、うちの部の信頼はうなぎ登りだ。


 今は丁度、お昼を過ぎた辺りだ。部活が始まるまでの間、転移魔法で家に帰って来ていた。


 なかなか儲けたな〜。これいくらあるんだろ?

 布袋の口を開け、部室の机にお金を重ねて整理していた。

 ここにあるのは、商店の売り上げと王子からの謝礼を山分けした分のGだ。


「えーっと……全部で400万Gもある! エリクサー1つでここまで儲かるとはね。何か買い物でもしようかな? そうだ!」


 欲しい物が思い付き、合成室へと向かう。目的の物は、樹海で倒した花竜から手に入れた鉱石だ。


 扉を開け、宝石を保管している木棚の引き出しを漁ると、ゴロンと音がし、一際大きな翠色の鉱石が転がり出て来た。


「あったあった、花竜の心臓だ!」


 この花竜の心臓は、見た目にはただの鉱石だ。

 しかし、鉱石採取の適性を持ってる人に研磨して貰えば、不純物が落ちて宝玉へとその姿を変える。


 ルミネスを召喚したあの日、大気竜から作った自慢の杖が消滅してしまった。そろそろ、新しい杖が欲しいと思ってたんだ。


「合成して魔法の杖を作ろう! 何か杖の土台になりそうな素材はっと……」


 片っ端から棚を漁るも、中身はスッカラカンだ。


「よし、養成学校まで戻ろう。あそこの売店なら何かしらの素材があるだろ」


 花竜の心臓を鞄に詰め、再び養成学校へと転移した。


 ※


 売店、売店っと〜。

 広場の地図を指でなぞると、隅の方に売店の文字を発見した。


 あった、売店は養成言語部の更に先か……。

 フェアリーの漂う噴水広場を抜け、渡り廊下を早足で進むと、すぐに怪しい雰囲気の売店が見えて来た。


 そのすぐ隣に『魔導具部』と書かれた部室がある。売店と魔導具部が一緒になってるみたいだ


「魔女とかが住んでそうな雰囲気だな……」


 売店はかなり広く、階段から入り口までの短い通路に紫の絨毯の引かれ、扉の前には怪しい壺と魔法の箒が置かれている。


 売店の扉を開け、薄暗い店内を覗きこんだ。


「お邪魔しまーす」


 目の前を大きな棚が遮っているせいで窮屈に感じるけど、かなり広いぞこの売店……2階にも売場があるみたいだ。


 床に敷かれた紫の絨毯の上に味のある木目の棚が不規則に並び、視界を遮っていた。

 通路の奥へ進むと、売店のカウンターの近くに置かれた椅子に、制服姿の小柄な女生徒がちょこんと座っていた。


 ……可愛い子だなぁ。あの女の子が店番してるみたいだ。


 見た目は幼顔で可愛いらしい感じだけど、その反面、透き通った水色の長髪が美しく、クールそうにも見える。

 椅子に気だるそうに座り、頬杖を付いて退屈そうにしていた。


 絨毯の上を数歩進んで彼女に近付こうとした時、足元に流れてくる魔力波を感じ取った。


「これは……解析の魔法か?」


 光の出所を探るため、神経を研ぎ澄まして周囲の魔力波を感知を試みる。

 ん? あの売店の娘の方から魔力が流れて来てるな……何が目的なんだろ?

 一応、『妨害』の魔法で乱しておこう。


初級魔法(オリジナル)・『ジャミング(妨害)』」


 高速で魔方陣を描き、最短で妨害の魔法をかける。これで、あの子の放った解析の魔法に触れてしまっても無効化出来る。


「っ⁉︎ 解析の魔法が防がれてる……」


 僕の妨害の魔法に気付いた女の子は、頬杖を止めて戸惑いの表情でこちらを見つめている。


「このっ、解析の光よ……」


 再び魔法が発動され、解析の光が床を這って向かってきた。


 しつこいな……。


 僕も妨害の魔法をぶつけて返すと、またカウンターの方から解析の魔法が飛んでくる。


 うーん……あの子が魔方陣を組んでる様子は無いな。一定範囲に、解析の魔法を飛ばし続ける魔導具を使ってるのかな。

 

 そのまま攻防を続け、何事も無かったかの様にカウンターの横に辿り着いた。


 両手を上げて観念し、眠そうな青い瞳が不思議そうに僕を見つめていた。


「まいった……さすが首席だね。私は魔導具部、所属のウーリッド……」


 独特のボソボソとした口調で、スッと差し出して来た細い手を握り返した。


「はじめまして、ウーリッド。やっぱり、魔導具部の部員だったんだね。もしかして隣のクラスかな?」


 僕の問いかけにウーリッドは呆気にとられ、苦笑いしながら口を開いた。


「私、隣の隣の席……」


「え……ごめん! そうだったんだ……」


 隣の隣って……リーシャの横じゃんか、なぜ気付かない僕!

 とにかく、ここに来た目的を話してみるか。魔導具部だから色々と面倒を見て貰えるかも。


「ハハ……実は杖の素材を探しに来たんだけど、この鉱石に合いそうな杖の土台ってないかな?」


「え……そ、それって、花竜の心臓じゃ……」


 鞄から花竜の鉱石を取り出すと、目の色が変わったな。鉱石を手に持ち、まじまじと観察して頷いている。


「こんなレア鉱石どこで手に入れたの……?」


「ああ、無限の霧樹海で花竜を倒した時に、心臓を頂いたんだよ」


「花竜を倒した……? 本当に君が……?」


 驚くのも無理はない、竜族の心臓は、簡単には手に入らないレアアイテムだからね。

 ウーリッドは顎に手を当てたまま、ゆっくりと椅子から立ち上がった。


「これ、私が研磨する……売店も私が案内する。丁度、店番の交代の時間なの……」


「良いの? 仕事が終わったばかりなのに悪いね。お言葉に甘えてお願いしようかな」


 急に態度が変わったな? おもてなししてくれるらしい。


 前を歩くウーリッドに手を引っ張られ、棚に挟まれた狭い通路を進むと、飛行用の『(ほうき)』の棚の前に連れてこられた。


 飾られた高級な箒の前に、他の生徒達が釘付けになっていた。


「ハンドメイドの綺麗な箒だね。この売店って魔導具部が魔導具を作ってるの?」


「うん……昔ながらの手作業で私が作った……興味ある?」


 誇らしげに腰に手を当てて言い放ってきた。魔導具の事となると得意気だな。


「へぇ〜。滑らかで触り心地は良いね」


 手渡された箒の表面を撫で、じっくりと観察してみた。


 飛行の為に洗練された形状、木製の柄の部分は綺麗にニスでコーティングされ、小型の魔法石が埋め込まれている。

 少しだけ手作りした歪みがあり、どこか暖かみを感じる品だ。ステータスはどうだ?


 制服のポケットからステータスカードを取り出し、箒にかざす。


 一一一一一一一一一一一


『名前』:レガシー・フライングウッド


『素材・種類』:天空の木、箒


『属性』:風


『箒ランク』:A


『攻撃力』:D

【打撃の威力】


『魔力変換効率』:120%

【付与魔法発動時の魔力の上昇率】


『魔法付与』:フライ・スピーディ B

【飛行速度の上昇】


『飛行能力』:A


『製作者・ブランド』:ウーリッド・レガシー A

【魔導具作成、適性者のみ表示】


『ステータスカード称号』:魔法の箒 :時速200km


 一一一一一一一一一一一


「時速200kmか、スピードはそんなに出ないんだね? 値段は?」


 値段の書いてある看板を、指でトントンと叩くウーリッド。


『レガシー・フライングウッド 200万G』


「……え、えぇ⁉︎ 結構な値段だね……全然、お金が足りないは」


「何その顔……素材がレアで高価だから仕方ない……」


 確かにそうか……こういうのはブランドと見た目の雰囲気を楽しむ物だよね。ケチってどうする!


 そもそも『魔導具』とは、普通の道具に魔法を組み込んだ物の事を指す。単純に、箒に飛行魔法を組み込めば『箒の魔導具』となるが、それだけでは高値はつけられない。

 この売店に置かれている魔導具の価格が高いのは、素材の質の良さと信頼されるブランド名による物だ。


「どれも高いなー……売店で売ってるのに、学生に買える値段の物がないなんてね」


「そういうコンセプトなの……あっちに杖もある……」


 どういったコンセプトだよ……魔導具部の顧問にあったら納得のいく理由を説明してもらおう。


 続いて箒の棚から離れ、隣にあった『杖』も案内してくれた。

 棚に並べられているのは、20~30cm程の片手で持つサイズの杖で、純粋な木の素材を杖に変えた物だ。


「シンプルな杖だね。魔法石が組み込まれて無いタイプだから、授業で使う訓練用の杖かな?」


「訓練用のとは質が違う……素材はさっきの箒と同じ、高級素材で作られてる……」


 一一一一一一一一一一一


『名前』:カルディン300


『素材・種類』:天空の木、杖


『属性』:風


『杖ランク』:A


『攻撃力』:D

【打撃の威力】


『魔力変換効率』:300%

【付与魔法発動時の魔力の上昇率】


『消費魔力軽減率』:20%

【魔法発動時の消費魔力の軽減率】


『製作者・ブランド』:ビクター・カルディン B

【魔導具作成、適性者のみ表示】


『ステータスカード称号』:魔法の杖 :風の杖


 一一一一一一一一一一一


『カルディン300 180万G』


 こっちも微妙だな……多分この杖は、家に飾ってコレクションするタイプの杖かな。


 魔法石や宝玉が埋め込まれていない杖は、素材に使った木の性質しか現れないので性能が限られてしまう。

 杖に直接、魔法を刻む事も出来るけど、木製の杖に負荷の強い魔法を刻んだ場合、耐え切れず破損してしまうからな。


「ドミニク君。ここで待ってて、パパを呼んでくる……」


「パパ? え! ちょっとウーリッド!」


 いきなり、バタバタと売店の奥の部屋へと入っていってしまった。


 今、パパって言ったか?

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