表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《3巻発売中》 僕がSSSランクの冒険者なのは養成学校では秘密です  作者: 厨二の冒険者
編集中 仕様上削除出来ないので、ifルート的な章です。
83/158

if

 王城の一室にて学会が始まり、参加者達が机を囲んで熱心に議論を繰り広げていた。


 部屋の隅では、何かの動きに合わせて壁の煉瓦がグラッと揺れていた。


「始まったね、あんまり動いちゃ駄目だよ」

「あわわ、本当にバレてないよね……?」


 レシピを奪われ、騎士達に追い詰められたドミニクとアイリスであったが、隠蔽の魔法により姿を眩ませ、会場に身を潜めていた。


 エドワード王子を中心に、責任者のウェルソン、その他の研究者。護衛を務める騎士、数名が部屋の片隅に立っていた。


「あの! その、いえ……何でもありませんです!」


 その内の1人、見事な姿勢で敬礼をするも、腑に落ちない顔で発言を辞めた、赤髪の少女、王宮魔導師のレヴィアが居た。

 過去に、王都の乗船場にて20人パーティの指揮を取り、大気竜を退けた実績を待つ16歳の天才少女。彼女だけが、ほんの僅かな隠蔽の魔法の気配を感じ取っていた。


「気配がします……でも間違ってたら嫌ですね……」


 しかし、その性格から曖昧な発言は控えていた。


 新薬が次々と発表されていく。ここでは完成品を見せるだけでなく、レシピの発表と調合の実演まで行う。

 発表者となる全員が、調合及び、薬草学に関する天才と呼ばれる者達だ。方向性は違えど、エリクサーに劣らない薬品ばかりが発表されていた。


「調合界に革命を起こすのは、王宮調合師であるこの私、ウェルソンだ……」


 今日の結果次第では、新たな王宮調合師が任命されてしまう。ウェルソンは他の研究者の発表には目もくれず、薬草研究会から奪ったケースの中身を確認しながらブツブツと呟いていた。


 フタを開けると、ガラスの内蓋に密封された土の上に、レッドハーブと毒霧を放つ興奮草が並んで生えていた。


「汚染された事により、レッドハーブがエリクサーへと変わるのか……」


 この程度の事であれば、近い内に自分もエリクサーのレシピに辿り着けたであろう。たまたま、あの少年達に先を越されてしまっただけだ、実力で劣っていた訳ではない。


 そう悔しがり、レシピをグシャッと握り締めた。


 学会も終盤を迎え、遂にウェルソン教授の番を残すのみとなった。転売品のエリクサーを机の上に置き、我が物顔で演説を始めた。


「前座は終わりだ! 私が発表する新薬は、このエリクサーだ!!」


「何だと!? 遂にレシピが完成したのか?」


 一斉に研究者達が立ち上がり、飛び出した新薬の名に、場が騒然とする。


「調合界の歴史が変わる快挙だぞ!」

「待て! 再現がまだだ、エリクサーを手に入れるだけなら誰にでも出来る」

「しかし、あの鮮度はどう見ても作ったばかりの物だぞ……」


 得意げにケースからレッドハーブを抜き取り、恍惚の表情で丸ごとすり潰し、聖水の入った瓶に投入する。


「まぁ見ていたまえ、歴史が変わる瞬間だ」


 ウェルソンの調合の魔法により、聖水がグツグツと煮えたぎって行く。


 エリクサーの完成も間近と余裕を見せた所で、ウェルソンは自分の犯したミスにやっと気が付いた。


 聖水が不気味な黒に変色し、ドクロ型の煙を吐き出し始めていた。


「な、何だこれは……待ってくれ……」


 まさか、レシピが間違っていたのか!? と、潰したレシピを再確認し、一瞬でウェルソンの顔が凍りついた。


「しまった……毒素を取り除く必要があったのか……!?」


 会場の空気が、不吉な物へと変わる。


「ドクロの霧? あれはネクロマンサーの禁薬の1種だぞ……奴は馬鹿なのか?」

「教授は何を考えているのだ、称号剥奪だけでは済まされんぞ……」

「ウェルソンの奴、エドワード王子に不満が溜まっていたんだな……」


 必死にドクロ型の煙を手で払い、誤魔化そうとするも、学者たちから罵声が飛び交い遮られた。


「ち、違う! 私じゃない! 聞いてくれ、はめられたんだ!」



 ※



 あーあ、ちゃんとレシピを最後まで読まなかったな、忠告したのに再現しちゃったよ。


 呆れる僕の耳元で、アイリスが囁いてくる。


「ドミニク君、あの薬品ってもしかして……」

「多分、思ってる通りかな。あれは調合会の禁忌ポーションの内の1つ、死霊薬だよ」


「やっぱり……ネクロマンサーの禁薬だね」


 薬草には絶対に組み合わせてはいけない物、いわゆる禁忌のレシピが存在する。


『死霊薬』は、過去に死霊魔術師(ネクロマンサー)と呼ばれる犯罪者の集団が使っていたとされる禁薬だ。

 生物に飲ませる事で動く屍と変え、意のままに従える事が出来る。人間にも効果があるこの薬は、人道的観点から禁忌とされ、レシピを再現、公開する事は重罪に当たる。


 エリクサーは回復薬と毒薬の特性を、背中合わせに持つアンバランスな薬品であり、何も知らない調合師が丸ごとハーブを投入すれば、ゾンビポーションが出来上がる。


 そもそも遺伝子組み換え草は、顧問のルイス先生が調合の魔法で作り出した物だ。

 興奮効果のある興奮草に、鎮静効果のある霧吹(きりふき)草を掛け合わせ相殺し、興奮草の持つ回復効果だけを残す事が目的だったと思われる。


 そうして偶然作られた遺伝子組み換え草が、レッドハーブを汚染し、エリクサーを生成できるハーブに変化した。


 今回、僕が用意したハーブは、ルイス先生と同じ手順で作った遺伝子組み換え草に、レッドハーブを汚染させた新たな物だ。


「でも何で同じ薬草から、死霊薬なんて出来たの? ゾンビポーションが出来る筈じゃない?」

「多分、調合魔法のせいかな」


 ただ混ぜているだけに見えるが、調合は術者の魔力に大きく作用される立派な魔法だ。

 ルイス先生が作ったハーブに毒素が混ざると、ゾンビポーションが出来てしまうけど、僕の作ったハーブに毒素が混じった場合。毒薬のエリクサーとも呼ばれる、死霊薬が完成してしまう。


 さて、王族の前で禁薬を発表するなんて、称号剥奪どころの話じゃないぞ。そろそろ僕の言った言葉の意味にウェルソン教授も気付いたかな?


 教授は全身が震え、顔面から大量の汗が噴き出して今にも倒れそうだ。


「こここ、これは、不味いぞぉぉ……ぁぁぁ……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ