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《3巻発売中》 僕がSSSランクの冒険者なのは養成学校では秘密です  作者: 厨二の冒険者
編集中 仕様上削除出来ないので、ifルート的な章です。
82/158

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 無事に王都に着いた事を知らせる為に、一旦、ギルド本部へと向かった。


 遺跡にロビーがあるエリシアスとは違い、ギルドの本部はレンガ製の城の様な外観をしていて、都の中央の通りに面した所にドンッと構えていた。

 一応、僕はギルド本部の職員という事になっている。受付の人に意味深な目で見られながらも、ぎごちなくその旨を伝え、本部を離れた。


「良し、今度こそ王都観光に行こう!」

「おー!」


 王都はとにかく人で溢れ、騒がしい。目を離せば道行く人にぶつかりそうになるので、逸れないようにアイリスと手を繋いでせっせと進む。


「かぁー! 美味え! もっと酒を持って来い」

「酒だ、酒ぇ! あと肉と酒!」


 店先のテラスに設置された、加熱用の鉄板に火の魔法を使い、豪快に魔獣の肉を焼いて食べる冒険者達。住民達はエリシアスと変わらず、荒くれ者が多いんだな。


 見ての通り、この国の主食は魔獣の肉で、たまにお米なんかも売っている。海を挟んだ先に、親交の深い忍の国があるからだ。

 船で川を下って来たのもそうだけど、造船技術のレベルが高く、近隣国との交流もそこそこに、魔獣を抜きにすれば平和な国の様だ。


「服屋がある、ちょっと買い物してこう!」

「やった! 可愛いお洋服買いたい!」


 お洒落な服屋を見つけて意気投合し、エリクサー販売で手に入れたお金を、ここぞとばかりに使い込む。


 お邪魔した店内の奥に飾られていた、古代模様の黒い魔導ローブを気に入ったので20万Gで購入した。養成学校に通い出してからは、毎日制服で出歩いているし、王都には学生が居ないのでさすがに目立つ。

 アイリスも、ブランド物の紺の魔導ローブを高値で購入し、2人でローブを羽織って、店内にあった鏡の前で見栄えを確認する。


「どう? このローブならそんなに目立たないかな?」

「うんうん、これなら王都に溶け込めるよ」


 怪しい学生2人から、普通の冒険者っぽい感じになった。気付かない内に、大量に袋に詰められたアイリスの洋服を収納の魔法で保管し、再び外に出て、年甲斐も無くはしゃぎながら、露店の肉を食べ歩く。


「これ美味い! 何の肉かな?」

「豚肉だってー、そろそろ学会だよ、学会ー」


 お腹も満たされ、王都を満喫していたら、あっという間に時間が過ぎていた。ダチョウ君に乗っていた商人に交渉し、王城近くまで馬車で送って貰う。


 都の中央から少し離れた道中、街中に魔獣の死骸がゴロゴロと転がっていた。


「うわっ、あちこちで魔獣が死んでますね」

「エリシアス地帯だと珍しいのかい? 王都なら普通の事だよ」


 そう言って、馬車を引くお兄さんは気にした様子も無く、軽快に馬を走らせていた。


 暫く石畳を進むと、商店などの建物も無くなり、城壁がすぐ近くに見えて来た。


「お、おっきいよ! あそこが学会の会場!?」


 巨大な城壁を地上から見上げる、ここがエリシアスの国の王城だ。馬車から降り、検問を受ける為に、鎧を着た門番の騎士に声をかけた。


「こんにちは! 養成学校から学会に参加しに来たんですけど」


「ああ、話は聞いている。ここに立ってくれ」


 アイリスは警戒しているのか、僕の背後に隠れたまま少し頭を下げた。支持された場所に立ち、その場で解析の魔法をかけられた。


「荷物は無いのか……? まぁいい通れ。会場は王城1階の会議室だ」

「はい、ありがとうございます!」


 門を抜けると、広大な緑の庭に圧倒され、本当に僕達が入っても良いのか解らなくなって来た。


 王城入り口へと続く、長い石畳の通路を警戒しながら歩く。


「うわ、あっちにも見張りがいる……怖いよー」


 広い庭に生えた芝生の上を、馬に乗った騎士が巡回していた。


「僕達みたいな庶民には、威圧的に感じるかもね。騎士は身分の高い人達だから」


 通路を進み、王城の1階の大理石の広間に入る。会場行きの看板を頼りに進むと、すぐに会議室が見えて来た。


「あの部屋が会場かな?」

「遅刻かもー、早く行こう!」


 ※


 王城の広間にて、薬草研究会の到着を待ちわびている男がいた。

 流れた長い紫髪が片目を隠し、痩せ細った青白い腕で、白衣のポケットに片手を突っ込む研究者。


 この学会の責任者、王宮調合師のウェルソンだ。


 王宮調合師の称号は、最も優れた調合師に王族から与えられる、名誉ある称号だ。その上、ギルドでは薬品販売に関する制限事項の、資格取得に必要な試験を全て免除される。


 白衣のポケットから、裏ルートで買った50万Gのエリクサーを取りだし、その才能を嫉妬の目で見つめる。


「この研ぎ澄まされた浄化の魔法は……本当に、このエリクサーを学生が作ったのか……」


 ウェルソンも調合の天才だ。故にこのエリクサーが、規格外の調合師に作られた事は一目で理解していた。

 疑って掛かるも、養成学校から送られて来た学会の参加申請書類には、新薬品、エリクサーと確かに書かれている。


「ウェルソン、学会の準備は上手く進んでいるのか?」


 急な呼びかけにエリクサーを隠し、バッと振り返る。

 金髪に聡明な眼、王族の衣装に赤いマントを羽織った青年が、ウェルソンの前に現れた。


 青年の名はエドワード。エリシアス地帯を含む、この国の王子だ。王宮調合師の決定権を持ち、ウェルソンを推薦したのも彼だった。


「は、はい、エドワード王子、全く問題ありません」

「そうか、俺は会場には後から向かう、ちゃんと参加者の案内をしておけよ」


「かしこまりました!」


 エリクサー調合の研究を任されて数年、ウェルソンは成果を出せずにいた。仮に誰かがエリクサーのレシピを発表しようものなら、確実に自分の王宮調合師の称号は剥奪されてしまう。


「相手はたかだか14歳の子供だ。脅してレシピを奪ってしまえば良いのだ」


 ウェルソンは行動に出ていた。通信魔法が鳴り、金で雇った門番の騎士から連絡が入る。


「レシピは手に入ったか? 何? 荷物を持っていなかった? どういう事だ……」


 そんな筈は無い、参加者は必ずレシピを持って学会に参加してくる。


 焦るウェルソンの前に、丁度、ローブを羽織った学生2人組が、会場へと続く通路に現れた。


 予定通り人の気配は無い、事前に薬草研究会の参加時間だけを、ウェルソンが書き換えていた。


 空かさず駆け寄って行き、企みを隠して声を掛ける。


「君達が薬草研究会かね? 学会責任者、及び王宮調合師のウェルソンだ、よろしく頼む」


 薬草研究会の2人が、白衣から差し出された手を順番に握り返す。


「君達の話は養成学校から聞いている、そうだ、エリクサーのレシピを見せてくれないか?」


 さり気無くレシピを出す様に促すと、少年が見慣れない黄色の魔法陣を描き、何も無い空間からケースが現れた。


「まさか今のは転移系の魔法か?」


 はい! と元気よく頷いた真っ直ぐな瞳には目を合わさず、ケースを持ったまま罪悪感に苛まれた。


「いや、私の勘違いだ。ご苦労だったな……君達にもう用は無い」


 思いも寄らぬ言葉に不穏な空気が流れ、剣を持った護衛の騎士が2人へと迫って行く。


 突然の事に動揺し、足が止まった少女の手が、騎士達から守られる様に引っ張られた。


「追いかけるぞ!」


 通路の角を曲がる2人を追いかけ、ウェルソン教授達が走る。


 その先の、行き止まった壁に背を向け、棒立ちのままの少年が呟いた。


「ウェルソン教授、そのレシピ……再現しない方が良いですよ」


 そう言い残し、ユラっと景色が歪んで2人の姿が透明になって行く。


「消えた……一体どこへ……? まぁ良い、見つけたら捕らえるように他の騎士達へ伝えろ。今から学会を始めるぞ。レシピを再現するなだと? 何かあるのか、いや、咄嗟に出た虚言だ」


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