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論破された末に吹っ切れたおじさんが、僕達に杖を突き付けたままカウンターから出てきた。
「動くなよ小僧ども、さあ、エリクサーのレシピを渡せ!」
「お断りします! レシピはそう簡単には奪えませんよ」
「転売の次は強盗ですか? 貴方がドミニク君に勝てるとは思えませんけど」
僕に続き、アイリスも強気に腕を組んで応えた。レシピは収納魔法の中だし、転移系の魔法で狭間をこじ開けでもしない限り、盗まれる事は無い。
「かははっ! やる気か? 小僧をボコってレシピを奪ったら、万引き犯としてギルドに突き出してやる」
おじさんは黄金色のコートをバッ! と脱ぎ捨て、持っていた杖で素早く魔法陣を描いた。
「行くぞ小僧!
現代魔法・『衝撃』」
完成した魔法陣から、ブォン!と、風の衝撃波が飛んで来た。
「退がっててアイリス、危ないよ」
「うん、気を付けてね!」
右手に魔力を集め、至近距離から放たれた衝撃波を迎え撃つ。
「よっと!!」
右足の踏み込みと同時に、衝撃波を手刀でスパン!と強引に消し飛ばし、そのまま前方へと踏み込む。
「す……? す、素手でかき消しただとぉ!?」
おじさんは反撃して来るどころか、間抜け面で放心している。
突進しながら、右手でパパッと魔法陣を描くと、右掌の上に、赤青黄緑の4色の封印の陣が生成された。
これは、花竜に使った破壊の魔法を劣化させ、簡易化させた封印魔法だ。
「初級魔法・4重封印魔法・
『エレメンタル・シール』
両腕をクロスし、顔をガードするおじさんの腹部に向けて、4色の封印の陣を素手でズシン! と叩き込む。
「うげぇ!!」
打撃の衝撃でおじさんは吹き飛び、カウンターの後ろの棚にガチャーン!と突っ込んだ。
「痛えぇ! 調子に乗るなよぉ!」
反撃は許さない。倒れた棚の隙間から這い出て来た所へ、追い打ちの魔法を放つ。
「もう詰んでますよ、おじさん。
初級魔法・『操木捕縛』
床の木が蛇の様に変形し、地を這うおじさんの全身をメキメキと締め付け、体の自由を奪って行く。
「ヒィィ、木がぁ! 床ごと燃やしてやる!……ど、どうなってやがる!? 魔法が発動しねえ!」」
捕縛の締め付けに焦り、闇雲に杖を振り回してるけど無駄だよ、属性を封印したので暫く魔法は使えない。
「おじさんの負けですよ、もう観念して下さい」
「く、くそぉ! なぜ魔法が使えないんだ! ほどけぇ!」
※
地面に縛り付けてから数分後、おじさんはやっと大人しくなった。
魔法は封じたし、もう僕達へ危害を加えてくる事はないだろ。隠れて戦いを見守っていたアイリスも、安心して机の陰から出て来た。
「終わったね! それで、これからどうするの?」
「うーん、おじさんしだいだね」
警報を鳴らしたのは不味かったね。直に騒ぎを聞きつけて、ギルドの使いがやって来るだろ。
転売した上に、学会に招待されている僕達への暴行罪、もうこの人は立派な犯罪者だ、捕まったら第2店舗どころか監獄行きだな。
「ゆ、許してくれ……悪気は無かったんだ。そ、そうだ、商売の話をしよう! 俺とお前でエリクサーの売上を分け合うんだ」
「僕は悪人と一緒に商売する気はありません。アイリス、ギルドに事情を説明しに行こう」
「うん、早く逮捕してもらおう」
他にどうしようも無い、おじさんを放置したまま立ち去ろうとするも、逮捕と聞いて焦ったのか、今更、必死に交換条件を出して来た。
「ま、待ってくれ! 店内にある物を好きなだけ持って行って良い! それで勘弁してくれ」
店内にある物? この店には、薬品以外にも珍しい魔法石なんかもある、交換条件としては悪くないけど……
「本当に、何でも持って行って良いんですか?」
「許してくれるのか!? がははっ! 持てるだけ持って行ってくれ! 持てるだけな!」
本当に良いのかな? うーん、何か企んでるみたいだけど。
「じゃあお言葉に甘えて。
古代魔法・『収納』」
店内を物色しながら、収納の狭間にポンポンと商品を詰め込んで行く。砂糖に香辛料っとー、珍しいハーブもあるぞっとー。
「ななな、なんだそれぇ??」
おじさんは、話が違うと言った顔で僕を指差し、プルプルと震えている。
「え? 収納魔法ですよ、持てるだけ貰っていきますね」
「おおおおぉぉ!?」
※
商品が無くなり、スッカラカンとなった製薬の恵を後にし、店先にいた番犬のチワワ君を可愛がっていた。
「可愛いー! 見て、ここ撫でると気持ち良さそう」
「本当だ! それにしてもひどい目にあったね……」
「うんー、でもドミニク君が守ってくれたから大丈夫だったよ、えへへっ」
結局、エリクサーの転売によって、不正に手に入れたお金を頭金にし、第2店舗を建てるつもりだったらしいけど、もうこの先のエリクサーの高額販売は見込めない以上、ほっとけば自滅するだろ。
おじさんにはちょっと意地悪して悪かったけど、手に入れた大量の素材や香辛料は、ありがたく使わせてもらう事にする。エリクサーの販売競争にも有利になるかも知れないしね。




