実技試験 1
朝から校舎裏の広場に生徒達が集まっていた。
他のクラスの担任もいるな、生徒を整列させている教員達の背後には、草と木が生い茂る森が見える。
「うちのクラスはみんな揃ったでござるかー?」
「お前ら静かにしろ、ここに並ぶんだ!」
「集合してー!」
追影先生含む教員3名が『拡声』の魔法を使い、良く通る大きな声で生徒達を整列させて行く。
朝からの野外試験に、気だるそうに欠伸をしながら整列する生徒達。
結局、昨日は合成に夢中になり過ぎて2時間くらいしか寝れなかったな……
まだ目が覚めぬままカレンと一緒に校舎裏に整列すると、綺麗なふわふわの金髪が目の前で揺れていた。
「おはよう、リーシャ!」
クルッとしなやかに振り返り、天使の笑顔で返すリーシャ。
「おはようドミニク君っ! カレンちゃんもおはよう!」
カレンもリーシャの笑顔に呆気にとられ、挨拶を返す。
「お、おはよ、リーシャ」
リーシャは僕が持っていた杖に気付き、後ろで手を組み腰を曲げ、興味有りげに杖を覗き込んでくる。
「その白い杖はどうしたの?」
待ってましたと言わんばかりに、得意気に白い杖を取り出し自慢する。
「ふふん、凄いでしょ? 昨日徹夜で作ったんだ!」
「ドミニク君が作ったんだ!? すごーいっ!」
リーシャは大袈裟に驚いてくれた。この反応が欲しかったんだ! 良い気分だ。
今朝、カレンにも見せたけど『あっそ』の一言で片付けられちゃったし……
『アトモスフィア・デス・スタッフ』
使用者の魔力を補ってくれる『魔力変換効率』500%、魔法陣を1秒間に『12個』までしか同時展開出来ない低ランクの杖だ。宝玉がドクロ模様で少し気味が悪い。
癖っ毛がぴょんぴょん跳ねる可愛いリーシャに杖を自慢してると、朝には絶対見たくないお坊っちゃま君がやって来た。
ギーシュだ、何の用なんだ? 今日は取り巻きも居るし!
「おいドミニク、実技試験だぞ。 覚悟はいいだろうな?」
「おはようギーシュ・プランクトン君? まあ頑張ってね」
案の定、傲慢な態度で戦線布告をしに来たみたいだ。今回は試験だから逃げる理由も無いけどね。
僕の態度が癇に障ったのか、ギーシュの取り巻き達も怒りの声をあげた。
「プラネックスだ! 何だその態度は、舐めやがって、リーシャちゃんに近付くなよ」
「ギーシュさん、こいつが俺達のリーシャちゃんをたぶらかしてる野郎ですか?」
「けっ、女ったらしが! リーシャちゃんに指一本でも触れたらおまぇ×%#××だぞ!!」
触れたら何なんだ!? 僕とリーシャが仲良くしてたから僻んでるのか面倒な奴らだなー。
大きな声に怯えるリーシャを庇いながら、背後に隠す。
「怖いよ、うぅ」
「大丈夫だよ、僕がついてるからね」
すっかりお坊っちゃま君を敵と認識したカレンが、再び大きな声で話しかけて来た。
「ねえドミニク、何で豚肉が喋ってるの!?」
だからやめろって!
カレンをなだめていると、校舎裏に拡声魔法が鳴り響いた。
「では今から実技試験を開始する!
俺が試験を担当するドーリスだ、追影先生とカルナ先生もいるぞ、今から全員にこのシールを配るから肩に貼ってくれ」
配られた『5cm』程の白いシールを肩に貼り付ける。
シールの内側に魔法陣が刻まれてるな、これは『衝撃吸収』の魔法陣かな。
「ルールを説明するぞ。
この森全体を試験場にして行う、バトルロイヤル方式だ。
他の生徒のシールを破壊すれば加点、逆に破壊されたらその時点で失格だ。
森の中に隠れた俺達教員3名を探し出し、シールを破壊した奴には最高点が入るぞ」
「シールは肉体のダメージを肩代わりしてくれるから、遠慮はいらないでござるよ!」
なるほど、シールを破壊するだけで良いのか。
教員は3名、加点方式+生き残った順番でランキングされるんだな。
わざわざ初級魔法の
『アトモスフィア・デス・ジャッジメント』を杖の宝玉に刻む必要も無かったかな。教員相手なら古代魔法さえ使わなければ目立たないよね。
他の生徒達も目を血走らせ教員を見つめている、やっぱり高得点が取れる教員狙いみたいだな……
「おいおい、無理だろ! 追影先生って接近戦闘『A』ランクだぞ」
「ドーリス先生も『B』ランクだ、生徒同士の戦いになりそうだな」
このルールだとカレンとリーシャも敵同士になっちゃうな、対策を打っておいて良かった。
昨日徹夜で作った魔導具を制服のポケットから2つ取り出す。
姿を眩ませる魔法『光学迷彩』の魔法陣を刻んだ、銀色の小さなネックレスだ。
「2人ともこのネックレスを付けて! 危険を感じたらこれに魔力を込めるんだ、姿を隠せる魔法が仕掛けてあるから」
「そんな魔法聞いた事ないよ!? 良いの!? ありがとう」
「ドミニクはどうするの?」
《プォーーーオオ!!!》
「開始でござる!!」
追影先生の鳴らした謎の笛の音により、突如として実技試験が始まった。
一瞬で教員達が森へと姿を消すと、いきなり校舎裏が戦場と化してしまった。
我先にと一斉に森へと駆け出す生徒達が、警戒し声をあげる。
「始まったぞ!」
「森に逃げるんだ、走れ!」
始まった、ボーっとしてないで僕達も動かないとな。まずは2人を避難させるか。
「乱戦になると不味いよ、2人とも森に逃げて光学迷彩を使って隠れるんだ!」
「うん、ドミニクも気を付けてね」
「ありがとっ、怪我しないでねっ!」
入り乱れる生徒達を掻い潜り、2人を庇いながら森の入り口まで先導し、僕だけすぐに校舎裏へと振り返った。
さて、僕はどうするかな? まずは他の生徒の様子を見て、それから森に消えた先生達を追おうか。
目指せ高得点だ! いくぞー!