if
まずは安くて上質な素材の確保、お金が無いなら安い素材を良い素材に変えるまでだ。
「魔法商店に大きな鍋ってあるかな?」
腰の高さに手をやり、大体の大きさを伝える。
「んん、大きな鍋……多分、お店の倉庫にならある……」
素材改良と言えば『合成』の魔法だ、まずは鍋の確保から始めよう。
決闘の果てに倒れたトムさんは放置して、2人で倉庫へ向かう。
店内に入って2階の階段を登り、紫の絨毯の通路を進む。案内された店裏の倉庫、兼、在庫置き場に、ホコリを被った大きな土鍋が、家具に埋もれて頭を出していた。
あったあった、合成に使うには丁度良いサイズの土鍋だ。鍋の前に置かれていた家具を両手でしっかりと持ち、邪魔にならない所へ移動していく。
「何で家具がこんなにあるの? 店内で売ってる様子は無かったし、元々は家具屋だったとか?」
僕がそう尋ねると、放置されていた家具を寂しそうに見つめながら、ウーリッドは語り始めた。
「元々、うちの売り上げの殆どが、ママの作った家具だった……」
「そうだったんだ? でも店内に家具は数点しか置いてなかったよ?」
箒以外に目立っていた物と言えば、入口にあった魔導ローブくらいだ。机や椅子は、目立たない所に休憩用として2、3点置かれていた程度だ。
「もう家具を作れる人が居ない……高級志向のパパに嫌気がさしてママは出て行った……」
話を聞くと、この魔法商店は元々は家具屋で、ウーリッドのお母さんが経営していたらしい。
トムさんと結婚し、お店を魔法商店にリフォームした後。数年間経営を続けるも、こだわりの強いトムさんと意見が分かれ別居。
その結果、売れない箒しか作れなくなった魔法商店は、赤字経営になったと……可哀想に、ここだけの話、さっきトムさんをぶっ飛ばしておいて良かった。
家具を丁寧に移動し、土鍋ごと工場へと転移した。
※
「このままだと合成鍋としては使えないから、宝玉を取り付けて改造しないとね」
収納の狭間から花竜の鉱石を取り出して、掌でキャッチした。
「この鉱石を研磨して宝玉に変えて欲しいんだ」
「こんな貴重な鉱石を何に使うの……?」
「見てのお楽しみだよー」
鉱石の状態だった花竜の心臓を、工場でウーリッドに研磨して貰い、宝玉に変えて土鍋に埋め込んだ。これで準備は完了だ、あとは安い木を持って来てっと〜。
合成に火は使わないけど、魔法による水の沸騰で熱を起こすので、人のいない安全なスペースを使う。
設置した鍋に、浄化の魔法を掛けた聖水を入れ、加熱の魔法で一気に沸騰させる。これで大体の準備は整ったな。
それから数分後、裏庭で寝ていたトムさんが目を覚ました。
工場の前のベンチに腰掛け、ゴミ置場で貰った4弦楽器のウクレレをポロンポロンと奏でる。
トムさんの視線が刺さる。今、僕の目の前では、数分前に沸騰させた土鍋がグツグツと煮えたぎり、湯気を出している。勿論、作っているのは杖の素材だ。
「こんなので本当に木目が再現されるのか? 今時、鍋ってお前、魔女みたいな奴だな。はっはー!」
トムさんは腹を抱えて笑いながら、僕の肩をバンバンと叩いてくる。さっきまで決闘して倒れてたとは思えない、うーん、腹立つな!
「ほっといて下さいよ、誰の為に素材を作ってると思ってるんですか」
「ね……!!」
聖水を入れた鍋に木材を突っ込み、宝玉に刻まれた『保護』の魔法が浸透する事で、天空の木と同じ木目を作り出す事が狙いだ。
わざわざ貴重な花竜の宝玉を使ったのは、宝玉には複数の魔法を刻む事が出来るし、花竜は土属性なので、木材強化に適しているからだ。
「そろそろ、木が飛び出して来ますよ、離れて下さい」
予想通り、ピカッと閃光を放ち、鍋からカランコロンと木の棒が飛び出して来た。
トムさんが転がった木の棒を拾い上げて、クルクルと回して木目を確認し、ブツブツと何か呟きながら震えている。
「これは……まさしく天空の木の木目だ! うぉぉ! 本当に安い木からこの木目が出るなんて! すげぇ」
「パパ、うるさい……」
どうやら、成功したみたいだな。今回、合成に使った木は『生命の木』だ。
これは、エリシアス地帯によく生えている木で、一般家庭の家具等に良く使われている、低コスト素材だ。魔法商店には、家具の素材だけは格安の仕入先があるらしく、この木を選んだ。
この木の特徴は、生命力が高く、長持ちする事にあり、天空の木1%に対し、99%の生命の木で、この素材を作り出せる。
「早速、杖を作ってみよう。宝玉には合成と思考形成の魔法も刻んであるから、木をかき混ぜながら杖の形をイメージするだけで良いよ」
「やってみる……!」
トムさんの作る魔導具は、全体の材料費の80%近くを占めている割に、売り上げは全体の1%しか無い。この素材を使えば大幅に売り上げは改善される筈だ。
ウーリッドがかき混ぜた鍋が光を放ち、杖が飛び出して来た。
一一一一一一一一一一一
『名前』:ライフウッド・スタッフ
『素材・種類』:生命の木、合成杖
『属性』:土
『杖ランク』:A
『攻撃力』:C
【打撃の威力】
『魔力変換効率』:1200%
【付与魔法発動時の魔力の上昇率】
『消費魔力軽減率』:30%
【魔法発動時の消費魔力の軽減率】
『製作者・ブランド』:ウーリッド・レガシー A
【魔導具作成、適性者のみ表示】
『ステータスカード称号』:合成の杖 :生命の杖
一一一一一一一一一一一
完成だ、まぁまぁの性能だな。見た目は杖というより、葉っぱのついた、自然にある木の枝って感じだ。トムさんに杖を手渡し、性能を見てもらう。
「ほら、完成しましたよ。杖を見て下さい」
「凄え、安物の木がこの性能の杖に変わったって言うのか……? じゃあ、俺が今まで作っていたのは一体何だったんだ……」
「ただの棒ですね!」とは言えず、膝をついて座り込み、思考停止したトムさんに語りかける。
「どうですか? もう高級な木にこだわるのはやめて、普通に商売して下さいね」
「ああ……お前の勝ちだ、ウーリッドの事は頼んだぞ」
あれ、まだその話続いてたの?
「よろしくお願いします……ポッ」
もう駄目だ、この親子のペースに飲まれたらろくな事にならない! さっさと家に帰ろう……
それから、鍋の使い方をみんなにレクチャーし、量産可能な事を確認した。
トムさんには、パパと呼ぶように強制されたけど全力で拒否し、杖を2万G以下の、安値で売る事を約束してから魔法商店を後にした。
「じゃあまた、養成学校でね」
「うん、また……!!」
帰り際に、ニコニコのビクターさんにまた遊びに来いと誘われた、どうやら大気竜の素材で財布が潤ったみたいだな。
あれ? そう言えば僕だけ天空の木の報酬貰ってないぞ!? あの魔法商店には、まだまだお世話になりそうだな。




