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棚から牡丹餅で大気竜の素材が手に入り、本来の目的を忘れてたけど、魔法商店に来たのは花竜の宝玉を使った杖を作る事だ。
クエスト条件は達成したので、後はトムさんから報酬として天空の木を頂こう。
「うぅ、気持ち悪い……俺はトムさんの所へ先に行ってるからな」
「はいはい、気を付けて下さいね」
転移の狭間に酔い、すっかり意気消沈したビクターさんが、猫背で去って行った。
裏庭に立つ僕達の眼前には、転移の狭間に適当に放り込んだ竜族の素材と、ロープで縛られた天空の木が転がっている。
10m級のドラゴンの素材はサイズも大きい分、かなりの量になったので、転移魔法で家の合成室に運んでもスペースが足りない。
「なんとかして、大気竜の素材を片付けないとね」
「んん、この量をどうやって片付ける……?」
そうだな……『収納』の魔法って無いのかな? 転移魔法があるくらいだ、同じ原理の魔法なら理論上は可能な筈だ。
「良い考えが浮かんだよ、一旦、僕の家から本を取って来るよ」
「はーい、待ってる……」
転移の狭間を作り出して、家のリビングにワープし、本棚から古代の書を手に取り、再び転移魔法で裏庭に戻る。
「収納、収納っとー」
古代の書のページをパラパラとめくると、魔法使いが、家具を異空間に収納しているイラストのページがあった。
「見つけた! えーと、対象を指定して魔法を使うのか」
「魔法? 何する気……?」
「手で運ぶのは大変だから、収納の魔法を試してみよう」
地面に転がる大気竜の素材に、魔力の矛先を向けて収納魔法を使ってみる。
「古代魔法・『収納』」
ブイーンと、空中に現れた白い収納の狭間に、一瞬にして素材が吸い込まれて消えた。
「あらら、消えちゃったの……」
「上手くいったね! 魔法で作り出した異空間に、アイテムを収納したんだ」
おお? 収納した素材のリストが自動的に頭に流れ込んでくる、この魔法があれば大型魔獣の素材回収から薬草採集まで、何でもこなせるな。もう鞄いらずだ。
※
それから、ウーリッドに引っ張られ、庭の隅にある大きな年季の入った工場の中へと入る。入り口は大きく開いていて、工場の奥の作業場まで見渡せた。
入って直ぐの所で、作業員達が台に置かれた天空の木を、手動で魔導具のサイズに切断、加工し、綺麗な木材へと変えていた。
「あれは何を作ってるの?」
グリップのついた木の板に、横向きに倒した小型の弓が取り付けてある。
「クロスボウ。値段は200万G……」
「へぇ……」
なるほど……結構な値段だな。普通の弓と違い、クロスボウは瞬時に弓を放てる上に、命中率も高い、それなりに値が張るのも納得が行く。
「普通の弓もあるの?」
「ロングボウがある……天空の木に含まれる風の属性は、弓との相性が抜群……」
手渡された試し撃ち用の、大型の弓を構えて見た。
「僕は弓の方が好みだな、かっこいいし」
グリップの部分は鉄製のフレームで、小型の魔法石が取り付けられている。
「その弓の魔法石には、射撃のスピードと命中率を上昇させる……価格は200万Gなの」
「そっか……」
弓も200万Gか……そっと、テスト用のロングボウを台に戻し、一息つく。
ふぅ……高すぎだろ??
せっかく、ウーリッドに案内して貰ってるので、面白そうな魔導具を見学して回る事にした。
「どんな魔導具を探してるの……?」
「そうだなー、植物系の魔法に介入したり、解除できる魔導具って何か無いかな?」
前回の花竜戦の対策だ。人間の魔法では一切介入できない、植物系の魔法が扱えれば、防ぐ事の出来ない最強の魔法になり得るし、今後植物系の魔法も妨害したり破壊できる様になる。
僕の返答にポンっと手を叩き、工場のガラクタ置き場に重なったまま放置された、古めの魔導具を漁りだした。
「あった……これはどう?」
「それって、楽器?」
ウーリッドが持って来たのは、真っ黒な木目のボロい『ウクレレ』だった。エリシアスには良くある、小型の4弦楽器だな。
「呪いの魔導具だよ、植物系の魔法が込められてるらしいけど、使い方は解らない……」
「ただのウクレレに見えるけどね、試しに弾いて見ても良いかな?」
「どうぞ……」
受け取ったウクレレのナイロン弦を、ポロロンと弾くと、確かに植物独特の魔力波を僅かに感じた。
「確かに、植物の魔力派を感じるけど、そもそもそれが読み取れないからなぁ……」
「困った……」
「これだけでも十分だよ、このウクレレ、売ってもらえないかな? 少し調べて見たいんだ」
「無料で上げる……私には価値がわからない……」
「本当に!? ありがとうウーリッド!」
数百万Gは覚悟してたけど、まさかの無料だった。この工場は、それなりの施設と人数で、しっかりと仕事をこなしている様に見えるけど、売り上げはあまり良くないのかな?
さて、そろそろトムさんの所へ行くか、って! さり気無くウーリッドが腕を絡ませて、チラチラと上目遣いで僕を見てくる。
うーん、ウクレレ貰った手前、振り解く訳には行かないけど、このままトムさんと会うのは不味い気がする。
嫌な予感を抱えたまま、工場の奥の扉を開けると、トムさんが机に置かれた箒の調整を行っていた。
「なんか違うんだよなー、解らんなぁ、木目がなぁ……」
「はぁ? さっきと何処が違うんですか?」
「いや、木目がなぁ」
「木目ってあんた……」
納得いかない顔で、木目をカリカリと爪で引っ掻くトムさん。どんだけ木目が好きなんだよ。向かいの机に頬杖をつくビクターさんは、もう帰りたそうだ。
2人と目が合い、時が止まった。
「うぉい!? お前何でウーリッドと腕を組んでるんだ!?」
やっぱりこうなったか、それは僕も聞きたい所だけど。
尚も、腕にしがみ付くウーリッドに、空気を読め! とアイコンタクトを送る。
「ドミニク君……」
気持ちが伝わったのか? いや、伝わってない! 僕の腕を抱きしめたまま顔を真っ赤にし、トムさんに眼で何かを訴えている様だ。
トムさんはお手上げと言った感じで、椅子にだらけて天井を見上げている。
「あー、そういう事かぁ、嫌な予感してたんだよなぁやっぱりなぁ〜」
唐突に、持っていた調整中の箒をボキッ! と折り、鬼の様な闘志を見せて立ち上がった。
「ギルドがなんぼのもんじゃ! 裏庭に出ろ! 俺に勝ったら娘との交際は認めてやる!」
「箒が!? って言うかなんで僕が!?」
※
それから裏庭に出て、何故かトムさんと決闘をする事になった。
高度2000m付近からボトン!っと、地面に落下したトムさん。握っていた自慢の杖が手から離れ、コロコロと庭を転がる。
「つ、強すぎる……俺の杖は最高級の物なのに……まだだ、娘との結婚は絶対に認めんぞ!!」
くっそ、いつの間にか結婚の話しになってるし! もう1回飛ばしておこう。
「初級魔法・
『アトモスフィア・デス・ジャッジメント』」
「ひえぇぇ!」
立ち上がる間も無く、悲鳴をあげながら空高く舞い上がって行く。
タフだな、娘を思う父の力か。
ポッと頬を染め、嫁入りを決心したウーリッドが恥ずかしそうに顔を隠している。
「もう、やめて……ドミニク君の気持ちは伝わった……ポッ」
いや、交際を認めて貰う為に闘ってる訳じゃ無いからね!
また忘れた頃に、ボトンっと地面に落下して来たトムさん。
「うう……経営は赤字で嫁も出て行き……娘まであんな化物に奪われてたまるかぁ!!」
化物って……赤字も何も、そりゃ消耗して壊れやすい弓や杖を数百万Gで売ってたら、お客さんも離れて行くだろ。もっと何か安い素材で、良い魔導具を量産出来ないと商売にはならない。
仕方ない、少しだけウーリッドの為に協力するか。新しい杖を作るついでだ!




