削除不可なので、この章は飛ばして下さい。
動不審に腕を掴んでくる。いつの間にか水辺には、貴重な飲み水を探しに来た動物達で一杯になっていた。
「ひっ……怖い……」
「自然の動物達だよ、可愛いじゃん」
情けない悲鳴が聞こえ、僕の腕がぎゅうぎゅうと締め付けられる。さっきから引っ切り無しに、上空を大気竜が飛び回っているせいかな。
足を止め、傲慢に空を飛行する大気竜を見上げる。
「もしかして、大気竜が怖いの?」
「ここはドラゴンの住処……怖がるのが普通……!」
「山自体はね。あの竜族は地上に降りて来ない無いらしいよ」
一説によると、大気竜は地上に着陸する事なく、上空でその一生を終えるらしい。
その裏付けがあるとすれば、蒼く滑かな鱗を持つ胴体の下部だ、そこには長いヒレの様な尻尾はあるが、歩く為の足が存在していない。
暫く山を進むと、大気竜の気配も無くなり、木目の記憶を頼りに、片っ端から木を探索していく。
ここは高度8000m、ビクターさんからの情報によれば、この高度近辺に天空の木がある筈だ。
数十メートル崖下まで、デコボコの岩をジャンプしながら降りると、木々がまばらに生えた原っぱの様な場所に出た。
眼前の丘に、ピンク色の花びらをした、少し背の低い木が一本、風に花びらを舞わせている。
「桜の木、鮮やかで綺麗……」
「この桜も、厳しい環境を耐え抜く為に進化したんだね」
この天空山は、西の王都の先に位置している。音速で飛んできたから確認してないけど、近くに忍びの国があるのかも知れない。前にカレンが、私の故郷になんかそれっぽいでかい山がある、とか言ってた気がするな。
それから、目的の木を探して山を下るも、見つからず、再び落下地点の池まで戻り、池辺に座って休息をとる事にした。
「場所さえ解れば簡単なんだけどな、何か心当たりはない?」
「無い……私もクエストに参加するのは初めて……」
この伐採クエストの難しい所は、天空山までの長距離飛行と、伐採した木の運搬方法にある。
転移魔法が扱える僕にとっては、木の種類と伐採場所さえ解れば、数秒で完了出来るお使いクエストに過ぎない。
池に石を投げて遊んでいると、遠くから塔の様に高い雲が流れて来て、天空山に影をかけ始めた。
「天気が怪しくなって来た……」
「あの大きさは積乱雲だね……雲底が真っ黒だ、じきに大雨が降るよ」
積乱雲は上昇気流によって発生する雷雲だ。どこかで大気竜が魔法を使ったな。
急に風が吹き荒れ、向こうの池辺で、水を飲んでいた1匹のイノシシの体が、フワッと不自然に浮き上がった。
反射的に、近くにいた動物達がバッ!と、蜘蛛の子を散らす様に走り出した。
「僕と同じ魔法だ……近くに大気竜が潜んでる。動物を狩りにやって来たんだ」
不穏な空気に、ウーリッドが空を見上げて叫んだ。
「何か飛んでくる……!」
宙に浮いたイノシシの足元から、シュバーン! と空気の曝発が起き、一瞬で上空へと跳ね上げた。
木に遮られて、イノシシの姿を見失うも、空中からゴキゴキッっと骨を噛み砕く鈍い音に混じり、獣の鳴き声が聞こえて来た。
「怖い……襲って来たらどうしよう!」
やっぱりウーリッドには辛いクエストだったかな……。軽いパニックを起こし、僕の制服の袖を強く掴んでいた。
「襲って来たりしないや、それにウーリッドには指一本触れさせないからね」
すっかり曇り、パラパラと雨が降ってきた。
積乱雲に大気竜か……確かに状況は悪い方に向かってるな。
漠然とした嫌な予感が当たり、突然、大きな魔法陣が足元に現れた。
「ドミニク君! 危ない!!」
フワッと、宙へと誘われる僕の胴体に、ウーリッドが手を伸ばした。
「2連詠唱・『解除』&『探索』」
直後に、解除の魔法を使って足場の魔法陣を崩すと同時に、辺りに探索の光を飛ばす。
前方の池から周囲の大樹へ、更に積乱雲に届くまで、広範囲に渡って魔獣の気配を探す。
「……いない、どこかへ消えたのかな?」
「私も探す! 解析の光……!」
池に近づき、解析の光を飛ばすウーリッド。僕は池に背を向けて周囲を警戒する。
「どう? 魔獣の気配はある?」
そう尋ねて、背後を振り返った直後に、シュバーン! と上昇気流の爆発が起き、ウーリッドの華奢な体が強引に跳ね上げた。
「まずい!!」
咄嗟に手を伸ばして叫び、数歩踏み込む。
どこから魔法を放った……
骨が砕ける音が山と池に響き、一瞬、思考が停止した。
迷ってる暇は無い! 大気竜は跳ね上げた獲物を空中で襲う、今すぐ助けないと!
地を蹴って高くジャンプし、しまったと我に帰る。
罠に掛かったと言わんばかりに、水中に待ち伏せていた大気竜が僕を見上げていた。
「狙いは僕か!」
バシャーン!っと水中から放たれた上昇気流の水の竜巻に、全身を飲み込まれた。
「くそ! 何も見え無い! 邪魔!」
手刀を水の竜巻に打つけて消し飛ばすも、続けざまに攻撃が仕掛けられる。
これじゃきりが無いぞ……。
水中から飛び出して来た、大気竜の体当たりを片手で防ぐと、巨大な力の衝突にドン!っと周辺に重い音が鳴り響いた。
池の上を旋回する大気竜の隙をつき、遥か彼方に打ち上げられたウーリッド目掛け、転移魔法を描くも、再び、眼前に水の嵐が起きて遮られた。
ウーリッドは箒が無いと飛べないし、全身に強い衝撃を受けてる、早く助けないと危険だ。水を自由に使う大気竜か、地上に降りないとは聞いてたけど泳ぐとは聞いてない。
水面から、ザバーッと水を垂れながして体を出す、全身を蒼い滑らかな鱗に包まれた、20m級の大気竜が僕を無表情で見つめていた。
これ以上こいつに構ってる暇は無い、さっさと魔法で黒焦げにしてやる。
「そこを退けよ、これ以上は許さないよ」




