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新薬販売 7

「むむ、何が起きてるの……突然、調味料が空から降ってくるなんて」


 転移魔法で草原地帯のカウンターの前へと飛び出すと、丁度、ユリアさんが調味料の鑑定を行っていた。


「ユリアさん、こんにちはー」


 振り返ったユリアさんは、僕を見るなりげんなりとした顔を見せた。


「これは君の仕業ね……一体、何があったの?」


「それが……王都でエリクサーの転売被害に合いまして。それ全部、転売していた商店から引き取って来た商品です。ギルドの正規ルートで販売されていた品物かどうか鑑定をお願いします


「転売⁉︎ 格安の値段で手に入れたエリクサーを王都で転売すれば、儲けは計り知れないものね……わかったわ、鑑定しておきます」


 アイリスが、僕の背後からひょこっと顔をだした。


「犯人はもうドミニク君がやっつけちゃいました。今頃、王都のギルドに連行されてると思います」


「そうだったのね。やるじゃないドミニク君。さすがレッドドラゴンを一人で倒すだけあるわね……」


「ええ、まぁ……」


 言われて思い出したけど、火山で赤竜をたまたま倒してしまったあの日から、数日後にSSSランクになり、僕のほのぼのライフは終わりを告げた。


 まぁ、もうこれ以上の事は無いだろう。あるとすれば、王族からいきなり変な称号でも授与されたりとかね……ないか!


 ※


 ユリアさんに転売品の鑑定を頼み、再び転移魔法で聖薬の恵の店先へと戻って来た。


「さて、今度こそ王都観光に行こう!」


「おー!」


 元気よく庭を飛び出し、賑やかな通りを歩き始めた。

 王都はとにかく人で溢れ帰っていて騒がしい。目を離せば道行く人にぶつかりそうになるので、逸れないようにアイリスと手を繋いでせっせと進む。


「お、あのドラゴンの旗はギルドの紋章だね」


「ギルドの本部がこんな近くにあったんだ」


 すぐ近くに、ギルドの旗がなびく大きな建物を発見した。

 遺跡にロビーがあるエリシアスとは違い、本部はドン!っと都の中央の通りに面した所に構えている。


 入口の門の奥の真正面に、どっかで見た顔の上半身裸の銅像が建てられていた。

 うーん、あれはルーシス校長の銅像だな……本部に像があるだなんて、あの人は本当に伝説の冒険者だったんだな。


「よいしょっと‼︎ こっちに運んでくれー」


「「いえっさー!」」


 突然、気合の入った声が響き、ギルドの職員達がガラガラと台車を引きながらやって来た。


「見てドミニク君。黄金像が運ばれてくるよ!」


「え⁉︎」


 な、なんだあの黄金の像は⁇ 台車の上に、ルーシス校長の像よりも数倍ド派手な黄金像が積まれている。

 古代のローブにファラオの仮面を被った神秘的な像だ。心なしか僕に似てる気がするけど……そんなわけ無いよな?


 念の為、像を設置していた職員に尋ねてみた。


「あの、これって何の像なんですか?」


「ああ、これか? SSSランクの冒険者、『ファラオの記念像』だよ。素晴らしい像だろう?」


 やっぱ僕か! いやまあ、確かに黄金でこれ以上ないくらいの出来だけど……。


 しかも、よく見たら『キングオブファラオ』と名前の彫られているその下の部分に、薄っすらと『ドミニク』の文字が見える。


 速攻で異変に気付いたアイリスが、像を指差して口元を押さえている。


「え⁉︎ ここ……ドミニク君の名前が入ってる……」


「き、気のせいじゃないかな!」


 隙を見て、名前の部分に永遠に解けない隠蔽の魔法を掛けておいた。

 危ない危ない、もう少しでバレる所だった。明らかに途中で書き換えた痕跡が残ってる。誰だこの突貫工事でゴーサイン出した奴は……。


 気を取り直して、再び街を歩く。


 店先のテラスに設置された加熱用の鉄板の前に冒険者達がたむろしていた。

 鉄板と火の魔法を使い、豪快に肉を焼く冒険者がいる。手には酒瓶を持ち、顔は真っ赤だ。


「燃えろぉ! 肉が焼けるぞ、さっさと酒を持って来ーい」


「酒だ、酒ぇ! あと肉と酒!」


 真昼間から酒か……エリシアスと変わらず荒くれ者が多いんだな。


 この国の主食は肉で、たまにお米なんかも売っている。海を挟んだ先に、親交の深い『忍の国』があるからだ。

 船で川を下って来たのもそうだけど、王都の造船技術のレベルは高く、近隣国との交流もそこそこに行っている。

 酔っ払いと魔獣を抜きにすれば、割と平和な国なんだよなぁ。


「待ってドミニク君! 有名ブランドのローブ屋さんがあるよ」


 お洒落なローブ屋さんを見つけ、アイリスの目の色が変わった。


「へぇ、見たことある名前だね」


「買い物してこう。可愛いローブが買いたいー」


 アイリスも僕も魔法適性の高い魔法師なのに、調合趣味に偏りすぎててローブを持ってないだよなぁ。

 養成学校に通い出してからは毎日、制服で出歩いているし気分転換が必要だな。エリクサー販売で手に入れたお金を使うチャンスだ。


 お邪魔したローブ屋さんで、古代模様の黒い魔導ローブを勧められた。何でも今のトレンドはファラオにちなんだ古代模様なんだとか。アイリスもつられて古代の魔導ローブを購入していた。


 2人でローブを羽織り、店内にあった鏡の前で見栄えを確認してみる。


「どうかな? このローブならそんなに目立たないよね?」


「うんうん、これなら王都に溶け込めるよ」


 王都には学生が居ないので、道中、ずっと目立ちっ放しだった。怪しい学生2人から、やっと普通の冒険者っぽい感じになったな。


「うぅ、鞄が重いよ……」


「貸して、僕が持つよ」


 いつの間にかアイリスの鞄が、大量に詰められた洋服でパンパンになっていた。どんだけ買ってんだ……。


 再び外に出て、年甲斐も無くはしゃぎながら露店の肉を食べ歩いた。


「これ美味い! ダチョウの肉かな?」


「あ……もうこんな時間かぁ」


 広場に合った時計塔を見て、アイリスが残念そうに呟いた。

 王都を満喫していたら、あっという間にお腹も満たされ、約束の時間が迫って来ていた。


 広場からは、まだまだ王城が遠くに見える。


「思ったより遠いね。商人のダチョウに乗せて貰うしかないか……」


「やば、このままじゃ間に合わないかも」


 ダチョウ君に乗って街を行き交う商人に交渉して見た所、幸いにも王城近くまで走る商人を見つけた。

 初めは断られたけど、僕達が学生だと気付いた商人は、ルーシス校長に免じてと快く受け入れてくれた。


「へぇ、薬草研究会ねぇ……おっと、危ない」


 都の中央から少し離れた辺りから、所々で魔獣の死骸が見られる様になった。

 翼があるな、ワイバーンの死骸か何かか……?


「あちこちで魔獣が死んでますね、何かあったんですか?」


「怖いよぉ」


「知能型の魔獣が飛んできて、それを冒険者が倒しただけさ……そうか、エリシアスには結界があるからな……」


 馬車を引く商人のお兄さんは、魔獣に慣れた様子で軽快にダチョウを走らせていた。


 次第に足場の土が石畳に代わり、城壁がすぐ近くに迫って来た。


 着いたな、ここで降ろして貰おう。

 馬車を城壁の近くに止めてもらい、お礼を言ってお兄さんに別れを告げた。


「じゃあ、気を付けてな! Sランクのルーシスさんによろしくな!」


「「ありがとうございました」」


 巨大な城壁を地上から見上げる。

 ここがエリシアスの王都にある王城だ。中に入るには門で検問を受ける必要がある。


 大きな門の前に、鋼のフルアーマーを纏った門番の騎士が2名立っていた。僕達に気付いたみたいだけど、石像の様に微動だにしない。


「こんにちは! 養成学校から来ました」


「ああ、養成学校か。事前に話は聞いていたよ。所持品に危険な物がないか調べるから、ここに立ってくれ」


 支持された場所に立ち、その場で解析の魔法をかけられた。アイリスは門番を怖がって、僕の背後に隠れている。


「問題ないな。このまま真っ直ぐ庭を進むと入口があるから、そこから、王城1階の広間の方まで行くんだ」


「ありがとうございます」


 門を抜けると、目の前に広がる広大な緑の庭に圧倒される。王城入り口へと続く芝生の上に、馬に乗った騎士が巡回していた。


「明らかに場違いだ。こんな所に僕達が入っても良いのかな……」


「さっき買ったローブが逆に恥ずかしいね……」


 通路を進み、王城の1階の大理石の広間に入る。


 すぐ目の前で、護衛を連れたいかにも王子様っぽい人が僕達を待ち構えていた。空気を察し、咄嗟にアイリスと一緒に膝をついて挨拶をした。


「は、はじめまして! 養成学校から来ました。薬草研究会のドミニクとアイリスです。この度は、王城まで招いて頂きありがとうございました」


 跪いたまま王子を観察する。

 パッと見は、王族の衣装に赤いマントを羽織っただけの青年に見えるけど、何となく王子の品格が漂っていた。


「遠い所からよく来てくれたな。俺はこの国の王子、エドワード・アーサー・プリンス・キング・シャドルムだ」


 エ、エド、アーサー? な、長すぎて聞き取れなかった。


「君達がエリクサーを完成させた薬草研究会か……大事な話があるんだが……ここじゃ何だ、とりあえず場所を移そう」


 王子に連れられ、高級な装飾の施された客室の間へと案内された。室内の隅っこで数人の研究者達が待ち構えている。


 お礼を言われるだけかと思ってたら、シリアスな空気になって来た。


「エリクサーの話をする前に、まずは製薬の恵の転売行為について、王都の商人が君達に多大な迷惑掛けてしまった事を詫びよう。奴には然るべき罰を与えておく」


 もうここまで情報が来てるなんて、王族もギルドと繋がってるみたいだ。


 ジャラン!と、机の上に、分厚い布袋が置かれた。


「すまなかったな、気にせず受け取ってくれ」


 何と無く中身を察し、引きつった顔のアイリスが袋の中に入っていたGを摘み上げた。


「……ざっと500万Gはあるよ、こんなの私達が貰っても良いのかな?」

 

「相手は王族なんだし、受け取らない方が失礼にあたるんじゃ……」


 戸惑う僕達の前に、いきなり、調合道具の乗った台が運ばれて来た。


「それで本題なんだが……君達が作ったと言うエリクサーを、ここで再現して貰えないか?」


 調合の再現をさせる為に、僕達をここまで呼んだのか?


「エリクサーをですか?」


「私じゃ不安だし、ドミニク君よろしく!」


 調合の瓶と水を遠慮がちに手渡された。


初級魔法(オリジナル)・『プリフィケイション(浄化)』」


 いつも通り浄化の魔法を使うと、研究者達の目の色が変わった。


「何て輝きなんだ……あれがただの浄化の魔法なのか……」


 浄化の魔法くらいで何を驚いてるんだ……?

 ちゃちゃっと遺伝子組み換え草の毒素を取り除き、煮えたぎる調合機に放り込む。

 あっという間に膨張を起こし、エリクサーが瓶から溢れ出して来た。


 良し、完成だ。


「こ、これが本物の神聖ポーションなのか……」

「神だ……これは神の仕業だ」

「まさにゴッドだ……調合神が降臨なされたのだ!」


 再現したエリクサーを、研究者達がしつこい位に褒め称えてくる。

 何だこれ……新手の勧誘か何かか?


「これで決まりだな……大事な話があるのでみんな椅子に座ってくれ!」


 エドワード王子がゴホンと咳払いをし、一声掛けると、すぐに部屋から雑音が消えて静かになった。


 僕達も大人しく椅子に座り、王子の話に耳を傾ける。王子の話はエリクサーのレシピの説明から始まり、聖薬の恵でのトラブルをみんなに説明していた。


 転売おじさんことマルコ店長には、牢獄行きの重い処罰がかせられるらしい。

 まぁ王子の顔に泥を塗ったんだ、極刑じゃ無い事をせいぜい祈るしかないね。


「今日は、この学会のメンバーの中から新たな王宮調合師を選抜する為に集まって貰ったわけだが……みんな、もう異論は無いな?」


「無論、ここまでのものを見せられては、言う事はあるまい」


「彼で決まりだろう、他に務まるものなどおるまい」


 研究者達が納得した様子で頷いている。何か嫌な予感がして来たぞ……まさか、エリクサーのレシピを再現した僕を、王宮調合師に任命しようって方向じゃないよね?


 僕の心配を他所に、エドワード王子が前髪を掻き分けながら大きな声で言い放った。


「養成学校代表、ドミニク・ハイヤードを王宮調合師に任命する! これは決定事項だ!」


 ええ⁉︎ やっぱりそうなるのか……。


 元を辿れば部の存続の為にエリクサーのレシピを開発した訳だし、SSSランクに続いてそんな面倒くさそうな称号はいらないぞ……。


「ちょ! ちょっと待ってください! 僕まだ学生なんですけど……まだそんな大そうな称号は相応しくないっていうか、要らないっていうか……」


 僕の遠慮はスルーされ、契約の書類らしき物が机の上に並べられて行く。


「さぁ、この書類にサインするんだ!」


 チラッと書類に目を通してみると、王宮クエストやら王宮調合師としての務めなど、大量の決まり事が書かれていた。


「凄いよドミニク君! 王宮調合師になれば薬草学の試験が免除になるんだよ」


 アイリスが目を輝かせながら、僕の肩を揺さぶってくる。


「それはそうなんだけど……ハハ……」


 ※


 結局、僕は学会メンバーの一存の元、書類にサインをし王宮調合師の称号を得る事となってしまった。


「君はこの王城で、調合師としての仕事をしてくれれば良いんだ……ちなみに、君を王宮調合師に任命したのはルーシス校長の意思でもある」


 ソファーに背を深く預けたまま、エドワード王子がそうサラッといい放った。

 会議室を離れ、僕だけがエドワード王子の王室へと案内された。アイリスはと言うと、王城にある図書館へと案内されていた。


「ルーシス校長がですか……うーん」


 養成学校的には、僕がここで研究のお手伝いをするのは問題ないって事だよな?


「後とはまぁ、王宮クエストとかたまにこなして貰おうと思っているがこの話はまた今度だ。そんな訳だ、よろしく頼むよSSSランクのドミニク君」


「え⁉︎ わ、解りました」


 あ、そこまでバレてるんですね……他人事の様でいまいち実感が湧かないけど、校長と同じでこの人もなかなかの策士の様だ。


 そして、肝心のエリクサーのレシピとハーブは、議論が成された末、一部の優れた調合師のみが扱える特級の薬草として認定された

 つまり、今まで通り僕達に販売する権利があり、リスクは王族が盾になってくれるので回避できる。結果として悪くない方向に収まってくれたな。


「ああ、そうだ。新たな王宮調合師が誕生したんだ。ド派手に授与式を開かなければならないな、ははは!」


 はぁ……また授与式か……これからどうすりゃいいだ……。

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