表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/158

新薬販売 6

 論破された末に吹っ切れた転売おじさんは、僕達に杖を突き付けたままカウンターから出てきた。


「動くなよ小僧ども! お前らが持ってるエリクサーを全部だせ! 有金も全部だ!」


「転売の次は強盗ですか? 商人の風上にも置けませんね……」


 僕に続いて、アイリスも腕を組んでキツく言い返した。


「おじさんがドミニク君に勝てるとは思えませんけどねー。今更、エリクサーを奪ってどうする気なのかな?」

 

「う、うるせぇ! そ、そうだ……今からお前に決闘を申し込む! ガハハっ、決闘なら強盗にはならねえんだよ!」


 はぁ……卑怯な手を考える時だけ頭が良く働くんだな。

 転売おじさんは頭に血が上って気付いてないみたいだけど、レシピが公開された今、エリクサーを50万Gで転売しようなんて馬鹿な話だ。

 販売の邪魔された上に転売までされて、このままやられっ放しじゃ終われない! さすがに頭にきたぞ。


 よーし、決闘を受けよう。いざとなったら転移魔法で逃げればいいし。


「決闘なら僕も手を出しても良いんですね?」


「かははっ! やる気か? 学生のお前が俺に勝てるわけねぇだろ! 社会の厳しさを教えてやるよ。ボコってレシピを奪ったら、万引き犯としてギルドに突き出してやるぜえ」


 最早、悪人の鏡だ……清々しいほどのクズ発言に目眩がしてきたぞ。


 おじさんは黄金色のコートをバッ!と脱ぎ捨て、持っていた杖で素早く魔法陣を描いた。


「行くぞ小僧!

 現代魔法・『衝撃(ショック)』」


 ふーん、意外にコンパクトで繊細な魔法陣だな。風による衝撃を発生させる低規模魔法か。

 念のため、アイリスの前に立って防御し、攻撃魔法に備える。


 魔法適性の高い彼女なら、この程度の魔法は自分で防げるだろうけど……実戦だと何があるか解らない。ここは部長の僕1人でやるべきだ。


「風の魔法が飛んで来るよ。アイリスは危ないから退がってて!」


「う、うん! 油断しないでねドミニク君!」


 魔力の光りが満ちた魔法陣から、ブォン!っと衝撃波が飛び出してきた。

 直ぐさま右手に魔力を集め、至近距離から放たれた衝撃波を迎え撃つ。


「よっと‼︎」


 右足を大きく踏みこんだ勢いで、手刀を横に振り払う。

 スパン!っと衝撃波が真っ二つに断裂され、一瞬で消滅した。


「す……すす、素手でかき消しただとぉ⁉︎」


 え……? おじさんは反撃して来るどころか、間抜け面で放心している。

 そりゃ、ショックの魔法なんて素手で掻き消されるだろ……それとも僕を誘い込む為の罠か……? 何にせよ、今がチャンスだ!


 棒立ちのおじさんに向けて突進しながら、右手でパパッと魔法陣を描くと、右掌の上に『赤青黄緑』の4色の封印の陣が生成された。


 これは、花竜に使った破壊の魔法の一種だ。

 属性を封じ込める封印魔法で、これを受けてしまったら体内に流れる属性が機能しなくなり、魔法が使えなくなる。


初級魔法(オリジナル)4重封印(しじゅうふういん)魔法・

『エレメンタル・(属性封印)シール』


「く、くるなぁ!」


 両腕をクロスして顔をガードするおじさんの腹部に向けて、4色の封印の陣をズシン!っと拳で叩き込む。


「ほんげぇ‼︎」


 打撃の衝撃でおじさんは吹き飛び、カウンターの後ろの棚にぶつかった。そのままガチャガチャーン! っと食器を落下させながら、棚と一緒に床に倒れた。


「痛えぇぇぇ! はぁはぁ……調子に乗るなよぉ!」


 反撃は許させない。倒れた棚の隙間から這い出て来た所へ、追い打ちの魔法を放つ。


「おじさん。もう詰んでますよ

 初級魔法(オリジナル)・『操木捕縛(ウッドバインド)


 床の木が蛇の様に変形し、地を這うおじさんに絡み付いた。体の自由を奪ったまま、全身を容赦なく木がメキメキと締め上げていく。


「ひぃぃ! 木がぁぁぁ! ゆ、床ごと燃やしてやる!

 現代魔法・『ファイア』!」


 パニックを起こしながらも、必死に魔法陣を描いている。

 無駄だよ、もう魔力の光りは灯らない。


「ど、どうなってやがる⁉︎ 魔法が発動しねえ……」


「おじさんの負けですよ。属性を封印したので暫く魔法は使えません。もう観念して下さい」


「な、何だそれぇ……なぜ魔法が使えないんだ……木をほどけぇ!」


 やれやれ……魔法は封じたし、もう僕達へ危害を加えられないだろ。落ち着くまで放置して様子を見るか。


 戦いを見守っていたアイリスが、机の陰から出て来た。


「ドミニク君ー! 良かったよぉ……心配したよぉ」


 アイリスが、僕の背中をポンポンと叩きながら鼻をすすっていた。

 何だかんだ言っても相手は犯罪者だ。一歩間違えれば僕もただでは済まなかった。


「どこも怪我してないから大丈夫だよ。ありがとう」


 あれ? 何故か、アイリスが目を丸くして僕の方を見てる。


「うぅーん……ドミニク君の手が滑って、おじさんを再起不能にしちゃわないか心配してんだけど……」


 どっちの味方なんだ?


 地面に縛り付けてから数分後、おじさんはやっと観念したらしく、口数も減って大人しくなった。


 しかし、警報を鳴らしたのは失敗だったみたいだね。そろそろ、騒ぎを聞きつけたギルドの職員がやって来る頃かな。


「それで、このおじさんをどうするの? 突然、ギルドに身柄を引き渡すんだよね」


「うーん、どうかな? おじさん次第だね。捕まったら第2店舗を建てるどころか監獄行きだろうし」


 エリクサーの転売し、王城に招待されている学生への暴行。もう言い逃れ出来ないぞ。


「ゆ、許してくれ……悪気は無かったんだ。そ、そうだ! 商売の話をしよう。俺が転売して稼いだエリクサーの売上をみんなで分け合うってのはどうだ⁉︎」


「いえ、僕は悪人と一緒に商売する気はありませんので。アイリス、ギルドに事情を説明しに行こう」


「話にならないね、早く逮捕してもらおー」


 捕縛されたままのおじさんに背を向け、お店の出口へと歩き出した。


「ま、待ってくれ! 店内にある物を好きなだけ持って行って良い! それで勘弁してくれぇ」


 逮捕と聞いて焦ったのか、今更、必死に交換条件を出して来た。

 店内にある物? この店には、薬品以外にも珍しい魔法石なんかもある、交換条件としては悪くないけど……これ全部、転売品でしょ。


「本当に、何でも持って行って良いんですか?」


「許してくれるのか⁉︎ がははっ! 持てるだけ持って行ってくれ! 持てるだけな!」


 本当に良いのかな? うーん、何か企んでるみたいだけど。


「じゃあお言葉に甘えて。

 古代魔法・『ワープ(空間転移)』」


 店内を物色しながら、転移の狭間にポンポンと商品を詰め込んで行く。砂糖に香辛料っとー、珍しいハーブもあるぞっとー。


「ななな、なんだそれぇ??」


 おじさんは、話が違うと言った顔で僕を指差し、プルプルと震えている。


「え? 転移魔法ですよ、持てるだけ貰っていきますね」


「おおおおぉぉ⁉︎」


 ※


 商品が無くなり、スッカラカンとなった製薬の恵を後にした。


「可愛いー! 見て、ここ撫でると気持ち良さそう」

《キャンキャン》


 ギルドの職員が到着するまでの間、店先にいた番犬のチワワ君を可愛がっていた。それにしてもひどい目にあった……。


「ところで、お店の商品はどこに持っていったの?」


「ああ、転移先は大地の遺跡だよ。どうせ転売品だろうし、正規ルートの品かどうか、ユリアさんに鑑定して貰おうかと思ってさ。おっと、ギルド職員が来たみたいだね」


 近くを巡回していたギルドの職員が、庭にいた僕達へと声を掛けてきた。


「君達! ここで警報が鳴っていたと思うんだが、中で何かあったのか?」


 結局、到着したギルド職員に事情を説明し、今度こそ製薬の恵の敷地からおさらばした。


 もう、エリクサーの高額販売は見込めないし、おじさんはギルドに連行されるだろう。もう、製薬の恵を見るのはこれが最後だな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ