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新薬販売 5

 聖薬の恵の庭に侵入し、ガラス窓の下に潜り込んだ。

 壁に張り付いたまま、こっそりと店内を覗き込む。


「どーお? 見える? 店長はどんな人⁇」


「チワワと何人か従業員がいるみたいだけど……駄目だ、ここからじゃ良く見えないね」


 天井が高く、広々とした開放感のある店内。その中央に置いてある長机の上に、フレーバーらしきカラフルな瓶が並んでいた。

 奥のレジにいるのが店長か? 葉巻片手に新聞を読んでいる様に見える。


「このままじっとしてても仕方ないし、店内に潜入しよう」


「うん、隠蔽の魔法は使わなくていいの?」


「もしも、隠蔽の魔法が見破られた場合、逆に怪しまれちゃうからね。客として入れば問題ないよ」


 入り口のドアノブに手を掛けて扉を引くと、チリン!と鈴音が響いた。


「こんにちは〜」


「失礼しまーす」


 軽く挨拶しながら店内に入ると、店の奥から焦った様な声が聞こえて来た。


「い、いらっしゃいませ~、」


 店員のおじさんは僕達の方を見向きもせず、ワインを片手に持ったまま新聞に釘付けになっていた。


「あれ? あの店員の顔、どこかで見た事あるぞ……誰だっけ……」


「あ! あの人! 露店で私達に便乗しようとした嫌味なおじさんだよ! 王都に店を出してたんだ」


 アイリスが店員の正体に気付き、お互いに目を合わせて頷き合った。


「あのおじさんがエリクサー転売の犯人だったのか! どっかで聞いた店名だとは思ってたんだ……多分、僕達に販売勝負で負けた腹いせだよ」


 昨日の今日で、随分見た目が変わったな。

 妙にセレブな格好をしてるな、エリシアスで会った時はあんな高そうなコート着てなかったけどね。

 何にせよ、ギルド相手に転売とは怖いもの知らずだなー。


「アイリス、偵察開始だよ。店内を調べよう」


「転売するくらいだから、まだ何か他にも悪事を働いてるかも知れないよね」


 外を見るフリをしながら視線を外し、さり気なく店内を見て回る。


 正面の机に並べられていた、カラフルな粉末(パウダー)の入った瓶を手に取り観察する。


「なんだこの粉? 怪しい粉だね……調味料か何かかな?」


「それは、エリシアスにも良く売ってる普通のフルーツパウダーだよ。もしかして、ドミニク君ってあんまり料理とかしないのかな?」


「うん、家の近くの商店街で何でも揃っちゃうからなぁ」


「えへへっ、だったら今度、私が特別に料理を教えてあげます! うーんと、こっちは砂糖って言う名前の調味料でとっても甘いんだよ」


 いや、僕も砂糖は解るけどね……。

 アイリスが惚気ながら両手で持っているのは、砂糖の入った500g瓶だ。この国ではそんなに珍しい物じゃないけど……。


「ここは薬品店じゃないのかな……どうして、果物と甘味料まで販売してるんだろう、薬品の販売はやめたのかな?」


「確かに変だよね……きっと全部、エリクサーと同じで転売されてる物なんだよ! 許せない……」


 レジに飛び出して行きそうなアイリスを宥めて、様子を伺っていると、タイミング良く会計の方から魔導通信機(テレフォン)がピピピと鳴った。


「通信だ! レジ近くまで行って話を盗み聞きするよ」


「うん、相手は誰かな!」


 レジ台の前にしゃがみ込んで隠れ、通信の声に耳を立てる。

 アルバイトらしき人達から不審な視線を感じるけど、今はそんな事気にしてられない!


「もしもし、聖薬の恵だ……ああ、建築業者か、第2店舗の方はどうなってる?」


 へぇ、第2店舗を建てるのか。相当、経営が波に乗ってるみたいだな。


「がははっ、か、金なら問題ない! すでに俺の作ったエリクサーに予約が殺到してるからな……ほ、本当だ! レシピが公開されたとしても金はあるんだ!」


 僕達が隠れているとも知らず、暫く金金と、汚い話が続き、やっと通信機が切られた。


「クソ! 全て上手く言ってたのに……とにかく、早くエリクサーを売り捌かねえと、時期に価値が暴落しちまう!」


 焦って顔を上げたおじさんを、鋭い目で見下ろしながら僕達が待ち構えていた。


「こんにちは! ギルド関連の品を転売するとは良い度胸ですねー」


「露店ではお世話になりましたー。薬草研究会です。ふふっ」


 一瞬、時が止まり、ガタンゴトン!っと大袈裟におじさんが椅子から転げ落ちた。


「おおお、お前ら⁉︎ 何で王都に居るんだ⁉︎ 今すぐこの店から出て行きやがれ‼︎」


 反応を見る限り、転売で間違いないな。おじさんの顔面から見る見る内に大量の汗が噴き出して来る。


「王城に招待されているんですよ。おじさんが転売してるエリクサーのレシピを開発したのは僕達、薬草研究会ですからね」


「う、嘘を付け! お前らみたいな田舎モンのガキが王城に招待されるわけねえだろ! それに、このエリクサーは俺が作った物だ! レシピが公開されたのは知ってるだろう? て、転売じゃねぇ」


 すでにレシピは公開されているけど、肝心の遺伝子組換のレッドハーブは僕が握っている。エリクサーを作れるわけがない。


「どちらでも構いませんが、ギルドには通報させて貰いますね。今日を持っておじさんの悪どい商売はお終いです。さっき通信機で第2店舗がどうとか言ってましたけど、今の内に断っておいた方が良いんじゃないですか?」


 恐らく、転売したエリクサーの売上で第2店舗を建て様としてたんだろうけど、無駄に終わったね。


 良く回る口で、おじさんがペラペラと言い訳を始めた。


「お、俺が転売したって証拠はあるのか? 店頭に置いてあったエリクサーがお前らが作った物だとは限らねえだろ!」


「証拠はありますよ。その薬品用の瓶は僕が魔法で作った物なので、一般的な物と比べて形状が特殊なんです。なんなら調べてみましょうか?」


「そ、そんな馬鹿な……ま、待て! 確かに転売は犯罪行為だが、このエリクサーには100万Gを超える価値があるんぞ! 相場を壊してるお前らにも問題があったんじゃないのか!」


 やっと、認めたな……でも案の定、論点をズラして来た。

 価格については批判は覚悟の上だ。販売前にアイリスと話し合って決めた事を他人にとやかく言われる覚えはない。


「転売に価格は関係ありません! それに販売者には価格を決める権利があります」


「そうですよ! 私とドミニク君が製造者で販売者なんですから、部外者のおじさんが口を出さないで下さい」


「ぐぬぅ…………」


 僕とアイリスの追求に言葉を無くし、転売おじさんは俯いてしまった。

 子供みたいに半泣きで地面にのの字を書いている。


「黙ってないで何か言ったらどうなんですか? 大人なんですから」


「…………うるせぇ! バーカ‼︎」


 子供か‼︎

 僕等の隙を突いて、おじさんがガン!っと力任せに会計台の下を蹴った。その瞬間、店内に警報の魔法がビービー!と鳴り響いた。


「火事か⁉︎ 逃げろおお⁉︎」


「へへっ、店長が誰かと揉めてるけどざまあみろだ! バイト代ちゃんと振り込んで下さいねー!」


 警報に驚いたアルバイトの2人が、ダッシュで店外へと逃げ出して行った。


 おじさんは、会計台の下から護身用の小型の杖を取り出し、僕へと向けて突きつけて来た。


「もう許さねぇガキども! お前らさえいなけりゃ全部、上手く行くはずだったんだ! その尻に強烈な魔法を叩き込んでやる!」


「論破されて逆ギレなんて、大人として恥ずかしくないんです?」


「そーだそーだ! やっちゃえドミニク君!」


 まったく、せっかくの王都観光が台無しだな……。


「こっちは新店舗の為に、この店を担保に入れてんだ! 覚悟しろよ」

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