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新薬販売 1

 ルミネスに飼育小屋を任せ、単位の祭壇から薬草研究会のオンボロ部室へとやって来た。


「こんにちはー、部長のドミニク・ハイヤードでーす……っと.ちゃんと挨拶しても部員は僕とアイリスの2人しか居ないんだったな……」


 部室の扉をガチャっと開けると、ルイス先生が許可証らしき紙と睨めっこしていた。


「ルイス先生? そんなしかめっ面してどうしたんですか?」


 あれは、僕とアイリスが置いていったエリクサーの販売許可証だな。何か不備があったのかな?


 固まったままの先生の横を通り抜け、部室のぼろソファーにお尻からボブっと飛び乗った。


「ドミニク君、ちょっと聞きたいんだけど……ここ、これって、あの伝説のエリクサーなの……? 冗談よね?」


 僕にそう尋ねながら、ぎこちなく首を傾けたルイス先生。その顔色は優れない。


「そうですよ、早く販売許可を貰えませんか?」


「信じられないわ……みんな血眼になってこの国宝級のポーションを完成させようとしていたのよ……正しく、今ここにゴッドが降臨なされているの……うぅ」


 感極まった表情で、エリクサーについて熱く語るルイス先生。

 僕の話が聞こえてない……ゴッドって何だ? 熱でもあるのかな?


「うぅ……いつまでも泣いてる場合じゃないわね……今すぐ調合レシピを教えて頂戴!」


「ビニール室にあった遺伝子組み換え草ですよ。あれがレッドハーブを汚染し、エリクサーを生み出すハーブへと変化していたんです。ルイス先生が調合の魔法で作ったんじゃないんですか?」


「そんな……まさかあの興奮草が?」


 ルイス先生の作った遺伝子組換草の狙いは、興奮効果のある興奮草に、鎮静効果のある霧吹(きりふき)草を掛け合わせ相殺し、興奮草の持つ回復効果だけを残す事が目的だったと思われる。


 そうして作られた遺伝子組み換え草が、偶然にもレッドハーブを汚染し、エリクサーを生成できるハーブへと変化させた。まさか、自分の作ったハーブがエリクサーが生み出下なんて、当の本人も驚きを隠せないみたいだね。


「調合したのは僕とアイリスですけど、元を辿れば、エリクサーを完成させたのはルイス先生って事にもなりますね」


「違うわ、これは紛れもなく君達の手柄よ。あの遺伝子組換草はもう何年もあそこに放置していもの……調合師として誇りに思いなさい。でも、エリクサーをたったの250Gで売るのはどうかと思うわ。エリクサーは調合界の神聖薬。1滴、100万Gの価値があるのよ」


 確かに、かなり安目にしちゃったけど、このポーションは簡単に量産できるしなぁ。


 一般の回復ポーションは、ハーブの品質と調合の魔法の練度を上げたとしても、せいぜい薬品ランクCのものしか完成しない。

 その効果は、かすり傷なら一瞬で治り、深い傷には数十分掛かる、致命傷に至っては効果が無い。


 それに比べ、このエリクサーの薬品ランクはSだ。恐らく、致命傷ですら一瞬で完治するくらいの効果があるだろう。


「エリクサーを高値で売る意味はあるんですか? 安くて効果のある画期的なポーションを販売しないと、ヒールの魔法が使える冒険達には見向きもされませんよ。そもそも、ポーションそのものが売れない時代なんですから」


「考えてもみなさい。まだ学生の君達が伝説のエリクサーを大量販売なんて行ったら、エリクサーに目を付けた同業者達に妬まれて、トラブルに発展するのは目に見えてるわ」


 なるほどね……ルイス先生が僕達を心配してくれているのは解った。ただ闇雲に新薬のエリクサーを販売するのは危険だよな。


「じゃあ、このまま研究会が廃部になっても良いんですか?」


「丁度その話をしようと思ってたのよ。エリクサーのレシピを養成学校に提出しなさい」


「レシピをですか? 一体、何の為に僕は一一一一」


 説教モードのルイス先生と言い合いになっていると、不意に部室の扉が開かれた。


「ドミニク君いるー? あれ? 何でお説教されてるの……」


 扉の隙間から雪色の髪がふわりと靡き、アイリスが顔を覗かせた。場の空気を察して少し面倒臭そうにこっちを見ている。


「やあ、アイリス。分からず屋の先生に何か言ってやってくれないかな?」


「えー、私もお説教されるの? やだなー」


 嫌と言いつつも、能天気な顔で僕の隣にちょこんと腰掛け、先生のお説教に耳を傾け始めた。


「とにかく! エリクサーを販売したいならルーシス校長にレシピを渡しなさい。今度、王都で開かれる学会に養成学校の代表として、ルーシス校長達も呼ばれているのよ。そこで正式にレシピを公開すれば、君達がエリクサーを販売しても安全が保障されるわ」


 へ……学会? いきなり何の話しだ?


『学会』と言えば、各地の天才的な研究者が集まり、成果を発表する場だ。

 毎年、エリシアスの王都で開催され、王族直属の研究者達も参加する。信頼性が無いわけじゃないけど、そんな遠い存在の偉いさん達にレシピを渡したらどうなるかも想像つかないぞ。


「もしかして、エリクサーのレシピを学会に無償で提供しろって事ですか?」


 アイリスも表情を曇らせて、先生に抗議している。

 反応を見る限り、彼女もこの話を知らなかったみたいだな。


「ルーシス校長の命令なのよ。君達の安全と廃部取り消しの問題が同時に解消される訳だし、私は良い条件だと思うわ」


 うーん、正直な話、調合師を志す者として、エリクサーのレシピを他人に譲るのは惜しい。でも校長には借りもあるし、レシピは学会で発表する他ないよな……。


「私からの話は以上よ。後はしっかり自分達で考えて答えをだしなさい……」


 柄にもなく説教してしまったせいか、ルイス先生は気まずそうに部室の隅に移動して不貞腐れてしまった。何だかんだで、僕達に選ぶ権利をくれるのか。


「ねぇアイリス……レシピはルーシス校長に提供しようと思うんだ。でも、せっかく僕とアイリスが完成させた新薬なんだ。薬草研究として市場にエリクサーを売り出すのはやめないよ」


「おもしろそー。校長達に内緒で売るんだね。そう言うのってワクワクするよね」


「うん、どうせすぐバレるだろうけどね」


 アイリスは能天気に微笑み、僕に信頼の目を向けている。


「学会の当日に、一気にエリクサーを大量販売すれば良いんだ。そうすれば、僕達に危険が及ぶ前に国からエリクサーのレシピが公開されるはずだ。この作戦ならきっと上手くいくよ」


「結論は出たようね、まったく……私はどうなっても責任とらないわよ」


 僕の考えに、隅にいたルイス先生も納得し、ぶっきらぼうに許可証にサインをしてくれた。


「それで学会はいつ開催させるんですか?」


「明日よ」


「「ええ〜」」


 あ、明日だって……おい、どうしろってんだ……。


「やるしかないね、もう時間がない……」


「明日は流石に無理じゃないかなー。日が限られるとポーションの生産量の問題も出てくるよ」


 仕方なく、2人で作戦を練る事にした。

 エリクサーを市場にばら撒く為には、短時間で大量生産出来る調合機を作る必要があると結論に達し、早速、行動に移る。


「まずは部室の廃材を集めよう。調合機を作るには材料が必要だ。足りないものは商店街まで買いに行くよ」


「うん! この部室は廃材だらけだけど……凄いホコリだー」


 部室に転がっていた鉄製の台や椅子、刃物、ガラスの容器のホコリを払い、使えそうな物を部室の真ん中へと集めて来た。これらを廃材として利用する。


「いくよ!

 初級魔法(オリジナル)・『思考形成』」


 廃材に鍛冶部で使った思考形成の魔法を掛け、僕のイメージした通りの形へと変形させて行く。

 薬草と聖水のタンクを取り付けてっと、刃物は薬草の毒素を切り分けるのに使って~。


 ものの数秒で、廃材から見事な調合器が完成した。


「出来た! このタンクに聖水を入れて、こっちには薬草を入れるんだ」


「こんなので本当にポーションができるの?」


「勿論、自動で毒素の部分を取り分けて適量の聖水を配合、加熱までしてくれるんだ」


「ほぇー、賢い子だね」


 ガタガタと振動する魔導調合器の薬草投入口に、特殊レッドハーブを1本放り込むと、自動で調合されたエリクサーが販売用の100ml容器にどんどん投入されて行く。


 薬草1本から、一瞬で100本のエリクサーが完成した。


「何これ速すぎだよ! 調合会に革命が起こるよ!」


「ふふん、容器には保存の魔法がかけてあるから、普通のポーションより何倍も品質を保持できるよ」


 それから調合機による精製作業を繰り返し、前に作った分と合わせて合計900本近くのエリクサーがあっという間に完成した。


「ふぅ……生産ラインは決まったし、後はギルドに販売許可を貰いに行こう」


「うん」


 転移魔法を使い、草原地帯ギルド受付のユリアさんの元へと転移した。


 ※


 いたいた、ユリアさんだ。

 今日の遺跡には、冒険者の姿があまり無い。ユリアさんも暇そうにカウンターに座っていた。


「ユリアさーん、新薬の販売許可を貰いに来ました」


 挨拶し、冒険者カードとエリクサーの入った木箱をカウンターに置いた。


「あらドミニク君。元気そうで何よりだわ。そっちの子はお友達かな? よろしくね」


「はじめまして、私はアイリスです。ドミニクには薬草研究会でお世話になってますよ。ろしくお願いします」


 アイリスと元気に挨拶し、にこやかに頭を下げた。


 ユリアさんが箱を開け、エリクサーの便をライトの光に照らして観察し始めた。


「これは…… いつもの回復ポーションじゃないわね……」


「ユリアさん、この新薬を1日だけで大量に売り捌きたいんです。どの位売れると思いますか?」


 僕の問いかけに、ユリアさんはため息混じりに口を開いた。


「はぁ……無理ね。ただでさえポーションは売れないのに、新薬なんてなおさら売れないわよ」


 解ってはいたけど、厳しい反応だな……僕の読みが甘かったかな……ん? ユリアさんが調合レシピを見てプルプルと肩を震わせている。


「ちょっとまって! え……え⁉︎ こ、この新薬ってエリクサーなの⁉︎ 」


 あ、言い忘れてた。


「これはとんでもないわ! 売れるわよ! 千でも2千でもポーンッと売れるわよ! 但し……エリクサーを事前に宣伝して話題を作っておけばだけどね」


「宣伝? 一体どうすればいいんですか?」


「私が何年、ギルドの受付なんてやってると思ってるのよ。宣伝なら私に任せなさい。その代わり、私が書いた記事の件はこれでチャラね〜」


 なるほど、ユリアさんは趣味の報道繋がりで、広告関係に顔が効くようだ。ここはユリアさんの力を信じよう。


「わかりました。エリクサー販売の日、勝負は明日です!」

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