ゲットホームとマイホーム
空間転移の狭間を潜り、ドタバタで我が家のリビングへと降り立った。
ぜぇぜぇ……酷い目にあった。
まさか、賊2人だと思ってた奴らが実は養成学校のトップ2人だったとは……。
散々、ゴリラ呼ばわりした挙句に、イルベル教頭に至っては爆破しちゃったしな、今度こそ退学か。
いや、そもそも隠蔽の魔法とは『特定の物や人物』に姿を似せる魔法だ。ルーシス校長がゴリラ化してたのは、イルベル教頭の隠蔽のイメージがそうだったからに過ぎない、意外とお茶目だなあの教頭。
「むにゃぁ……すぴー……」
腕の中から、気持ち良さげな寝息が聞こえてくる。
「ルミネス……今、治してやるからな。
初級魔法・『アナライズ』」
ソファーにそっと体を寝かせ、『解析』の魔法の光を通した。
何だこれ? 空気中の魔力が体内に取り込めていない……このままじゃ、魔力が枯渇してしまう。
「魔力欠乏症か……まいったな。ルミネスはもう何年もの間、あの宝玉の中に封印されてたって事だよな……」
可哀想に……記憶が無い以上、家族を探し出してやるのも難しい。
魔神は人間の体内に生まれる。つまり、宝玉に封印される前に宿っていた人間の宿主がルミネスの家族って事になるのかな……。
いや、今はもうルミネスは僕の使い魔になったんだ。どうせ一人暮らしだし、妹が1人くらい居ても問題ない。
「……ドミニク様? ここは我がアジトですか……?」
目を覚ましたみたいだな。
寝ぼけ目のまま不思議そうに、キョロキョロと部屋を見渡している。
「あの教員どもは何処へ? 一体、何があったのですか?」
「おはよう、ルミネス。とりあえず、校舎裏の森でルーシス校長達と何をやってたのか、詳しく教えて貰えるかな」
「え……あ、あの、そ、それは……なんといいますかー……」
顔面蒼白だな……何か良く無い事でもあるのか?
ルミネスの気分を落ち着かせる為、お茶を入れてテーブルに並べた。
「スメルの魔法を使ったでしょ? 校舎の方まで匂いが流れて来てたのに気付いて、居場所を探ったんだ」
「あ、あの匂いを感知されたのですか……やはり、私の予感は当たっていましたね……実はあの時一一一一」
ルミネスが何か言おうとして、唐突にガラリ!とリビングの扉が開かれた。
後ろを振り返ると、開いた扉の向こうから漆黒の獣が6つの鋭い眼光を放ち、僕をジーっと見つめている。
え……ケルベロスがいる。何で⁇
《ガルルルゥ》《グォォ……》《ガルッ!》
しかも一頭じゃないぞ、廊下の奥までケルベロスで埋め尽くされている……。
再び、テーブルの方を振り返ると、ルミネスが盛大な土下座を決めていた。
「申し訳ありませんドミニク様ぁー‼︎ 強制送還の魔法が我が家に設定されていると、途中で気が付きまして!」
ペコペコと頭を下げるルミネス。記憶が無いならそうなるのも頷ける。
『強制送還』はその魔獣が暮らしている場所か、もしくは主人の家に送り返す魔法だ。
ルミネスには僕の家の記憶しかないからなぁ……でも、何となく話が読めて来たぞ。
召喚魔法の失敗によって校舎裏の森に残っていたケルベロス達を、ルミネスは強制送還しようとしてたんだな……その途中で校長達と遭遇し、揉めたって所だろう。
「ゲットホームさせちゃったのは仕方ないとして、このケルベロス達は何頭くらいいるの?」
「にゃあー、試験の時と同じ数ですから……大体30頭くらいですかね、頭で数えると3倍ですけど」
30頭⁉︎ こんな馬鹿でかい魔獣がうちの3LDKに⁇
妹は良いけど、ペットはこんなにいらないぞ。
「何考えてんの⁉︎ 30頭も入れたら外出れないじゃん!」
「も、申し訳ありません! 今すぐこの駄犬どもに家から出て行くように説得しますので‼︎」
本当に大丈夫かな……。
ルミネスがケルベロス達の顎を撫でながら、交渉を始めた。
「良し、貴様ら。さっさとドミニク様の家から出て行け」
《クゥーン……》
ケルベロス達はげっそりとした表情を浮かべ、不満気に廊下に集まって会議を始めてしまった。
追い出せっていったのは僕だけど、もうちょっと言い方ってもんがあるだろう。
「ルミネス、もういいよ。僕が『読心』の魔法で交渉してみるから代わって」
「本当に大丈夫ですか? こいつらにはキツく言わないと通じませんよ?」
「大丈夫だよ。僕は犬に好かれやすい体質だし」
会議中のケルベロス達の輪に混じり、読心の魔法で優しく語りかけてみた。
「君達を家で買うのは無理なんだ……申し訳ないけど、元暮らしていた場所に帰って貰えないかな?」
僕の顔を見るや否や、ケルベロスの顔が鋭く変貌し、威嚇しながら言い放ってきた。
《ガルルル‼︎ 我々は断固として、立ち退きを拒否する‼︎》
えぇ⁇ 何だこの態度の変わり様は……と言うかここは僕の家だぞ。
スノーフェアリーもそうだったけど、魔獣って結構面倒な奴らばっかりなんだよな……今まで読心の魔法を使って良い思いをした事がないぞ。
よく見たらケルベロス達は、フローリングの床に寝そべって気持ち良さそうだ。もしかしてあの冷んやり感がツボなのか。
「そんな事言われてもなぁ……君達のサイズを考えたら30頭もうちで暮らせないでしょ?」
何とか交渉を試みるも、ケルベロス達は全く聞く耳を持つ様子が無い。
「ドミニク様、甘やかしてもこいつらの為になりません。さっさと『地獄の檻』に連れて行きましょう」
「そっか、可哀想だけど仕方ないね……」
《ガルルルゥ⁉︎ 地獄の檻⁉︎》
さっきの態度は何処へやら、ケルベロス達がガブガブと僕の制服の裾に噛み付き、チワワの様な眼で悲願してくる。
そうだな……どうせ、一度養成学校に戻ってルーシス校長に事情を説明しないといけないし、その時にこいつらの事も相談してみるか……。
はぁ、頭が痛くなって来たぞ……。




