合成の杖
筆記試験も終わり、商店街で晩御飯の買い物をして帰る事になった。
商店街の近くの大きな公園で、すっかり機嫌の良くなったカレンと手を繋いで歩く。
「ふーん、ドミニクは学者の称号なんだー、毎日草を混ぜてた甲斐があったね、両親も学者でしょ?」
「ハイヤード家は有名な学者夫婦だからね。カレンは雑務処理の称号か……なんか素敵だね」
「無理に褒めなくていいよ! 地味な私にはピッタリだし」
地味か……カレンはズレた眼鏡を整え、少しだけヤケになってそう答えた。
カレンの名前には漢字が入ってる、父親は外人だ。追影先生と同じで、忍が居たとされる国の出身らしい。
なのでカレンはこの国では珍しい地味な黒髪をしている。それに加え落ち着いた薄いピンク色の眼に、黒縁の眼鏡を掛けているので余計に地味に見える。
長い付き合いだけどその事については深く追求したりしない、どうであれカレンがカレンなのに変わりは無いし。
のんびりと散歩してから商店街を歩き、目的の24時間営業の食料品店に着いた。
店先のテントに並べられた果物の箱に目を惹かれながら通り過ぎ、お店の中へと入る。
ここでお菓子と食料品を大量に買い込むのがお決まりのパターンだ。カレンも制服の袖をまくり、気合い充分でお店のカゴを持って来た。
「今日は夜更かしだよー!」
「ちゃんと寝ないと駄目だよ、程々にね」
完全に僕の家に泊まる気だな……仕方無い、僕も何かお菓子でも買おう。
それにしても困ったなー、『SSS』ランクの件どうしよう。
悩みながらお菓子コーナーを漁っていると、何故かお客さんの視線が僕に集まっているのを感じた。
「じー……」
「ねぇ見て、あの人じゃない?」
謎の視線を感じる……僕にも遂に男の色気が!? あれ? 何だこの雑誌。
見覚えのある顔写真が載ってあった雑誌を、何気無く手に取り確認する。
『レッドドラゴンを討伐した伝説のポーション売りの少年ドミ○ク・ハイヤード。2人目のSランク冒険者の誕生か!? その謎に迫る!』
著作:ユリア・コーネリア
ちょ!! 何勝手に人の事本にしてるんだよ! 名前もほぼ出てるし、ユリアって冒険者ギルドの受付の人かな……
慌てて本を棚の後ろに隠していると、それに気づいたカレンが怪しむ目をして近づいて来た。
「ドミニク、なに見てるの?」
「あわわわ、なな、なんでもないよ! 見ないで!」
「怪しい……えっちな本ね」
雑誌を背中で隠す僕をカレンが軽蔑の目で見てる! でもバレる訳にはいかないんだよ! くそぅ、顔写真も載ってるし、今度ギルドに行ったら覚えてろよ!
食料品店から出ると、適当に街をぶらつき一旦カレンの家にお泊まりセットを取りに行った。
僕の家に着く頃には日も落ちて、辺りはすっかり暗くなっていた。
「ただいまー、誰もいないけどね」
「お邪魔しまーす、うう、少し寒いね」
少し冷えた空気の中、リビングにある食事用のテーブルに、買って来た食料品を紙袋から取り出して並べていく。
2人でソファーに並んで座り、今日の試験の話をしながら晩御飯のパンを食べた。
カレンはソファーに背中を預けて膝を抱え、つまらなそうに天井を見上げていた。
筆記試験は惨敗だったらしい、カレンは真面目なのに運動も勉強もあまり得意な方じゃないからなー。
忍者先生についてはあれは忍者で間違いないと結論が着いた。
「じゃあ僕はお風呂入って『合成』したら寝るから、カレンは好きにしてて良いよ」
「また実験するの? 早めに切り上げて寝なよー」
「はいはい」
お風呂場にある大きな釜に、魔法で加熱したお湯を入れて肩まで浸かる。お風呂はカレンの国にしかない習慣の1つだ、何と無く僕も彼女につられてお風呂の習慣が身についてしまった。
一息ついて風呂から上がり、調合室の隣にある『合成室』に篭る。
聖水の匂いは落ち着くなあ……この合成室の内装は調合室と同じで、合成に使う大きな土鍋とモンスターの素材から宝石まで多種が揃っている。
明日の実技試験に備えて簡単な武器と魔導具を作ってから寝よう。
『合成』は僕の得意魔法の1つだ。
『調合』の魔法と本質の部分は全く同じ魔法で、大きな違いは作れる物の種類だけだ。
『合成』は大きな鍋に聖水を入れ、モンスターの素材や魔法石を組合わせる事で、魔法の道具を作る事が出来る。
ただ鍋に材料を放り込んでかき混ぜてるだけに見えるけど、合成も調合も使用者の魔力に大きく左右される立派な魔法だ。
実技で戦闘になる可能性も考えると、僕が魔法適性『SSS』ランクだって思われない様に、規模の低い魔法を込めた杖を作った方が良い。
僕には『魔獣』に関する知識が余り無い、図鑑で調べながら家にある弱そうなドラゴンの素材で杖を作ろう!
合成室の本棚から魔獣の図鑑を取り出し、椅子に腰掛け分厚い図鑑のページをめくる。
《ペラペラ》
じっくりと杖の素材になりそうなドラゴンの素材を見極める。
んーっと……こいつどっかでみたなー、確か最近討伐したモンスターだよね。
『エリシアス・アトモスフィアドラゴン』か。
ふむふむ、上昇気流の魔法を使い、人間を上空まで吹き上げて餌とする大型のドラゴンか。
……弱そうだな! こいつの骨を杖の土台にしよう。
後は杖の先に取り付ける宝石だな。さーてと、宝石コレクションの棚を漁るか。これなんてどうだろう? 『崩壊の宝玉』か、なんか黒くて地味だし大した価値は無いだろ!
宝玉には予め魔法を付与しておく。これによりわざわざ魔法陣を描か無くても、魔力を込めるだけで宝石に刻んだ魔法を使う事が出来る。
指先で宙に魔法陣を描き、完成した青く光る魔法陣を宝玉に重ね焼き付けていく。
素材も決まったし、合成開始だ。
グツグツと聖水が煮える合成の鍋に、素材を放り込む。
《ボチャボチャ!》
「合成、合成~ふふんっ」
『大気竜の骨』と『崩壊の宝玉』を聖水で煮ながら合成の魔法を使い、長い鉄の棒でかき混ぜて行く。
ピカッと、魔法の光と共に鍋の聖水が一瞬で空になり、中から杖が現れた。
白い柄の先に黒いドクロの宝玉が付いた、長さ1m弱の『合成の杖』を鍋の中から拾い上げた。
命名しよう、僕の自信作……
『アトモスフィア・デススタッフ』だ!
ブンブンと杖を振り回し水を払うと、杖から不気味な声が聞こえ、闇のオーラが溢れ出した。
《ォォォォォォォ》
「ビックリした! 何だこの杖!? 何かの怨念がこもってるな……まいっか、楽しくなって来たし!」
後はカレンの為に何か身を守れるアイテムを作っておこう、今夜は徹夜になりそうだ!