現代魔法と得意属性5
へぇ、これが訓練用の杖か……気休め程度に魔力が増幅してるな。
杖には、術者の能力を向上させる効果がある。
この杖の効果はあって無いようなものだね……まさに初心者用の杖だ。
「何を調べてるのー?」
杖の性能を確かめていると、カレンが不思議そうに顔を覗き込んで来た。
「簡単な魔力情報を読み取ってるんだよ。カレンもやってみる?」
「えぇー、出来るかな? ちょっと貸して」
呑気に杖を観察していると、急に後ろからグイッと肩を引っ張られた。
「おい、ドミニク。今のギーシュの捕縛を見たか?」
「あの魔法は反則だよっ! やっぱり魔法適性Bだって自負してるだけあるねっ……」
え? いっけね……全然、ギーシュの魔法を見てなかった……何がどうなったんだ?
レオルとリーシャに肩を揺さぶられ、仕方なく的の方を見てみる。
背を向けて立つギーシュ達の向こうで、標的の棒が3本、纏めて1つに束ねられていた。
レオルが更にマジ顔で呟いてくる。
「勝算は勿論あるんだよな?……なぁドミニク!」
「まぁ、ある……かな」
どうやら、捕縛の縄で木を引っこ抜いたらしい。
シールの保護は衝撃を吸収するけど、引っ張る力には耐えられないのか。ギーシュの奴、意外と考えてるな。
「ギーシュさん、パネェっすよ! 凄すぎるっすよ!」
「これは勝負あったな! ドミニクの野郎は現実逃避して目がイッちゃってますよ」
お坊っちゃま君の取り巻き達が、ワイワイと騒ぎ始めた。相変わらず言いたい放題だな……。
点数を記入し終えた先生が、決闘の進行を続ける。
「次はドミニク殿の番ござる。繰り返すが、委員長の座はこの勝負の勝者が手にする事となるでござる!」
……別に委員長とかどうでも良いんだけどね。
「いっけー、ドミニクー! やっちゃえー!」
「よーし、行ってくるよ!」
……あれ?
冷静に考えてみたら、もし僕が負けてたらカレンとギーシュが委員長になるんだよな……これは、負けるわけにはいかないな……。
応援してくれるカレンに手を振り、ゆっくりと標的に向かって歩いていく。決闘を見守っていた生徒達もカレンに乗せられたようで、ぼちぼちと応援の声を漏らしてくれた。
「ギーシュなんかに負けんなよー」
「ケルベロスの恨みは忘れてないが、俺はお前を応援してるぞ!」
はぁ、残りの標的は2つか……氷漬けだし、火を使った同じやり方だと引き分けになるしなぁ。
何か手は無いかと訓練場を見渡していると、とある違和感に気付いた。
ギーシュの引っこ抜いた的……土に埋まっていた部分は綺麗なままだな。ダークスピリットの氷の魔法は土の中にまで届いていないのか?
生徒達が息を飲んで見守る中、杖の先に魔力を集め、せっせと魔法陣を描いていく。
「魔法陣を改変してっと……よーし、こんな感じかな?」
丁度、僕の上半身がスッポリ収まるサイズの魔法陣が完成した。柔らかな白い光が、眩しいくらいに訓練場を照らしていく。
「何か言いたげだね、ギーシュ」
ギーシュが僕を白い目で見ている。
「なんだその魔法陣……陣がデタラメじゃねーか、はははっ」
気付いたか……まぁ、この魔法陣は、適当に構成魔力数を組み合わせて作った『初級魔法』だからね。見た目が不恰好なのは仕方ない。
追影先生と魔法適性に優れた一部の生徒も、僕の魔法陣の異変に気付いたみたいだな。
「ターゲットを壊したら負けだぞ、解ってるよなぁ?」
「しつこいなぁ。危ないから離れた方が良いよ」
迫ってくるギーシュに警告し、魔法陣に掌を重ねて集中する。
瞬時に魔法陣をコピーし、『2層』に連なる魔法陣へと変化させた。
「じゃあ、もしターゲットが壊れたら、ルール違反で僕の負けって事で。
2連の魔法陣を地面に沿わせ、地中に向けて魔法を放つ。
「2連詠唱・『ディガーバインド』」
ガガガ‼︎っと地中を掘る音が響き、何かが土を盛り上げながら標的に向かって掘り進んでいく。
この魔法は、動物の『モグラ』をヒントに即興で考えた捕縛の魔法だ。
捕縛のネットを詰めた『爆弾』を土の中に飛ばし、地中から敵を捕らえる事が出来る。
掘り進む爆弾を魔力で操りながら、氷漬けの木の棒の真下で第2の陣を発動させた。
「よっと‼︎」
ドカーン!っと地中で大爆発が起き、巨大な『捕縛のネット』が飛び出した。
爆発の衝撃により、標的の棒がクルクルと宙を舞った。
シールの保護が弾け飛んだな……でも、本体はギリギリ無事だ。
「後は縛ってっと!」
露わになった、綺麗な根っこの部分だけを縛り上げ、そのままネットが爆発地点へと収縮して地面に固定した。
決闘を見守っていた生徒達に、シーンっ……と沈黙が走る。
何だ……? みんなの目が死んだ魚のように曇っている。
「は……? ゆ、夢でも見てるのか……何だ今の爆発は」
「2連詠唱の時点で気付けよ……あいつはヤバイって……」
呆気に取られながらも、ギーシュは必死に抗議の姿勢を見せた。
「は、反則負けだ! あんなの捕縛じゃねぇ! だよな忍者先生!」
先生が念入りに的を調べ、魔法の解説を始めた。
「ぬぅ……魔法に複数の効果を持たせ、それを時間差で発動させるとは恐れ入った……しかも、捕縛の縄が地面に縫い付けられている。これでは、脱出する事は叶わんでござるな」
まぁ、動きを封じるなら縄を巻くより、地面に縫い付けた方が逃げられない。相手が竜族の様な飛行魔法を使う相手なら、また話は変わってくるけどね。
先生の反応は悪くない。即興で考えた魔法にしてはなかなか上手くいったな。
ギーシュが汗を垂らしながら、地面に尻餅をついていた。
「ト、トリックだ……幻覚に違いねぇ! ドミニクにこんな真似が出来るわけないんだ……そうだ! 的を壊したら負けだって最初に言っただろー!」
「え……? 1つも壊れてないけど?」
勿論、的は無事だった。壊れたのはギーシュの方だろ。
追影先生が『委員長』の旗を揚げて、勝者の名を告げた。
「どちらも素晴らしい魔法であった。しかし、魔法とは型に囚われない柔軟なものであるべきでござる。よって委員長はドミニク殿のままでござる!
「へ……嘘だ、どうしてだぁぁ⁉︎ パパァァ!」
「「ギ、ギーシュさん! しっかりして下さいっす!」」
うへ……ギーシュの奴が寝転がってゴロゴロと地面を転がりだした。取り巻き達も大変だな……。
「競い合う事で成長するのがクラスメイト、仲間というものでござる。にん!」
なんか先生が良い事を言ってしめてくれたけど、結局、僕が委員長やらないといけないんだよね?
僕の勝利を讃え、わちゃわちゃとレオル達が群がってくる。
「やったなドミニク! 俺はお前が勝つと思っていたぞ!」
「さすがドミニク君だねっ」
「ふふんー、ドミニクが勝つに決まってんじゃんー」
ボフッと、正面から抱きついて来たカレンから、ふわっと獣の臭いが漂って来た。
「ん? カレン……なんか獣臭がしない?」
「え⁉︎ なんでー、私から?」
くんくんと、袖の匂いを嗅ぐカレン。
いや、カレンじゃないな……どこからか匂う……やっぱり獣臭いぞ。
不自然に風に漂う匂い……。
……これって、ルミネスの匂いか?




