SSSランク
雪山の大穴に続き、今度は樹海の毒霧が消滅した。
それを受け、ギルドの関係者達が養成学校に集まり、緊急会議が開かれていた。
「……以上が今回の事件の概要だ、ドミニクって奴は養成学校の生徒だろ?」
調査隊の責任者、アンソニーが事件の概要を伝え終え、教員達に問いかけた。
とある生徒の名が飛び出した事で、校長室が深刻な空気へと変わる。
養成学校教頭、イルベルが、机に置かれた樹海調査のファイルをめくり、口を開いた。
「彼が樹海の毒霧を消滅させたと……? どう思いますルーシス校長?」
雪山の事件と今回の事件を重ね、悩む様に白い顎髭を撫でるルーシス。
「どうじゃろな……事実だとしても方法が解らぬ」
再び、アンソニーが事件の詳細を話し始めた。
「樹海の上空に、数千の天空魔法陣が現れたんだ。目撃証言も多数あがってる。
それに奴は雪山の大穴事件にも関与してるんだろ? 大事になる前に、何かしら奴を保護する手を打った方が良いぞ」
樹海の霧は、毒性植物達が作りだした物だ。放っておけば自然に毒霧が噴出され、元の毒霧に覆われた樹海へと戻るだろう。
問題は、樹海を丸ごと浄化できる程の力を持った、学生が存在するという事。論点はそこへと移って行く。
ここぞとばかりにバッ!と、立ち上がり、赤髪の教員、カルナが気迫のある声で言い放った。
「彼は危険過ぎます!! 今すぐ捕らえましょう!」
カルナはクラス分け試験の時にドミニクに瞬殺され、反撃の機会をずっと伺っていた。
部屋の隅で、立ったまま傍観していた樹海の調査隊、デリスが呆れた顔でカルナに反論した。
「無理だね、竜族を捕らえられないのと同じだよ。下手に刺激して戦いになれば、痛い目を見るのはギルド側かも知れないよ」
反論を許さず、バンッ! と机を叩いたカルナ。
「新人は黙りなさい! 臆病者は家に帰ってミルクでも飲んでなさい!」
2人のやりとりを見かねたルーシスが、感情任せに叫んだ。
「戦うなど絶対に許さん!! 彼はここの生徒だぞ、何か手を考えるのじゃ……」
ルーシスの一喝により、静かになった校長室の扉が、コンコンと叩かれ、ゆっくりと開かれた。
「あのー、私も呼ばれたんですけど、何か用ですか?」
現れたのは、草原地帯にあるギルドの受付嬢、ユリア・コーネリアだ。
彼女はドミニクを冒険者登録した経緯もあり、ギルドの中ではドミニクとの付き合いが1番長い。
ユリアは、恐る恐る椅子へと腰掛ける。
「やっと来たか、例のドミニク・ハイヤードの処遇について話していた所じゃ、彼の冒険者登録をしたのはユリア、お主じゃろう?」
ルーシスの威圧的な眼に動揺し、上手く思考と口が回らないユリア。
「え、あ、あの! SSSランクのドミニク君ですか?」
存在しないランクを口走り、全員が同時に顔をしかめた。
「なんじゃそれは……詳しく話してもらえるか?」
それからドミニクの処遇について議論を交わし、最終決断が下された。
不満そうなカルナを残し、ルーシスの考えた最善策が選ばれた。
「特別措置で決定じゃな、実績はレッドドラゴンの単騎討伐、ギルドの幹部にはワシが話をつけておく、拳でな」
「どうせ誰も信じないだろうしね、これで彼の問題行動も多少は誤魔化せるかな」
「異論はねえよ、あの小僧には借りもあるしな」
※
養成学校のいつもの会場にて、生徒達に緊急の呼び出しが掛かった。
今日は、冒険者ランクの新たな最高位の誕生と授与が成される、とてもめでたい日だ。
会場には、この記念日を祝う為、各地から冒険者達が駆けつけていた。
「ではこれより、新たに生まれた最高位の、冒険者ランクの授与式を行う!」
そう高らかに宣言したのは、現最高ランクの冒険者、Sランクのルーシス校長だ。
僕は、ルーシス校長に提示されたある条件を呑む事で、無事に退学を免れ、このめでたい授与式へと参加する事を許された。
壇上に向かって整列する学生達の横を、堂々と歩いて通り抜ける。
「ドミニクはどこ行ったんだ? こんな大事な時に何やってやがる」
落ち着かない様子でレオルが僕を探していた。列の後ろにカレンとリーシャも居る。
「カレンちゃんっ、ドミニク君はどこかなっ?」
「いないね? 多分、トイレでしょ」
壇上への階段を登り、生徒と冒険者達を見下ろす。
ルーシス校長は、僕にも1つだけ条件を付ける事を了承してくれた。
「あれがSSSランクの冒険者なのか? まだ子供じゃないか……」
「いいのかあれ? ファラオだぞ……」
「顏が見えない……あの黄金仮面は何だ?」
遺跡で手に入れたファラオの黄金仮面を被ったまま、壇上に堂々と立つ。
僕の提示した条件、それは僕の正体がバレない事、名前と姿を絶対に明かさない事だ。
「ではこれより、新たな最高位の冒険者ランク、SSSランクをキングオブ・ファラオへと授与する!」
当然、会場中にブーイングの嵐が巻き起こる。
「ふざけるな! 顔を見せろ!!」
「何がファラオだ! 仮面を取れ!」
観客が放り投げたゴミを避けながら、表彰状を受け取り、飛行魔法でゆっくりと宙に浮きあがる。
騒がしい中を、遠くでカレンが不思議そうに首を傾げ、僕の方を見つめていた。
「あれは、ドミニク……だよね?」
※
こうして僕の冒険者カードは、最高位のSSSランクに本当に書き換えられる事になった。
そうする事で、僕が起こしてしまった問題行動の数々を、ギルドの特殊クエストだった事にしてくれるらしい。僕の正体を知らされるのはルーシス校長含め、ギルドに関連する数名だけだ。
「本当、この事態はどう収めるんだよ……」
そう呟き、2階の窓枠に足を掛け、仮面の下から騒がしい会場を見渡す。
まぁ良いか、退学は免れたんだ。明日からはいつも通りの毎日、養成学校の日常へと戻る。
勿論、僕がSSSランクの冒険者なのは絶対に秘密だけどね。
これにて、一章完結となります。
二章からは毎日投稿では無く、サブタイトルを区切りにし、纏めて投稿して行く形になります。
仕事の都合で暫く休載になります。




