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無限の霧樹海 5

「次は木の槍で串刺しだったかな」


 指先で螺旋形の魔法陣を描き、挑発気味にそう呟いた。


 花竜は翠の眼をキョロキョロと動かし、機を伺う様に体勢を低く構えている。


 体内にあるエレメンタルを破壊した事で、花竜は魔法が使えない。普通の魔獣であれば、闘争本能のままに向かってくる所だけど……


 ドンッ!っと、鈍い音に地面が揺れる。


 同時に花竜が後方へ跳ね上がり、翼を羽ばたかせて上昇して行く。


「逃げるのかい? 君がルミネスにやった事でしょ」


 大樹から大樹へと飛び移りながら、巣の中を逃げる様に移動して行く。


 あの図体ですばしっこい奴だ。


「逃がさないよ、人間にも君達と似た魔法があるんだ」


 初級魔法の基礎の基礎、物体を伸ばすだけの変化の魔法。


初級魔法(オリジナル)・『変化(トランス)』」


 木に魔力を送り、枝を槍の様に変化させ、より頑丈に、より鋭利に強化する。


 飛行する花竜を目掛けて、上からズドン!っと頭部を貫いた。


 グオォォォォ!!と花竜が悲痛な叫びを上げるも、そのまま勢い良く地面に叩き落とし、串刺しにした。


 続け様にズドン! ズドン!っと手、足、尻尾、その全てを地面に縫い付けて行く。


 頭部の赤い花に木の槍が貫通し、溢れ出た緑の血液が、花竜の眼を伝って地面に流れて行く。


「結構タフだね、ちゃんと急所は避けてあるんだけど」


 侮辱され、僕を引き裂こうと必死にもがく度に、突き刺さった木の枝から緑色の血液が溢れ出す。


 流れる血液に反応し、花竜の体内に身を隠していた蜘蛛達が、うじゃうじゃと這い出てきた。


 もう花竜に戦う力は残っていない、時期に死に絶える。


 群がっていた蜘蛛の一匹が、威嚇音を鳴らし、弱った花竜の鱗にグサッ!っと牙を立てた。

 その1匹を皮切りに、他の蜘蛛達も花竜の体に牙を立て始める。


 花竜は何故、毒蜘蛛達に攻撃されているのか解らず、必死にもがいている。


「もう、蜘蛛達は君の言う事を聞かないよ」


 花竜の頭に生えていた大きな赤い花が、木の槍によって貫かれている。あの花が蜘蛛達が好む養分を作り出し、仲間と認識させるフェロモンを出していたんだ。


 花と言う、蜘蛛達にとっての利益が無くなる事で、共生していた2種の関係性が、一方的な寄生へと変化する。


 無残にも餌にされる花竜を、立ったまま見つめていると、傷の癒えたルミネスが真剣な顔をして歩いて来た。


「愚かな……仲間に裏切られた様ですね」


 共生は、お互いに利益があって初めて成立する。損得の関係に信頼なんてある筈が無い。


 肉を引き裂かれるも、蜘蛛達を蹴散らそうと怒りの咆哮をあげ続ける。


 尚も夜の樹海に咆哮が響き渡り、鱗と肉片が地に落ち、骨へと変わるまで、その光景を無言のまま2人で見つめていた。


 ※


 ルミネスが召喚した3頭のポイズンフォックス達も戻って来て、元気に花竜の死骸を漁っていた。


 残骸と化した花竜から蜘蛛達を払いのけ、ルミネスが翠の光を放つ『鉱石』を拾いあげた。


「綺麗な鉱石ですね、あの醜い花竜から生まれた物とは思えません」


 命を失った竜族の体の一部は、外気の魔力に触れると鉱石化していく不思議な特性がある。


 あれは、花竜の心臓が鉱石へと変化した物だ。鉱石は研磨して魔法石へと変える事で、優れた魔導具を作る事が出来る貴重な素材だ。


 手の平ほどの花竜の心臓を、転移魔法でリビングへ放り投げる。


 そろそろ出発しないとな。調査隊の人達が心配してる。


「さてと、樹海から出るよ。飛行魔法は使えそう?」


 背後にいたルミネスに問いかけると、黒い猫耳の毛を逆立て、不意打ちを食らった様な顔を見せた。


「い、いえ! まだ体の自由が効かなくて……あ、あの、その……ド、ドミニク様」


 なぜか俯き、もじもじとスカートの裾を摘むルミネス。


「どうしたの、ルミネス?」


 おかしいな、もう魔力も傷も完全に治ってる筈なんだけど……


 ルミネスは顔を真っ赤にして、俯いてしまった。


 あ、よく見たらメイド服がボロボロで、スカートが破けてるのか……ルミネスも女の子なんだな!


「おんぶするから乗って!」

「……はい!!」


 元気一杯で返事をしたルミネスを背中に乗せ、飛行魔法で樹海を出た。


 背中のルミネスは、僕の首元に顔を埋め、スゥーと小さく寝息を立てていた。


 地上を見下ろすと、綺麗に霧の晴れた夜の樹海が広がっている。


 まぁこれで毒耐性の無い冒険者が、樹海を探索できる様になったんだ。それに毒霧もいずれ元に戻るだろうし、別に問題無いよね!


 なかなかの言い訳を思い付くも、すぐにハァーっと深いため息をついた。


 調査隊の2人に、お礼を言って帰らないとな。


 綺麗な星空の中を飛行魔法で飛び回り、キャンプ地の方まで戻る。


 光のする方へと進むと、焚き火の近くでライトの魔法を放ち、まだ見回りを続ける調査隊の姿が見えて来た。


 アンソニーさんだ、まさか僕を待っててくれてるのか?


 ゆっくりと滑空しながら、焚き火の近くへと舞い降りた。


「アンソニーさん! 無事に見つかりましたよ!」


 大きく手を振ると、アンソニーさんは僕に気付いて駆け寄って来た。


「ドミニク! 無事か!? まったく大した奴だ……」

「ええ、危ない所でしたが……デリスさんはどこですか?」


「デリスなら本部に緊急の連絡に向かったぞ。樹海を浄化したのはお前だな?」


 げっ! やっぱり怒ってるな、どうしよう……


「ええっと、浄化しちゃ不味かったですよね?」


 アンソニーさんは髭面の顎に手を当て、何か考えを纏めている。


「難しい所だな……今はまだ何とも言えないが、今後のお前の処遇については、ギルドの責任者が決める事になるだろうな。とにかく、騒ぎになる前にここから立ち去れ」


「処遇ですか……色々とありがとうございました。またどこかで会えると良いですね」


 飛行魔法で宙に浮き、再びアンソニーさんの方へと振り返った。


「ドミニク! 心配するなよ! ルーシスの野郎には俺が話をつけといてやる。悪い様にはさせんさ」


 そう力強い眼で言い放ったアンソニーさんを見て、少しだけ心が安心し、夜空へ向けて飛び立った。


「ドミニク様、私のせいで何だか大変な事に……」


 背中の方からポツリと、か細い声が聞こえて来た。


「いや、僕の不注意だ。ルミネスは悪くないよ。今はアンソニーさん達に任せて、事の成り行きを見守るしかないね」


 今は流れに身を任せるしかないか、なによりルミネスが無事で良かった。


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