表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/158

無限の霧樹海 3

「まーた魔獣だよ、しつこいなぁ」


 稲妻に焼けた樹木と植物型の魔獣から、ブスブスと黒い煙があがる。


 前に来た時より魔獣達が凶暴化してる、魔神の魔力に刺激されて本能が活性化してるのか。


 ライトの魔法を頼りに、真っ暗な夜の樹海を彷徨い歩く。


 この広い樹海を闇雲に探すくらいなら、いっそ樹海から毒霧を消し飛ばすか? いやでも、調査隊の人達に顔を見られてるし、バレたら今度こそ退学だ……


 探索の授業の時と同じだ、何か策を講じるしか無い。


 何でも良い、何か些細な事でも樹海の変化に気付ければ、それがルミネスへと繋がる手掛かりとなる。


 息を止めていても、僅かに吸った毒が肺を蝕んで行く。


 ふぅ、もたもたしてる内に肺が熱くなって来た。そろそろ浄化の魔法を使おう。


初級魔法(オリジナル)・『エア・プリフィケイシ(空気の浄化)ョン』」


 妨害波に阻まれながらも、木の枝を掻き分け、樹海の奥へと進んで行くと、クゥーン……と微かに、獣の鳴き声が聞こえた。


 鳴き声のする方へ目をやると、毒々しいキツネが藪の方を歩いていた。


 ポイズンフォックスか、この樹海なら特に珍しくはないけど。

 

 すれ違い様に、チラッとキツネの方へ目をやると、一瞬、頭部に生えた興奮草が視界に入った。


 妙だな……ハーブ種の魔獣は、食べた薬草を体から生やし、外敵から身を守る。


 なら何で、興奮草なんて食べたんだ? あの毒草には気分を最高潮(ハイ)にさせる効果しか無いし、キツネが共生の相手に選ぶとは思えない。

 

 もしルミネスが、探索に優れた魔獣を召喚して、薬草採取を手伝わせていたとしたら……


 足を止め、背後からキツネ君の方へゆっくりと近づいて行く。


 元気が無いな、怪我でもしてるのか?


 キツネ君はグッタリとした様子で、必死に足を進め様とし、そのままパタッと地面に倒れこんでしまった。


「どうしたの!? 大丈夫かい!?」


 キツネ君に駆け寄り、急いで体を調べる。


 クゥーンと力なく鳴き、体毛を(まさぐ)られてくすぐったそうだ。首元には、確かに黒い『服従』の刻印が刻まれていた。


 当たりだ!誰かの使い魔で間違い無い。怪我はして無いけど、この症状は魔力切れだな。主人からの魔力供給が断たれたのか。


 召喚された魔獣は、自身の持つ魔力の最大値まで主人から魔力供給を受ける。何らかの理由で主人からの魔力供給が無くなると、使い魔もその魔力を失ってしまう。


 もたもたしてる時間は無い、心を読んで見よう。


 古代魔法・『読心(リードシンク)


「何があったの? 君のご主人様は?」


 僕の問いかけに、危険を伝える必死な鳴き声が返って来た。


《クゥーン (魔神の危機、漆黒の死滅)》


 ……漆黒の死滅だって?? ルミネスが死ぬって事か!?


 良し、樹海から毒霧を全て消滅させよう!


 思いっきりジャンプし、そのまま飛行魔法で霧を突き抜け、一気に空へと舞い上がった。


「やっとまともに息ができる! この辺りで良いかな」


 夜空から、不気味な紫色に光る樹海を見下ろす。


 はぁ、入学初日にして退学か、短い様で本当に短い学校生活だったな……


 ごめんなカレン、リーシャ、アイリス……あとついでにレオル。もっとみんなと遊びたかったよ。


本気複数詠唱フルチェイン・キャスト


 どこまで届くか解らないけど、最大範囲の浄化魔法を放つ!


 描いた黄色の魔法陣を、出来るだけ研ぎ澄ました物に、そして規模の大きな物へ。

 魔法陣から魔法陣へと、分裂する様に大量の魔法陣が展開され、夜空を黄色に染めていく。


 出来るだけ遠くへ、多くの魔法陣を展開する、1000、2000、まだまだ行けるな!


 上空から3000を超える天空魔法陣が、樹海の木々を覆い、幻想的に彩っていく。


「待ってろよ、ルミネス!!

 広範囲(ワイドレンジ)古代魔法・


『ワールド・エア・プリフィケ(世界の空気浄化)イション』」



 ※



 樹海に1人で潜入した少年の安否を心配し、ギルド調査隊の2人が焚火を囲んで帰りを待っていた。


 樹海調査の仕事は、樹海から草原地帯へ侵入してくる草木を、火の魔法で焼き切る事だ。

 給料はそこそこ良いが、一歩間違えれば即死。毒耐性があったとしても、引き受ける者が少ない汚れ仕事だ。


 不完全ながらも毒耐性のある、この道数十年のベテラン調査員、アンソニーと、魔法適性に優れた新人職員、デリスの2名に白羽の矢がたった。


「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ、アンソニーさん」


 さっきから、落ち着かない様子で貧乏揺すりをするアンソニーへ、部下のデリスが声をかけた。


「そうは言ってもなぁ、奴はまだ学生だぞ、こんな樹海で死なせるわけにはいかんだろ……」

「学生とは言っても、飛行魔法で宙に浮いたまま、大規模魔法を放てる魔法師ですよ、普通じゃ考えられませんよ」


 デリスは冷静に、ドミニクの事を分析していた。


 樹海の入口で魔獣に襲われた時、ドミニクが放った稲妻の魔法は『大規模魔法』だ。


 初級魔法と上級魔法の違いは、込めた魔力の量によって大きく左右される。


 魔法適性Aの魔力量があれば、上級の魔法を放つ事はそう難しく無い。しかし大規模魔法は、上級魔法に別の効果を2つ以上組み合わせた魔法の事を言う。


 普通は、賢者クラスの魔法師が、2人以上で魔法陣を組み合わせて放つもの。それをドミニクは1人で使っていた。


 それに『浄化』の魔法は、水から魔力抵抗値を無くし、聖水に変える為の魔法だ。毒霧を浄化して、正常な空気に変える事など出来ない。


 ハッと、デリスの思考が別の事件と結び付く。


「まさか雪山の大穴事件に、彼が関与してるんじゃ……?」

「洞窟が丸ごと吹き飛んだって事件か? 確かにアレも稲妻の魔法だったらしいが……まぁいい、それより辺りを見回るぞ」


 夜になり、とっくに終業の時間も過ぎていたが、まだ戻らない少年の為に再び調査を再開した。


「俺がライトの魔法を使いますよ」


 少しでも少年が見つけやすい様に、火を大きく焚き、樹海の入口を光の魔法で照らす。


 と同時に、パァーッと、樹海全体を太陽が照らしたかの様に光が包んだ。


「おいデリス、光を照らし過ぎだ! 眩しいだろ」


 アンソニーの言葉も上の空に、デリスは空を見上げ、そのあり得ない光景に呆然としていた。


「俺じゃありませんよ……」


 夜空に漂う、3000個の神秘的な魔法陣。


 人間が作り出したとは、到底思えないその浄化の魔法の光が、樹海全体を強烈な光で照らしていた。


「何だあの光は!? なぁデリス! ありゃ何の魔法だ!?」


 デリスは数千の魔法陣を見つめ、ドミニクが放った古代魔法だとすぐに確信し、その目的も理解した。


「樹海から毒霧を消し飛ばすつもりだ……只事じゃないですよ! 早くギルド本部に知らせましょう!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ