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無限の霧樹海 2

 ドミニクに薬草採取のクエストを頼まれたルミネスは、飛行魔法で空の散歩を楽しんでいた。


 通り抜ける風が、猫耳と白黒のメイド服を優しく撫でる。


「漆黒の風が心地良い……」


 ルミネスは言動が痛々しいが、立派な魔神だ。


 魔神とは魔獣を従え、恐怖と災いをもたらし、人間と敵対する存在。主に魔法適性が優れた子供の魂が、多くの憎悪にまみれる事で魔神へと生まれ変わる。


 人間であるドミニク様と自分は敵同士。宝玉に封印される前の記憶は無いものの、ルミネスは本能でそう察していた。


 漆黒の髪に隠れた首筋には、歪な黒印が刻まれている。これは、ドミニクがオリジナルの召喚魔法に組み込んだ『契約』の刻印だ。


「ドミニク様は人間……しかし、あの強さは……」


 やはり、ルミネスは腑に落ちない。


 天空魔法陣、ケルベロスの複数同時召喚、雪山で放った集団殲滅(せんめつ)の稲妻の魔法。どれも、人間が使える魔法の限界を遥かに凌駕している。


 そんな事を考えて悩むも、主人に頼まれた通りに樹海へと向かっていた。


 ※


 草原地帯を飛びまわった後、紫の樹海を空から見下ろす。


 ルミネスには毒耐性があり、肺の中で毒を浄化して綺麗な空気へと変換できる。しかし、微量ながら毒が体内に蓄積してしまうため、許容範囲を越えると悪影響を受けてしまう。


 タイムリミットは1時間。メイド服のポケットを漁り、興奮草を取り出すと、霧の中へと滑空していった。


 樹海に降り立つと、すぐにヌルッとした地面に足を取られる。


「きゃ!っとぉ! 危ない……足元が見えない」


 樹海は霧によって光が遮断され、湿度が高い。慎重に態勢を立て直し、すぐに召喚の魔法陣を描き始めた。


「出でよ!

  魔獣召喚・『ハーブ・ポイズンフォッ(毒キツネ)クス』


 宙に描いた濃い青色の魔法陣から、3匹のキツネが飛び出してきた。


 頭のてっぺんに毒々しい草が生え、体毛に独特な紫色のまだら模様のある、毒耐性を持ったキツネだ。


 3匹ともジト目で主人を見つめ、めんどくさそうに地面にダラダラと寝そべり始めた。


 ルミネスも、呆れた視線を3匹のキツネに返す。


 このハーブ種の魔獣は薬草を見分けて食し、食べたハーブが体から生えるという珍しい能力を持っている。


 生えた薬草は、魔獣の体内にある魔力を糧に育っていき。毒草であれば外敵を寄せ付けない効果があるし、薬草であれば宿主の体を癒す。ハーブと共生の関係にある魔獣だ。


 キツネは非常に賢い、故にサボり癖があり、イタズラ好きでもある。


 ルミネスは両手を腰にあて、ビシッと言い聞かせた。


「起きろキツネ達よ! この薬草を集めて来るのだ、サボっちゃ駄目だぞ!」


 クゥーンと棒読みで空返事をし、樹海の霧の中へと散って行くキツネ達。


「本当に解っているのか……」


 さて、自分も薬草採取だと意気込み。樹海の探索を開始したルミネス。


 暫し、樹海を彷徨い歩き、岩陰や、大樹の根元付近から興奮草の亜種をぶちぶちと採取して行く。


「どうやって抜くのだ? ふんっ」


 薬草採取は初めてのルミネスだったが、すぐにコツを掴み、採取は順調に進んで行った。


 更に樹海の奥へと侵入して行くと、少しだけ霧が薄くなり、見渡しの良い場所へと辿り着いた。


 樹海にこんな場所があったとは、そう驚き、丁度良い高さの岩に腰掛けた。


 ふぅーっと、毒霧の薄い場所で一呼吸する。


 さっきまでとは違い草木が少なく、地面の土色も目で確認できる。


 ふと、目の前に二つ並んだ大樹に目をやると、1mを越える大きな赤い花の隣に、興奮草が生えているのを発見した。


 採取しようとして、興奮草へと歩み寄ってしゃがみ込む。


 草に手をかけた時、不意に魔獣の気配を背後に感じて、反射的に振り返った。


 ズバ!!っと、いきなり、巨大な三叉の緑の爪に腹部を切り裂かれ、衝撃により地面をバウンドして茂みに吹き飛ばされた。


「くっ!」


 不意を突かれて唖然とするも、腹部の痛みと流血で目がさめる。


「擬態の魔法か……ただの花では無かったのだな」


 なんとか茂みから立ち上がると、興奮草の隣に咲いていた大きな赤い花が魔獣へと変貌していく。


 全身に花の装飾を纏った外見とは裏腹に、鋭い剣の様な鱗と爪、色鮮やかな擬態能力を持つドラゴン。


 巨大な『花竜』が、ルミネスを獲物として捉えていた。


「何故こんな所に……」


 この樹海では、毒耐性を持っていない生物は、猛毒により即死する。花竜は普通の森に生息する、毒耐性のないドラゴンだ。


 あの様に、毒の中で活動できるわけがない。


「分が悪いな……」

 

 花竜が使う植物系の魔法は、解除する事が出来ない上に、こちらの魔法は毒霧により発動が鈍る。


 接近戦で仕留めるしかないか、自分の数倍の大きさはある花竜へと向けて、ルミネスはひるむ事なく駆け出した。


《グオオ!

 植物系魔法・『(いばら)』》


 反応した花竜から呻き声と共に、植物系の魔法が放たれた。


 魔法が使えずとも、真っ向勝負で正面から叩き潰す。


 花竜の展開した魔法陣は16個。辺りの木々の枝が槍のように伸び、16の槍となってルミネスに襲いかかる。


 本能的に視覚で槍を捉え、体制をひねりながら手刀で木の槍を叩き砕いて行く。


 12本目の槍を砕いた所で、ルミネスの足が急にグラつき、耐えきれず膝をついた。


「なんで!! 体中の魔力が消滅していく……」


 目が回る、腹部の傷から毒が……


 そう焦った瞬間に、4本の木の槍がルミネスの体を貫いた。


 駄目だ、このままじゃ……


 そのまま力なく地に倒れこみ、視界が薄れていった。


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