表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/158

無限の霧樹海 1

 閉会式の会場でレオルや上級生に絡まれ、家に帰る頃にはすっかり日が落ちていた。


 リビングに入り、天井に設置されたライトの魔法石に魔力を込めて、部屋に明かりを灯す。


「ただいまー、散らかってるなぁ……」


 お菓子の残骸と雑誌を拾いながら歩き、カバンをソファーに投げた。


 ルミネスは、無限の霧樹海からまだ戻ってないのかな……試しに召喚してみるか。


 パパッと、ソファーの上に召喚陣を描く。


「魔神召喚・『崩壊魔神(ブレイカー)・ルミネス』」


 これでボトっと落ちてくる筈だ。


 部屋の真ん中に、逆さまの召喚魔法陣を展開し、座って暫く待つ。

 

 ……落ちて来ないな。


 何か問題があったのか? あそこは検索の魔法が使えないし、直接探しに行ってみるしか無いか。


 ※


 飛行魔法を使ってルミネスの魔力を追いかけ、紫色の樹海を空から見下ろす。


 ここまでか、魔力がこの辺りで途切れてる。


 冒険者ギルド、未探索地帯の1つ『無限の霧樹海』


 エリシアスの草原地帯に連なるこの樹海には、毒を空中に散布する毒性植物が多く存在する。


 この覆われた毒霧には、人間の魔力派を妨害する効果があり、検索や解析などの、光を飛ばす魔法が遮られてしまう。

 結界のあるエリシアスに位置しながら、猛毒により人間達の侵入を拒む。ここは植物達の聖域だ。


 駄目だな、上空からでも霧が視界を遮ってる……ん? あんな所にギルドのテントがあるな。


 草原地帯との境目、樹海の手前に見慣れたドラゴンのマークが付いたギルドのテントがあり、離れた所でギルド職員が木々の調査を行っていた。

 小太り気味のベテランっぽい職員と、細身の新人らしき部下の2人組だ。


 こんな樹海に人が来るなんて珍しいな、ギルドの調査隊かな?


 入って2秒で死ぬ、と言われるこの樹海では、毒霧を魔法で浄化するか、毒耐性がないと中に入る事が出来ない。


 自然界には、生まれつき毒を分解する特殊な肺を持った魔獣がいる。稀に人間にも、不完全ながら毒耐性に似た力が現れる事がある。


 確かルミネスも毒耐性を持ってるって言ってたけど、1時間程度の制限付きだ。早く見つけてやらないと、次第に毒の侵食が始まる。


 調査隊の上を通り過ぎようとして、シュルル! っと、何かが空を切る音が聞こえて来た。


 なんの音だ? 樹海から何か飛び出して来る!


 刺々しい葉っぱと、樹木に覆われた人型の魔獣が、体からぶら下がった長い(つる)を引きずりながら、調査隊目掛けて飛び出した。


「ふぅ、樹海の調査なんてやってられんな、この辺で切り上げるか。なぁデリス、聞いてるのか?」

「ええ、アンソニーさん……何か変な音が聞こえませんか?」


 魔獣の気配と、蔓を引きずる音にようやく気付き、2人がやっと警戒態勢を取った。


「やべえ、魔獣だ! テントまで戻って応援を呼んでこい!」

「くそっ! 魔獣の目撃証言なんて今まで無かったのに……」


 調査隊の2人は顔色を変え、後ろに仰け反りながら逃げ出した。


 もしかして対処できないのかな? ここから魔法で援護するか。


 背を向けて逃げる調査隊目掛け、植物型の魔獣が毒の棘を発射しながら迫っていく。


 樹海には高い木が密接している。うまく利用して魔獣だけを吹き飛ばそう。


 パチパチと、掌から電離したプラズマを発生させる。


「いくぞ! 初級魔法(オリジナル)


『リフレクション・ライトニ(連鎖の稲妻)ング』」


 上空からズバーンっと、稲妻の魔法を放ち、魔獣の近くに生えていた大木に避雷させた。


「おぃぃ! 稲妻が木に落ちたぞ!?」

「とにかく走ってください!」


 稲妻に驚いて躓くも、必死に体制を立て直し走る調査隊の2人。


 大木に避雷した稲妻が音を立て、調査隊を追いかける植物型の魔獣の背中にバチバチッ! と連鎖し、一瞬で体を粉々に吹き飛ばした。


「見たか今の!? 魔獣が消滅したぞ!?」

「アンソニーさん動かないで! これは動きに反応して連鎖する魔法です!」


 調査隊の1人が、僕の魔法の仕組みを一瞬で見抜き、仲間を制止した。


 あの一瞬で冷静な判断をするなんて、さすがギルドの職員だ。声を掛けるまでも無かったな。


「誰か空から降りて来ますね……」


 調査隊の若い男性が、僕に気付き空を見上げている。


 弱いモンスターだったな、使い魔ならともかく、あんな奴らにルミネスがやられるとは思えない、何かあったのかな……


 地上に降り立ち、調査隊メンバーと対面した。


「ギルドの調査隊の方達ですよね、怪我はないですか?」


 僕を見た調査隊の2人は、驚きつつも奇妙な目を向けて来る。


「ああ、助かった。俺はギルド調査隊のアンソニーだ。信じられねえ、見た所、学生か? 凄まじい魔法だったな」

「同じくデリスだ。1人で大規模魔法を放つなんて、一体どうなってるんだ?」


 小太りで貫禄のある髭おじさんがアンソニーさんで、若い魔導ローブを着てる方がデリスさんか。


「僕は養成学校のドミニクです、友達が樹海で行方不明なんです。何か解りましたか?」

「本当か!? 今の所は特にな、樹海の中は検索の魔法も上手く機能しないからな、見つけるのは難しいぞ……」


「俺達は樹海が広がらない様に、草刈りをやってるだけさ」


 やっぱり情報は無しか、どうやってルミネスを見つけよう……


「樹海は視界も悪いしな、毒耐性はあるのか?」

「いえ、耐性はありませんが、浄化の魔法で息を止めて入るので、3時間くらいは平気です」


「なるほど、浄化の魔法か……」


 もう時間が無い。とにかく樹海に潜るしかないか。


 樹海へと歩き出す僕を、アンソニーさんが真剣な眼差しで呼び止めた。


「夜の樹海は危険だぞ、本当に1人で行くのか?」


 そう問いかけて来たアンソニーさんの肩を、デリスさんが掴んで制止した。


「アンソニーさん……さっきの魔法を見たでしょう、俺達が着いて行っても足手纏いになるだけですよ」


 優しい人達だ、無事にルミネスを見つけたら安全を知らせに戻るか。


「何かあったら手を貸して下さい、じゃあもう行きますね!」


 心配する調査員に背を向け、1人で紫の霧の中へと踏み込んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 誤字報告無効なので  この覆われた毒霧には、人間の魔力派を妨害する効果があり、 魔力波かな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ