新入生歓迎会 8
太陽の遺跡から脱出し、熱気の漂う砂漠へと戻って来た。
スタート地点の方を見ても、まだ他の生徒達がやって来る気配は無い。
「ピーちゃんどこ行っちゃったの?」
「待ってて、今から調べて見るよ」
検索の魔法を空に向けて飛ばし、上空に残った微かな魔力を探る。
この反応は……少し遠いな。
「居場所が解ったよ、転移魔法で追いかけよう」
「おー!」
※
心地良い風が吹く、エリシアスの草原地帯へとやって来た。
「寝てるね……」
「イビキかいてるよ」
長く生えた草の茂みを風除けにし、ぽかぽか陽気に包まれた白いダチョウが眠り込んでいた。
恐らく、遺跡の上空からマッハ2で飛び去った後、慣れない飛行に魔力を使い果たし、徐々に減速。
そのまま眠り込む様に、草原地帯の茂みに着陸した様だ。
グターっと、長い首を地面に付け、眠るピーちゃんの体をカレンが両手で揺さぶる。
「起きてピーちゃん!」
重い瞼がパチッと開き、寝ぼけた顔で立ち上がると、じーっと僕達を見つめている。
《グエァー、クエー!!》
突然、鳴き声をあげ、ヤサグレたピーちゃんが何かを伝えようと、翼でジェスチャーを送って来た。
「どうしたんだろ、寝起きで機嫌が悪いのかな?」
「お腹空いてるんだよ、お菓子ならあるよー?」
原因が解らず、不思議そうにカレンも首を傾げていた。
《クエー!!!》
うーん、ゴールデンエイジの魔法で、気性の荒さを取り戻しちゃったのか?
荒ぶるピーちゃんを、なんとか転移の狭間に誘導し、養成学校へと転移した。
※
ピーちゃんを引き連れたまま、養成学校の広場を見渡す。
歓迎会で人が借り出され、数名の上級生だけが疎らにベンチに座っていた。
「スタート地点にいた上級生は、戻って来てるみたいだね。フレバー先輩を探そう」
「見つけたよ! あの人、多分飼い主さんだよね?」
広場のベンチの背もたれに、ダラっと腕を掛けて座るフレバー先輩を発見した。
《クエッ!?》
先輩目掛け、ピーちゃんが白く短い尻尾を振りながら一目散に走って行く。
《クエッ クエッ》
「おかえりピーちゃん! もう戻って来たのか、大丈夫だったか?」
白いモフモフの体毛と、嬉しそうに戯れるフレバー先輩に声をかけた。
「お疲れさまです。無事に歓迎会クエストは終わったんですけど、ピーちゃんと途中ではぐれてしまって……」
「ビューンって、飛んでっちゃったんです」
「ドミニク先生か、歓迎会で何があったんだ?」
《クエー》
隠していてもしょうがないので、素直に事の成り行きを説明した。ピーちゃんを魔法で強化した事、ブレーキを付け忘れた事、その他諸々。
話を聞いたフレバー先輩は動じる事なく、むしろ飛べる事には喜んでいた。
良かった良かった、一件落着だな。
後は閉会式を残すのみとなり、人気の無い校内をカレンと話しながらのんびり歩く。
「ねえ、ピーちゃんにブレーキ付けなくて良かったの?」
「良いんだよ、これ以上、ピーちゃんを改造するのは悪いしね。例えマッハで飛んだとしても、ピーちゃんはピーちゃんなんだって」
「そっかー、改造する前に気付けば良かったね」
それからカレンと食堂でご飯を食べ、閉会式まで数時間待たされた。みんな遺産集めで時間をロスしていたようだ。
※
閉会式の会場に、怪しいファラオの仮面を被った生徒達が集まっていた。
僕とカレンも黄金の仮面を被り、列に並ぶ。
シュールだな、誰が誰だか解らない……ピクシー会長は保健室かな?
拡声の魔法により全員が席に着くと、カルナ先生による力強い挨拶が始まった。
「新入生の皆さん、お疲れ様でした。
スタート地点で嵐が起こったとか、遺跡が地震で傾いてるとか、遺産のスフィンクス像が氷漬けになってるとか、多々クレームがありましたけど、先生は挫けません!
では、最も優秀であったパーティは前に出て来て下さい。ドミニク、カレンパーティ」
僕等が1番か、全然探索しなかったし当然だね。
カレンと2人で列から離れ、舞台に上がった。
クエスト用紙を取り出したカルナ先生の眼が、徐々に死んだ魚の様に変わって行く。
「えーと、ドミニク、カレンパーティのクリアタイムは、スタート地点から遺跡攻略まで……6分です」
6分か、まぁまぁのタイムだな! 会長の相手をしてタイムロスさえしなければ、1分切れたよな?
ん? みんな騒ぎ出したぞ?
「6分!? 嘘だろ、他の1年は2時間以上かかってんだぞ」
「ダチョウが音速で走らなきゃ間に合わない計算だ、あいつ多分『ビーストテイマー』か何かだな」
僕がビーストテイマー!? なんか誤解されてるな。
「じゃあ猛獣が凄いだけで、あいつは普通の奴なのか?」
「多分な、黄金のファラオだけど」
感情を失ったカルナ先生から、『拡声の魔導具』を手渡された。
「はい、じゃあ代表してドミニク君、何か一言お願いしまーす」
一言か……よーし!
ファラオを被った生徒達の視線が集まる中、右腕を突き上げ、高らかに宣言した。
「次回は30秒以内にクリア出来るように頑張ります!!」
「がんばろー!」
「おい、誰かあの黄金のファラオを自重させろ!」
「駄目だ、カルナ先生が遠い目をしてるぞ……」
こうして新入生歓迎会は無事に終わった。ケルベロスの件もあり、どうやらみんな僕の事をビーストテイマーだと思っているらしい。
そして、ダークスピリット曰く、ピーちゃんは置いてけぼりにされて拗ねていた様だ。鳥なのに甘えん坊だな!




