新入生歓迎会 7
遺跡の揺れも収まり、サクサクと砂の通路を進んで行く。
遺跡の通路は石板で作られたトンネルになっていて、通路の途中に砂漠の部屋が幾つかあった。
「まったく……これじゃあ二度手間よ。あんなふざけた魔法を使う必要なんて無かったんだわ」
不満気なピクシー会長の愚痴が、僕の背後からブツブツと聞こえて来た。
「そうですか? ファラオの位置を探るには、有効な手段だったと思いますけど」
「ファラオならどこにでもいるわ、試しにどこか部屋の中を覗いてみなさい」
そう言って会長が、通路の途中にあった部屋を指差した。
部屋の入口の淵に手を付き、カレンと一緒に中を覗きこむ。
最初の部屋と同じで、天井の無い砂漠の部屋だな、ん? 誰か居るぞ……
部屋を見渡してみると、ダボっとした古代衣装を着たファラオが、床にコロコロとボールを転がし、飼い犬と遊ぶ様にスフィンクスと戯れていた。
「あれがファラオ? 普通に公園に居るおじさんみたいだな」
「あんまり王の威厳とか無さそうだね」
確かにこれなら、無理に狙撃魔法を使わなくても良かったな。
ファラオを観察するも特に何も起きず、すぐに見飽きたので部屋を後にした。
再び、魔力を辿りながら通路の奥へ進む。
「壁だ……ここで魔力が途切れてる」
「ドミニク、足下に穴が開いてるよ」
通路脇に開いた謎の穴の中へと、魔力の反応が続いていた。
穴の周りに焦げた植物が絡まってる、ここを稲妻の弾丸が突き抜けて行ったんだな。
「これは隠し通路だわ……元々は植物の蔓で覆われて隠れていたのね。入ってみましょう!」
先に穴に入ろうとした会長を、カレンが制止し、恥ずかしそうにジト目を向けてくる。
「ドミニクが先頭だよ、私達はスカートなんだからー」
「はいはい」
ほふく前進で狭い通路を進み、焦げ臭い小部屋へと這い出た。
ここは財宝の隠し部屋だな。古びて欠けた宝石類、錆びた剣と鎧の残骸が部屋に散乱し、絨毯や布類は稲妻の魔法によって黒焦げになっていた。
ファラオは消し飛んじゃったみたいだな、このままだと仮面が回収できない……
「ドミニク君、貴方もしかして手加減とかって出来ないの?」
「いえー、したつもりだったんですけど……」
3人でゴソゴソと黒焦げの部屋を調べる。
「あれ? 良く見たら1つだけ宝箱が残ってるじゃん」
瓦礫を除け、埋もれていた赤色の宝箱を取り出した。
「カレン、開けてみてよ」
「私が開けていいの?」
カレンがフタを両手で力一杯持ち上げると、砂がサラサラと落ち、中から『ファラオの黄金仮面』と『スフィンクスの黄金仮面』が表れた。
ピクシー会長が駆け寄って来て、宝箱から仮面を取り出した。
「まさか……これは黄金仮面だわ! 遺産の中でもレア中のレアアイテムよ」
「カレンは幸運スキルがあるから、そのお陰もあるんじゃない?」
「なのかな? 被ってみよ」
普通の仮面は安い素材の物らしいけど、これは黄金で作られた1級品らしい。
カレンが猫耳の付いたスフィンクスの仮面を被り、軽く肩を叩いて来た。
「そう言えば、会長って何しに来たの?」
「うーん、暇だったんじゃない?」
※
ロビーに戻るには、来た時と同じ様に転移の祭壇を使う。
幸い、最初の部屋に祭壇があったので、それを使って遺跡のロビーへと転移した。
無事にクリア出来た! なかなかの好タイムが出たんじゃないのかな?
「私が報告して来るから、貴方達はここで待ってなさい」
「え? どうしてですか?」
「べ、別に……深い意味は無いわ!」
何故かピクシー会長が、1人でクエスト完了報告に行くと言い出したので、後ろで待機する。
クエスト用紙は、遺跡で手に入れたアイテムやクリアの時間等を読み取り、成績のランク付けまでしてくれるらしい。
遠目に見ていると、受付のケロリアさんは不思議そうにクエスト用紙を受け取っていた。
会長の背後から、2人の会話に聞き耳を立てる。
「ピクシーちゃんどうしたの? 妙に早いけど途中で戻って来たの?」
「とにかくクエスト用紙の鑑定をお願いします」
なんとも言えない表情で、クエスト用紙を見つめるピクシー会長。
「そう、ピクシーちゃんがリタイアなんて珍しい事もあるんだね」
一一一一一一一一一
【養成学校特別・タイムアタッククエスト】
【遺跡クリアタイム】:5分 22秒
【入手アイテム】:ファラオの黄金仮面
:スフィンクスの黄金仮面
【総合ランク】:S
一一一一一一一一一
「総合ランクS!? 何があったの!? このクエストはゴーレムも出るし、最低でも20分以上かかる筈なんだけど」
「ま、まぁ私の引率もあったので、生徒会としての力を見せ付けてあげましたよ」
腕を組み、澄まし顔で虚言を吐くピクシー会長。ケロリアさんは信用しきってる様子だ。
「そうなのね、さすがピクシーちゃん! 養成学校の妖精ちゃんだねー」
「ふふっ、生徒会長として当然ですわ!」
自慢気に受付を済ませた会長が戻って来た、かなりの好タイムだったみたいだな。
「終わったわよ!」
「終わったわよ、じゃないですよ。ピクシー会長は何もやって無いじゃないですか……」
「ずるーい、ドミニクの手柄を取っちゃダメですよ」
確か会長は、ボーッと突っ立ったまま『無理よ!』とか『あり得ないわ!』とか言ってただけだ…… この人意外とせこいな!
「まあ良いじゃない。ドミニク君、カレンさん、これに着替えて着なさい」
「何ですかこれ?」
高級そうな黒い生地の服とズボンに、黄金のベルトと首飾りの付いた『古代衣装』と『黄金仮面』を会長に手渡された。
「クリア報酬のアイテムよ、売ればお金になるけど今回は売っちゃ駄目よ」
「もしかして、これを着て閉会式にでるんですか?」
「毎年恒例だって言ったでしょ、今年の『キング・オブ・ファラオ』の称号は貴方達の物よ」
「わーい、私のもある! スフィンクスだ」
古代衣装はSランクでクリアしたボーナスらしい、遺跡の更衣室でカレンとお揃いの古代衣装に袖を通し、仮面を被った。黒髪のカレンは黄金の装飾とのギャップが合ってなかなか可愛い。
思ったんだけど、遺跡を同じ手順で高速周回して仮面を売れば、そこそこ稼げるのかな? まぁ仮面は変装にも使えるから、今は大事に取っておくか。
着替え終わった僕達の元へ、ピクシー会長がやって来た。
「閉会式まで大分時間があるから、2人は先に学校へ戻ってなさい。私は他の生徒の引率もしなといけないし」
「解りました、学校に戻ろうかカレン」
「うんー、じゃあね会長さん」
遺跡の端の方まで離れ、怪しまれない様に仮面を被り転移魔法を使う。
「古代魔法・『空間転移』」
ブィーンと、現れた転移の狭間に片足を突っ込み、2人で会長に手を振った。
転移魔法に気付いた会長が、叫びながら猛ダッシュで迫って来た。
「ちょっーと!! 待ちなさい!! 貴方、やっぱり古代魔法が使えるの!?」
「あ、走って来た! 速っ!」
「危ないよ、挟まっちゃうから早く閉じて!」
「きゃあっ! うげっ」
大理石の床に足を滑らせ、ゴロゴロと盛大に転がる会長をなんとか振り切り、転移の狭間を無事に閉じた。
見栄を張った天罰だな! さて、ピーちゃんを迎えに行ってから学校へ戻るか。




