新入生歓迎会 6
この探索クエストのクリア条件は、魔獣『キング・オブ・ファラオ』を見つけ出し、その仮面を奪う事だ。
この広い遺跡からファラオを見つけ出すには、些細な事でも調査し、手掛かりを集める必要がある。
石板のゴーレムか……まずは調べてみよう。
警戒しながら砂の上を歩き、ゴーレムの石板に近づいて行く。
石板の数メートル手前に足を踏み入れると、急に石板が光りを纏い、ブォォっと奇妙な音を鳴らした。
「やばい、もう気付かれたみたいだ!」
6つの石板が宙に浮かび上がり、歪に引っ付きながら、頭、胴体、手、足と、ゴーレムを形作って行く。
数秒もしない内に、石板が3m級の砂色のゴーレムへと変化した。
ブランっと両手を砂地に着け、四足歩行で動き出した。
ただの木偶の坊に見えるけど、使われている石板の魔力耐性がかなり高いな。
「退がってて下さい、少し調べてみます」
「それ以上は危険よ! そのゴーレムに魔法は通じないわ!」
「だったら、魔力耐性を強引に削り落とすまでです」
先手必勝だ、指先で描いた魔法陣をコピーして24層に重ねる。
「24連詠唱・初級魔法・
『ライトニング・スピアー』」
距離を取ったまま、ゴーレムの右側面に回り込み、右手で稲妻の魔法を放り投げた。
ズバーン!! と、ゴーレムの左肩に稲妻の槍が突き刺さり、石板の魔力耐性によって一瞬にして拡散された。
やっぱり駄目か、怯む気配すら無いな。
攻撃に反応したゴーレムが、ゆっくりと僕の方へその巨体を向ける。
ピクシー会長が、危険を察知して声を上げた。
「早く逃げなさい! 魔法は通じないと言ったでしょう!」
「確かに魔力耐性は高いですけど、問題ありませんよ」
拡散したライトニングの魔力が集まり、空中に稲妻の槍を作り出して行く。
反撃の隙は一切与えない、この稲妻の魔法は24連続で敵を貫く。
再び生成された稲妻の槍が、ゴーレムの左肩にズバーン! と突き刺さった。
変わらず拡散されるも、続け様にライトニングが突き刺さり、石板から魔力耐性の効果を削り落として行く。
「仕上げです!
初級魔法・『ストーンバインド』」
掌から飛び出した魔力の縄が、魔力耐性を失ったゴーレムの左肩に、ズバ!っと突き刺さった。
バインドの魔法は、魔力の『縄』を飛ばして敵を縛り上げ、自由を奪う。相手が魔法で動く無機物で有れば、コントロールを奪う事も可能だ。
《ブオオォォ……》
ゴーレムは奇妙な音を鳴らし、大きな石板の腕を振り回して抵抗している。
捕縛の縄に魔力を送り込み、ゴーレムの操作権を完全に奪うと、すぐにピクリともしなくなった。
「終わりましたよ、近くで見てみましょう」
「あ、あり得ないわ。魔力耐性を魔力で弾き飛ばすなんて……」
ゴーレムの石板に触れ、魔法を解析してみる。
……やっぱり、こいつはただの石板だ。
クエスト情報に載っていた『キング・オブ・ファラオ』は、知能を持つ人型の魔獣だ。
このゴーレムを操作していた可能性は極めて高い。もしそうなら、ファラオはこの近くに居る筈だ。
「時間は限られてます。ここから狙撃の魔法を使ってファラオを撃ち抜きます」
「何を言っているの? まだファラオの居場所すら解って無いじゃない」
「いえ、このゴーレムの石板を利用すれば可能ですよ。よっと!!」
捕縛の縄に魔力を送り込み、ゴーレムをバラバラと石板の状態に戻した。
「ファラオがこの石板に刻んだ、ゴーレム化の魔法陣を『魔力吸収』の魔法陣に書き換えます」
『魔力吸収』の魔法は、放出した魔力に空気中の魔力を吸わせ、再度体内に吸い寄せる性質がある。
その性質を利用すれば、石板がファラオの元へと案内してくれる。
「無理よ、魔法陣はイメージで描く物、既に完成された魔法陣を書き換えるなんて不可能だわ」
確かに会長の言う通り、魔法陣はイメージや直感で描かれる。それを書き換えるには、魔法陣から構成魔力数を読み取り、並び替える必要がある。
「可能ですよ。見てて下さい。
初級魔法・『魔力操作」
魔力操作に吊られ、石板からファラオの魔力が糸の様に伸びて来た。
この魔力の糸を1度分解し、『魔力吸収』の魔法陣に書き換えていく。
「そんな……こんな事、絶対にあり得ないわ……」
実際に書き換えているのを見ても、ピクシー会長はまだ納得できない様だ。
「終わりましたよ、あとはこの石板を高速で発射するだけです」
石板がバチバチと稲妻を纏い、宙に浮かび上がった。
「初級魔法・狙撃魔法・
『ライトニング・スナイプストーン』」
詠唱と共に、稲妻の弾丸が部屋の外へと飛び出して行った。
石板に埋め込んだ僕の魔力から、周囲の障害物を感知して軌道を僅かに修正する。
上手く飛んでる、後はライトニングの魔法を炸裂させるだけだ。
「飛んでっちゃったね、当たるかな?」
傍観していたカレンが、僕の制服の袖を掴んで来た。
「順調に飛んでるよ、稲妻の魔法が炸裂する仕組みになってるから、簡単には回避出来ないと思うよ」
そろそろか? ファラオの魔力に近付いて来た。
指先を動かすと、連動して石板の軌道も変わる。
見つけた……この魔力は石板と同じ、ファラオだ!
ファラオに最接近した所で、石板に込められた魔力を爆発させると、ズドーン!! と大きな爆発音がし、グラグラと遺跡が揺れた。
「よし! 倒せたかな? 確認しに行こう」
「あわわ、遺跡が揺れてるよー」




