称号
机にステータスカードを置いたまま深呼吸し、窓の外の青空を見て心を落ち着かせる。
ふぅ、面倒な事になった、まさかステータスカードが壊れてる何てな……
眉間にシワを寄せ、そんな事を1人で考えていると、隣の席に癖っ毛の金髪美少女のリーシャが座っている事に気付いた。
隣の席だったんだ、ん? 何やら小さな手でカードを握り小刻みに震えてる。
もしかして魔力の込め方が解らないのか? 話しかけるチャンスだ!
「あ、あの初めまして、僕はドミニク。困ってるみたいなら手伝おうか?」
「え!? は、初めまして! 私はリーシャだよ。うん、さっきからやってるんだけど上手くいかなくて……ドミニク君教えてくれる?」
「勿論だよ! 手を貸して」
やっぱり魔力を込めた事が無いんだな。リーシャの隣に立ち、カードを握る綺麗な両手に僕の手を重ねる。
「ド、ドミニク君!? 手が!? は、恥ずかしいよ」
「すぐ終わるから大丈夫だよ」
柔らかそうな白い頬を染め、綺麗な青い瞳が泳いでる。
か、可愛い……こっちまで恥ずかしくなって来た。
リーシャの掌に魔力が浸透しやすくなる補助魔法をかけると、直ぐにステータスカードが光り出し文字が浮かび上がって来た。
「上手くいったみたい! やったよー、ありがとう!」
「いえいえ、もう手は離して大丈夫だよ?」
「ごごごめんなさいっ、ドミニク君の手あったかくてついっ!」
無意識に僕の手を掴んでいたリーシャは慌てふためき、顔を真っ赤にしていた。意外と緊張しやすい娘なんだな!
他の生徒はどうだろ、ん? あれはさっきのお坊っちゃま君だ。椅子の上に立ったりなんかしてどうしたんだ?
数人の生徒がお坊っちゃま君の席に集まり、教室中に響き渡る声で祭り上げ始めた。
「凄え!見てみろステータス称号『占い師』の現代魔法『B』がでたぞ!」
「ギーシュ・プラネックス君よ、見た目はアレだけど凄いわ」
「見た目はアレだから全然占って欲しくないけど凄い!」
興奮する生徒達に煽られ、お坊っちゃま君も鼻息を荒くし満面の笑みでステータスカードを見せびらかしている。
「当然さ!プラネックス家の次男としてこの位はね。僕より魔法適性が高い奴なんていないだろ? なんせ僕は『B』ランクだからね、はははっ!」
名前はギーシュか……椅子が壊れそうだ、早く降りた方が良いんじゃないかな。
「ぐへへ、リーシャちゃん……」
ギーシュがまたこっちを見てる! さっきからリーシャの方をチラチラ見て意識してるのバレバレだよ、多分実らない恋だろうけど頑張ってね……
ギーシュの不気味な視線に気付いてすらいないリーシャと、ステータスカードの話に戻る。
「ドミニク君って学者の称号なんだねっ、凄いなぁ将来は素敵な旦那様だね!って私何言ってんだろっ!?」
「ありがとう、リーシャの称号は料理人なんだね、お嫁さんにピッタリの才能だね」
「お、お嫁さん!? えへへ、そんな事ないよー」
恥ずかしそうに手で顔を隠すリーシャの頭から、モクモクと湯気が出て来た。煙突みたいだな……
リーシャと楽しく過ごしていると、何故か一瞬背筋がゾッとした。
前の席から視線を感じるなー……って! カレンがこっちを凄い表情で見てる! 怖いよ、なんだあの顔!
追影先生が生徒のカードを見て回り称号を確認し終えると、みんな席を離れて生徒同士でステータスカードを見せ合って盛り上がり始めた。
腕を組んだお坊っちゃま君ことギーシュが、ズカズカと僕の机へと向かって来る。因縁でもつけに来る気かな……
「おいドミニク、お前の称号を見せてくれよ」
「やあギーシュ君、どうぞ」
座ったままの僕を見下すギーシュへとカードを手渡した。カードには称号しか表示されていないので、適性ランクがバレる心配は無い。
僕のカードを確認するとプルプルと震え始め、顔から汗が噴き出して来た。
「な!? 学者の称号だと!? トリックを使ったな卑怯者め! どうせ魔法適性は無いんだろ? はははっ」
「まぁそんな所かな、君には興味無いから用が無いならあっちに行って貰えるかな?」
お坊っちゃま君は僕の態度に血相を変え、鼻息を噴射している。
「何だと! プラネックス家を馬鹿にしてるのか!? その内僕の『B』ランクの魔法に跪く事になるからな! けっ!」
プライドの高いお坊っちゃま君の解りやすい挑発に乗る必要はない。適当に嫌味を聞き流すと、捨て台詞を吐きながらドスドスと、自分の席へと戻って行った。
僕達の喧嘩に気付いた追影先生が、すぐに自分の席に座る様に声をあげた。
「良し、喧嘩はそこまででござる! 今から筆記試験を行うので席に着け!」
気を取り直して筆記道具を準備し、裏向きに配られた問題用紙を見つめながら開始の合図を待つ。
集中力が高まって来た、今の僕なら裏からでも問題を透視出来そうだ! 試験中の魔法の使用は禁止されてるけどね。
いざ筆記試験だ、生産問題あるかな!