新入生歓迎会 2
親鳥は生まれたてのヒナの翼に、飛行をサポートする魔法陣を刻み込む習性がある。
翼が退化したのは、何らかの理由で飛ぶ事をやめ、使われなくなった翼の魔法陣が劣化したからだ。
その理由を探り、ダチョウ君を最も飛行能力に優れていた時代の姿に戻す。
「……改造って何するの?」
クエストの攻略法を探る僕に、カレンが不審な目を向けてポツリと呟いた。
「説明してる時間は無いよ、かなり高度な魔法を使うから、暫く話しかけないでね」
「はーい」
《クエー》
生物の生態に関する情報は、血液の中に魔力情報として眠り、子孫へと受け継がれて行く。
黄色に光る神秘的な魔法陣を、ダチョウ君の胴体に向けて描き、呪文を唱える。
「古代魔法・遺伝子覚醒魔法・
『エインシェント・ゴールデン・エイジ』」
魔法陣から飛び出した黄金の光が、ダチョウ君の体内に侵入して行く。
この魔法は、血液中に眠る魔力情報から生物の生態を探り、眠っている遺伝子を覚醒させる事が出来る。
別に知りたくも無いダチョウ君の生態が、僕の頭に流れ込んでくる。
この白いダチョウ種は、飛行能力を捨てて砂漠を走る事に特化した走鳥種だ。
移動は勿論、商人が荷馬車を引くのに使う事もある。
野生のダチョウは砂漠に縄張りを作り、群れで生活する。大きな特徴は巨大な卵だ。長径約11cmの大きさがあり、その大きさは竜族の卵にも匹敵する。
「……何で僕は、ダチョウの生態なんて真面目に考察してるんだろう」
「動物博士みたいだね」
続いて、最も重要な翼の遺伝子を読み込んでみる。
……おかしいな、この翼に刻まれている飛行魔法には『速度制御』が組み込まれていない。これで空を飛ぶなんて自殺行為だ!
現代のダチョウ君は知能がより発達し、飛行魔法の危険性を理解して飛ばなくなった。
これが翼が退化した答えか……元は命知らずで、気性の荒い鳥だったんだな。
翼の魔法陣をより早く、強力に、効率の良い飛行魔法に書き変える。
「今の飛行速度じゃ遅すぎるから、音速で飛べる魔法も組み込もうかな。
初級魔法・『ノンストップ・マッハ』
《クェエエエ!?》
黄金の光に込められた古代の魔力が、血液中に眠った遺伝子を覚醒させる。
カレンが心配した様子で、ダチョウ君の胴体を優しく撫でた。
「大丈夫ー? 巨大化してくよ?」
「本来の姿に戻してるんだ、痛みは無いよ」
全身の骨格がメキメキと太くなり、エインシェントゴールデンエイジの魔法により、白かった体毛は黄金の輝きを帯びていく。
翼はドラゴン族の様に大きく伸び、体長2m程だったダチョウ君の体が、5mを超える立派な鳥へと進化した。
成功だ、ステータスを見てみよう。
《クエェー!》
一一一一一一一一一一一一一
『名前』:ホワイト・エンジェル・バード
『種族』:鳥
『性別、年齢』:♂ 10歳
『移動能力』:加速 SS
:持久力 S
:飛行 S
『ステータスカード称号』:神聖鳥 :飛行鳥 :マッハ2
一一一一一一一一一一一一一
マッハ2だ! そこそこ早いぞ。この鳥は元々『神聖鳥』だったんだな。
遥か昔、古代のエリシアス地帯、その結界中心部を『聖域』と呼び、そこで生まれた人間や生物達は、神聖なる者として崇められていたらしい。それでこの鳥には天使の名が組み込まれてるのか。
クエーッと、低い声で鳴くダチョウ君を可愛がっていると、見覚えのある先輩が声を上げながら走ってきた。
「ドミニク先生ー! はぁはぁ……」
膝をつき、息を切らしているのは、安全ゴーグルを首にぶら下げた鍛冶部のフレバー部長だ。
「フレバー先輩? そんなに慌ててどうしたんですか?」
「ドミニク先生、何で俺のピーちゃんが巨大化してるんだ!?」
ピーちゃん……? このダチョウ君はフレバー先輩の使い魔だったのか。
「えーっと、進化させちゃいましたよ」
「進化させた!? 後でちゃんと返してくれよ、俺の相棒なんだ」
《クェ》
フレバー先輩が、優しくピーちゃんの顎の辺りを撫でると、気持ち良さそうに目を閉じ、大きな翼をバサバサと揺らした。
「解りました! タイムアタッククエストが終わったら、ちゃんとお返ししますね」
「頼むぞ……まぁ、ドミニク先生なら心配無いか」
召喚も無事に終わり、生徒達がダチョウの背にまたがって行く。
気のせいか、みんなの視線がピーちゃんに集まって来てる。
「おい、あの1年が乗ってるのって本当にダチョウか? 大き過ぎるだろ……」
「あー、ありゃ成長期なんだろ、そーいう鳥もいるさ」
勝負が始まるって言うのに、一体何を話してるんだ……?
再びカルナ先生が、拡声の魔法陣を描き始めた。
「では、タイムアタック・クエストを開始します! 1羽大きなダチョウが混じってますが、先生は絶対に関わりたくないので無視しまーす、 位置についてー!」
まだ誰もダチョウを進化させて無いな……のんびりしてて良いのか?
よーし遺跡までぶっ飛ばすぞ!




