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薬草研究会 4

 あれから調合を繰り返す事、数回……結果は同じだった。


 調合に失敗した毒薬入りの容器が、机の木目に沿ってコロコロと転がって行く。


「まーた失敗だ!」

「あらら、何がいけないの……」


 ポリポリと頭を掻きながら、落ち着いて思考を整理する。


 調合に使っているレッドハーブは『薬草』だ。


 回復系の魔力を保有する草の事を『薬草』と呼び、それに対して、毒系の魔力を保有する草の事を『毒草』と呼ぶ。


 薬草から猛毒が出来る訳が無い、もしかしてこれは普通のレッドハーブじゃないのかな?


 調合に使った薬草を摘んで、じっくりと観察してみる。


「このレッドハーブ、葉の形が微妙に違う……」

「そう? ただのレッドハーブに見えるけど」


 いや、別の薬草に似てる……この葉の形は興奮草か?


「もしかして、この薬草には毒草の魔力が含まれてるんじゃ無いのかな?」


 アイリスもハーブを摘み、目を細めてじっくりと観察し始めた。


「校舎裏の森に、毒の魔力を持つ興奮草が生えてたんだ。元は保管室に植えていた物を、何か異変が起きて隔離してたんじゃないのかな?」


「興奮草って言ったら、猛毒の樹海に生えてるレア草だよね? どうやってそんな物手に入れたんだろ」 


 カレンが実技試験の日に見つけたあの興奮草は、抜くと毒の成分が飛び散る様に、遺伝子が組み換えられていた。


 あの飛び散った成分に含まれる魔力が、ビニール室内を汚染した結果、レッドハーブの持つ魔力の特性が変わってしまった可能性が高い。


 もしそうならば、調合により毒素が高められ、猛毒のポーションが出来たのにも納得が行く。


「無限の霧樹海に生える毒草は、茎の部分にしか毒素が無い筈だ」

「そうなんだ? 試しに葉の部分だけを切り取って調合してみようか」


 アイリスが器用に素手で、薬草の葉だけを取り分けて行く。


 年季物のガラスの容器に、聖水とすり潰した葉だけを入れて煮込む。


「これで上手く行くかな?」

「駄目なら普通のレッドハーブを探しに行こうよ」


 暫し、グツグツと沸騰する聖水を見つめていると、妙な異変に気付き、アイリスとお互いに目を見合わせた。


 本来は赤くなる筈のレッドポーションが、何故か無色透明なままだ。


「何で透明なんだろう? ステータスカードをかざして見て」

「うん、行くよ」


 不思議そうに、アイリスがステータスカードを調合器にかざした。


 一一一一一一一一一


『名前』:特殊調合・エリクサーR


『素材』:赤薬草(特殊)、聖水


『品種』:神聖ポーション


『薬品ランク』S


『回復力』:S


『蘇生力』:S


『薬品影響度』:0.01%

【薬品が体にもたらす悪影響】


『ステータスカード称号』:神薬 :神聖回復薬


 一一一一一一一一一


「神聖ポーション……ドミニク君! これSランクのエリクサーだよ! あわわ、実積どころじゃなくなってきたよ!!」

「成功だね! まさかレッドハーブからエリクサーが出来るなんて……」


 奇跡的だな、たまたま遺伝子を組み換えられたレッドハーブが、神級の効能を持つ薬草に変化したのか。


 喜びもつかの間、グツグツグツ!と、大きな音を立て容器の中の液体が暴れ始めた。


 見た事の無い異常な光景に、僕達の額から妙な汗が流れ出た。


「あれ……何か様子が変じゃない?」

「まさか、爆発したりしてー」


 嫌な予感が当たり、調合器に入っていたエリクサーがいきなり膨張して、ドバーッ!っと容器から溢れ出して来た。


「うそ、溢れ出してきたよ! どうしよう!?」

「バケツバケツ! 完成薬品を入れるタンクがあるから全部そっちに移そう!」


 アイリスが持って来たバケツに、慌てて調合のガラス容器を放り込む。


 尚も膨張を続けるエリクサーを、バケツごとザッパーン!と巨大なタンクへ放り込んだ。


「ドミニク君! まだ膨張してるよ!」

「不思議だね、水の質量って増加しない筈なんだけど……」

 

 更に膨張を続け、最終的に鉄製のタンクに付いていたガラスの目盛り100Lにまで到達してから、沸騰が収まり、ピタッと膨張が止まった。


「凄過ぎるよ、こんなに大量のエリクサーが!」

「このタンク、蛇口がついてるね。捻ってみよう」


 排水口の上にある錆びた蛇口を回すと、水道の様にジャバジャバとエリクサーが出てきた。


「ポーションは一週間もしない内に腐っちゃうし、勿体無いから生活水として使い切るしかないね」

「エリクサーの出る水道って斬新過ぎないかな……」


 2人で部室にあった紙コップを取り出し、試し飲みしてみた。


「うーん、結構美味しいよ!」

「本当だ、美味しい……」


 エリクサーはなかなかの味だった、今度フルーツでも入れて飲んでみよう。


 何にせよ、レッドハーブ程度の低コスト素材で、高ランクのポーションが作れる事は解った。部室の水道代わりにもなるし、コスパは最高だ!


 ※


 ドミニクとアイリスが妖精言語部に向かっている間、顧問のルイスは廃部取り消しの交渉の為に、校長室を訪れていた。


「失礼しまーす。薬草研究会の顧問、ルイスです。入部希望の書類を持って来ました。確認をお願いしまーす」


「ふむ、早かったな。見せてくれ」


 ルーシスが入部届けに目を通すと、確信した様子で後ろにいたイルベルに頷いた。


「やっぱり、私の予想通りドミニク君とアイリスちゃんかい? 今年の薬草研究会は才能に恵まれているね」


 2人の思惑など知る由もなく。ルイスは首席と次席が部に入ったのだから、廃部される事は無いだろう。そう思いつつ本題を切り出した。


「あのーそれで、廃部の話なんですけど……」


「その件じゃが、薬草研究会には王都で開催される『学会』に参加して貰う事になった。そこで実績をあげれば廃部は撤回じゃ」


 ルーシスの思いも寄らぬ言葉に、ルイスは無意識に大きな声を漏らし、すぐに口を押さえた。


「えぇ!! めんどくさぁ……」


「学会は様々な研究の成果を披露する場なんだ、調合部門は1滴だけで『100万G』の価値がある『エリクサー』の開発に力を入れている、彼なら調合レシピに少しは貢献できるかも知れない」


「そうなんですかー解りましたー」


 思っていたよりも面倒な流れになり、後半から話を聞き流していたルイスは、反論する事も無く校長室を後にした。



 ※



 実績を残すなら薬草研究会の名義を使い、冒険者ギルド経由でエリクサーを販売するのが手っ取り早い。


 給水タンクの蛇口から、ジャバジャバと出て来たエリクサーを販売用の瓶に詰める。


 1本『100ml』のお手軽サイズを試しに5本作り、部室の台に並べて作戦会議を始める。


「レッドポーションの相場が『500G』だから、初めは特別価格として半額の『250G』でギルドに売り出そう」

「ちょっと安過ぎないかな? でもドミニク君にまかせるよ! 売り出す前にルイス先生に許可を貰わないと」


 生産コストを考えれば一般的なポーションの半額の値段『250G』で充分だ。


 エリクサーは、レッドハーブ『1本』から『10L』生産できる。

 販売用の『100ml容器』に入れれば『100本x250G』で『2万5000G』の売り上げになる。


 エリクサー専用のハーブ室を作れば簡単に大量生産できるし、まさしく『ゴールドハーブ(金の薬草)』だ!


「まだ入部申請も出てないだろうし、ルイス先生宛てに販売許可の申請書を書いたら食堂でも行こうか」

「うん、お腹空いたよー。申請書は私が書くからね」


 完成した販売用のエリクサーを木製のケースに入れ、アイリスが綺麗な字で書いた申請書を貼り付け、机の上に置いた。


『特殊調合・エリクサーR 1本 250Gにて販売許可をお願いします』ペタペタっと!


「じゃあ行こうか、ここの食堂って凄く美味しいらしいよ」

「そうなんだ? 楽しみだね、何食べようかなー」


 料理部が作ってるから美味しいに決まってるよね! ってあれ? この話、誰から聞いたんだっけ……?


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