薬草研究会 2
妖精言語部を目指し、薬草研究会の部室を後にした。
調合には、魔法で水を浄化した『聖水』が必要だ。
ウォーター系の水魔法を発動すれば、簡単に水を生み出す事が出来る。
しかし、魔力を通した水には魔力抵抗が生まれ、浄化の魔法を打ち消してしまう。これは調合の基本だ。
蓋付きの給水タンクを持って、部室のある校舎裏から広場へと進む。
「どうしてレッドハーブから毒薬が出来たのかな……ドミニク君はどう思う?」
「枯れてる様にも見えなかったけどね、もう少し調合してみないと解らないよ」
ルイス先生から聞いていた通り、妖精言語部の部室は、芝生に噴水が設置された高級設備があり、一際目立っていた。
僕達が噴水に近付くと、半透明のフェアリー達が空中に現れ、フワフワと辺りに漂い始めた。
「見てアイリス。これはスノーフェアリーの亜種だね、妖精族は水場を好むらしいよ」
「それで噴水に集まってるんだね。妖精言語を使えばこのフェアリー達と会話できるの?」
「ちゃんと会話するには、精霊クラスの魔獣にならないと無理だね」
魔獣にも言葉がある。僕達、人間には理解出来ない特殊な魔力派で通じ合ったり、魔獣の言葉を使い会話する。
その内の1つが妖精言語だ。多分、スノーフェアリーが発する威嚇したような声を解読して、研究する部活動なんだろう。
噴水を迂回し、一見お城のような屋根付きのテラスに入り、扉の前で部員を呼んでみる。
「すいませんー、薬草研究会なんですけど。誰か居ませんかー」
「人の気配がしないよ、中に入ってみる?」
扉の取っ手を掴み、引っ張ろうとして突然、背後から声をかけられた。
「あら? 首席のドミニク君じゃない」
すぐに振り返ると、噴水の前に優雅に立つピクシー会長と、付き人っぽい男の先輩が居た。
隣に居るのは2年生かな? 紺色の短髪、真面目そうというか硬そうな雰囲気の仏頂面で、黙ったまま僕を見ている。
「ここは妖精言語部よ、もしかして入部希望かしら?」
「いえ、初めましてピクシー会長。部活で使う水を分けて貰いに来たんです。この子は薬草研究会の仲間です」
「初めまして、アイリスです。ポーション調合にお水が必要なんです、分けて貰えませんか?」
水を貰いに来た事を話すと、何故かピクシー会長は不敵に笑い、試すように口を開いた。
「お水が欲しいなら、噴水の下に蛇口があるわ。でも、無料であげる訳にはいかないわね」
「どうすれば良いんですか?」
「簡単なテストよ、見てなさい」
会長が指先で小さな魔法陣を描くと、魔力に反応して噴水のフェアリー達が集まって来た。
「ここは妖精言語部よ。妖精の言葉を理解出来るのは選ばれた優秀な生徒のみ……貴方にフェアリーの声が聞こえるかしら?」
そういう事か……妖精の声を聞けば良いんだな。
僕は前に『読心』の魔法をスノーフェアリーに使った事があるので、言葉なら少しだけ理解できる。
恐らく会長達、妖精言語部の人達は、生まれつきフェアリー種と魔力波のタイプが似ていて、言葉を感覚で理解できるみたいだ。
「解りました、おいでフェアリー君」
漂うフェアリーに優しく手を添え、ソッと耳を傾ける。
《ハラヘッタ、タベモノヨコセ》
うーん……相変わらず口が悪いな! 食べ物何てここにはないぞ。
「見た感じ、お腹が空いてるみたいですね」
僕の回答に、ピクシー会長は眉間にシワを寄せ黙り込み、付き人っぽい先輩は何を思ったのか、すごい剣幕で僕に詰め寄ってきた。
「おい1年! 俺は生徒会メンバーの2年、ジェイコブだ。黙って見ていたが、どうやら生徒会を舐めてるようだな?」
ええ? なんつー言いがかりだ……会長へ、答えを促す視線を送る。
「このフェアリー達は、生徒会への服従の意思を見せているのよ。少し難しかった様ね……」
全然違うだろ?? もしかしてこの2人、妖精言語が理解出来てないのかな?
「まぁ良いわ。ここからが本題よ。ドミニク君、生徒会に入る気は無い?」
「なっ!? 会長! こんな薬草オタクを生徒会に入れるつもりですか?」
僕を生徒会のメンバーに? さりげなく先輩が僕の悪口を言ったのは、聞かなかった事にしよう。
「ごめんなさい、僕は薬草研究会で忙しいので、生徒会には興味がありません」
サラッと入会を断ったのが癪に障ったのか、得意げに2人が生徒会の素晴らしさを説いてきた。
「俺はお前なんて必要ないけどな、1年の癖に生徒会入りを断るのか? 解除魔法が得意なくらいで調子に乗るなよ」
「考え直しなさい、例え魔法適正が低くても貴方の解除魔法はかなりの物よ。生徒会に入って経験を積めばBランクの冒険者になるのも夢じゃないわ」
黙っていたアイリスが、2人の失礼な態度を見兼ねて前に出た。
「言いがかりはやめて下さい! ドミニク君が困ってますよ」
暫し、無言のまま睨み合い、空気が凍って行く。
まいったなー、どうしたもんか。
突然、ジェイコブ先輩が噴水の周りに漂っていたフェアリーに魔力を送り始め、睨み合いの均衡が崩れた。
「ジェイコブ先輩? 何をする気ですか……」
「あれは攻撃魔法!?」
僕を指差し、睨みつけ、魔力の矛先を向けてくる。攻撃の指示を妖精に送ってるのか?
「生徒会に興味が無いだ!? 調子に乗るなよ1年が! 自慢の解除魔法で防いで見ろよ!
妖精魔法・『ウォーターウインド」
妖精達が噴水に魔力を込めると、攻撃魔法が発動し、水がシュバババ!と回転しながら僕へ向けて飛んで来た。
何が起きたんだ? 魔法陣が全く見えなかった……妖精達が隠蔽の魔法で、先輩の魔法陣を隠してたのか。
危険を察したアイリスが、瞬時に身構え、僕へと叫んだ。
「ドミニク君! 防御魔法を早く!!」
「大丈夫だよ、アイリス。すぐに終わらせるから」
ジェイコブ先輩は、既に発動済の魔法を『解除してみろ』と言っていた。
『解除』の魔法は、魔法陣を崩壊させる魔法だ。既に発動してしまった魔法は、解除する事が出来ない。
やってみろって事か……こんな高度な事で後輩を試すなんて、さすが生徒会だ。
まぁ、あの規模の魔法なら、簡単に素手でかき消せるけどね……




